困惑のぱんちらいん その1
「宇宙には空気がなかったよ。あ、宇宙っていうか星界? だっけ?」
同じ日の夜。
【Wonderland Tea Party】のクランハウスでのお茶会だ。
クランリーダーの†バーニング娘†、メンバーのあいす・くりぃむ、それから別クランだが協力者の仕立て屋のベル。ついでになぜかNPCの錬金術師メリー。あとうさみ。以上五名がお茶会の参加者である。
そのうちあいすはウィンドウを開いてなにか作業中で、メリーはるな子とじゃれていた。なんで自分がここにいるのかわからないので小動物と戯れることで心の平静を保っていたのである。もふもふ。
実はバニさんが帰る途中目に付いたので拉致されただけだったのだが。
「でも、代わりじゃないけど魔力で満たされてたよ」
「それで、宇宙、いえ星界? のことに夢中で合流できなかったということですの?」
ちょっとわくわくで報告してきたうさみに、バニさんがにっこり笑って尋ねる。笑っているのに威圧感がある。
うさみはあ、これダメなやつだお怒りだと直観し、弁解を試みた。
「いやその、あっちに飛ばしちゃった竜のひととか星光竜さんとか探してたんだよ。見つからなかったけど。それよりそっちはどうだった? ウサギさんふれあい広場」
話をそらそうとするうさみに対し、バニさんはうさみのほほに手を伸ばしてむにゅーっと挟んだ。
「うにぁ」
「ええ、ええ。もう盛況でしたわよ。あの場に集まった方々の多くが寄って行ってくださいましたから。ねえメリー?」
「え、あ、そうですね?」
空が太陽を取り戻してすぐに、ウサギさんふれあい広場がオープンしたのだ。ナイスタイミングだったといってよい。
落ちてきた星のかけらの鉱石を配布するついでに宣伝もしたのだ。プレイヤーだけでなく、NPCの人たちも参加してくれ、大盛況をこえて大混乱になりそうだった。なんとかなったのは、事前にいくらかでも話を通していた冒険者ギルドに人員整理を急遽押し付けることができたおかげであったという。冒険者ギルドのひとお疲れ様です。
ウサギさん、つまりモンスターと人間が“遊ぶ”空間。
これはゲーム内の世界観からしても異質なものだったが、直前の大事件の解決に双方が協力していたという事実があり、そのあとの何となくの勢いもありで、狙っていた顧客のプレイヤーだけでなく街の人たちも取り込めたのだった。
実際にどういう催しなのかはまたの機会においておいて、自分で企画したイベントがうまくいったらしいと聞いてうさみは微笑もうとしたが、ほっぺをむにむにされていてぷひゅうと空気を吐いただけに終わった。
「話を戻すけど、結局あれ、隕石? どういうことだったの。なんとなくしかわかってないんだけどさ」
「えっと、つまりゲート? ワープ? みたいな魔法の実験中の事故というか」
ベルさんが苦笑いしながら尋ねる。うさみが話そうとしたのでバニさんは肩をすくめて手を放した。
星を落とす魔法を試した。それは、星界浮かぶ岩塊の直近にゲートをつないで、ひっぱりこんで落とすという仕組みだった。
そして使ってみたはいいのだが、変なやつに乗っ取られ、ものすごいでっかい岩塊がこっちに落ちてきそうになった。
魔法の制御の奪い合いになりバタバタしているうちに変なやつを星光竜さんが追い返してくれて、その時星光竜さんはゲートの向こうへ。魔法は強制終了。
そしてでっかい岩塊の先っぽだけがこっちに残った。
あとは知っての通り、落下を食い止めていたところにバニさんから連絡があったり六体の竜が現れたりなんやかんやで送り返した。
「で、星を落とす魔法からゲートを開く部分を切り離して移動できるようになったから竜のひとたちを迎えに行ったんだけど見つけられなかったんだよね。変なやつもいなかったし。空気なくて死んだし」
「ま、また死んじゃったのね……。 それにしても、その変なやつというのが気になるわね」
「星の悪魔とかなんとか言ってたかな、変なやつ。宇宙人みたいな、でも羽が生えてて。星光竜さんとは仲が悪そうだったけど」
「星光竜の関係者ですか。とすると超高レベル向けのイベントですわね。対象プレイヤーは現状うさみだけですけど」
「こんな感じ?」
変なやつの話を掘り下げていると、あいすがウィンドウをうさみにむけて表示した。みんなでのぞき込むと、そこにはグレイ型宇宙人に蝙蝠の翼をはやした人型が描かれていた。
「あ、そんなかんじ。もうちょっとがっしりしてたかも。羽も蝙蝠じゃなくてプテラノドンみたいな」
「ん、こう?」
「そうそう、そんなかんじ。それで色がねえ……」
さささっと修正を施していくあいす。手慣れた様子にうさみは感心しきりである。
そして完成した絵には“星の悪魔”とロゴを入れられた。
「すごいねえ」
「ふふふ。ついでにドラゴンの見た目、こまかいところも教えてほしい」
「いいよ、えっとね……」
得意気に胸を張ったあと、次のお絵描きタイムにうさみを巻き込むあいす。
それを見て、バニさんとベルさんは目を見合わせて肩をすくめた。
「星界に敵対勢力がいて、うさみが不意打ちで追い込まれるレベルとなると、私たちじゃ歯が立たないわね」
「暫定レベル200オーバーでしょうか。イベントの進捗があったとしても、当分はうさみ任せになりそうですわねえ、悔しいですけど」
プレイヤーの最高レベルは現在60を超えたくらいだといわれている。うさみのように外界との連絡を絶っていたり、情報を意図的に隠していなければの話だが。装備品がレベルに比例して装備可能になるので、生産系クラスの情報にアンテナを張っていればある程度把握できるのだ。
で、まあそんなレベルなので3倍以上の適正レベルのイベントにまともに関われるのは当分先になるだろうという話である。今回のような大規模な事件になってしまうと解決をゆだねるしかないのが歯がゆいところだ。
と考えていたのだが。
「あー、えっと、わたし一か月しかゲームできないから、その」
「「「え」」」
「そのー、一身上の都合で?」
「「「えええーーーーーー!?」」」
バニさんとあいすとベルさんがそろって叫び、メリーがビビってるな子をぎゅうと締め付けた。
ぷ。
るな子が鳴いた。




