困惑のあちーぶめんと その13
下から見ていると、ピンク色の光の円が広がったかと思うと、破砕音が鳴り始め、そのあとピンクの光が消えて空が見えるようになった。
円筒状にくりぬかれた巨岩の内側が、本物でない月の光で照らし出され、そしてそれは落下していた。
「おい落ちてる!」「やべえ!」「神様!」などなど様々な悲鳴が上がる。
幸いといおうか、直上に関しては何もない、すなわち円筒の内側である。
しかしながら、この円筒、壁面が崩壊しつつあるのが見て取れたのである。
くりぬかれているとはいえ巨大質量。強固で衝撃に強ければ落下してもとりあえずセーフ助かった、となるかもしれないが、崩壊して崩れてくるのならその限りではない。土砂崩れの要領で飲み込まれる未来が容易に想像できる。
ついでに言えば、もしこの場にいるものが助かっても、別の場所には直撃するのだ。具体的にはスターティアの街は巻き込まれる。それくらいの距離感。
要するにやばい。
「あれは!」
月から五つの光が飛び出した。
同時に、光の円が10個、円筒のふちに沿って展開、拡大する。
その円も、岩塊をくりぬいたものと同じものであった。ただし、そのサイズは小さい。だが10個ある。
円筒のすべてを覆うことはできなかったが大部分はカバーできた。落下が止まる。縁に引っかかったためだ。
続いて轟音。
「引っかかった衝撃で崩れだしたか」
ウサギさん仮面が胸を押し上げるように腕を組んだまま、上空を見つめてつぶやいた。
その結果どうなるかといえば、光の円がカバーできていない部分の落下が再開する。
はじめと比べれば随分と質量は減った。
しかし、数は10に増え、崩れはじめて流動的になっている。
強固な塊で重心さえ押さえれば止められるというのであれば、まだ何とかなるような気がする。
だがこうも崩れてしまっては。
10の柱と化した岩塊だったものが崩れ落ちてくるのが見える。
「あ……ああ……」
誰かが悲嘆の声を漏らす。
そして――。
□■□■□■
「これで終わり……ふう、ぎりぎりだったね」
□■□■□■
追加で五つ光の円が展開され、さらに残り5本それぞれに向かっていた5つ光が追い付いた。
そして柱は下から削り取られるように砕かれ光をまとって散弾のように弾き出される。
だるま落とし。
飛ばされていくかけらには月の色と同じ光が宿り、どこか遠くへ飛んでいく。その景色は流星雨のよう。
見る見るうちに削られその質量を減らしていく5本の柱。
そして欠片の一部が皆が集まっている場所へと飛んでくる。
小さな光る石ころか、と思いきや距離の正で大きさを見失っていただけで十分に岩塊といえる一メートル以上の塊だ。それがものすごい速さで飛んでくることに気づいた時にはすでに至近距離だった。
「逃げ……!」
誰かが叫ぶ。間に合わない。岩塊は偶然か、ウサギさん仮面へと。
「ふむ」
ぐちゃりと潰れたりはしなかった。
ウサギさん仮面は腕を組んだまま微動だにしなかった。
「落下制御……いや【衝突防止】か。――安心せよ、これは衝突することはない。当たる前に減速し、ゆっくりと落下を再開するので直下にいないようにだけ気を付けるがよい」
ウサギさん仮面の言葉は、身を固くしたり対応しようとしたり逃げようとしたりなにもできなかったりしていた人々に響き渡った。
よくわからないがとりあえず大丈夫なのだ、と理解した人々の多くはため息をついた。さっきから緊張と弛緩が交互にやってきて割としんどい。みんな疲れてきていた。
光る岩塊がゆっくりと音もなく着地する。まとっていた光が消える。
ウサギさん仮面がそれをポンポンと叩いて。
「しかし、【ミーティアライト】か。高ランクの希少鉱石が含まれているようだな、これは。よし、これを砕いて集まったものへの褒美としよう」
ウサギさん仮面の言葉は、人々に響き渡った。
ざわり。
また変わった雰囲気をしり目に、ウサギさん仮面ぴょんことはねると上空を飛ぶ光る石をぺぺいっとひっぱたいてまわる。
たたかれた石や岩がさっきまでウサギさん仮面がいた場所に山と積み重なった。
「こんなものか」
「あの、ちょっと見せてもらっても!?」
お土産用の石の山に着地したウサギさん仮面に、有名な鍛冶クラスが集まるクランのリーダーが話しかける。
ウサギさん仮面は鷹揚に許可を出し、改めて上空を見上げた。
その上空では今まさに残った5本の柱が片付こうとしていた。
一つ二つと片付いて、最後の一つが打ち出される。
五つの光も、飛んで行った光る石や岩に混ざってか消えてしまい。
残ったのは月と、その上に座す存在。
地上の喧騒の中にいて上空を気にしていたものは見た。
ピンクの光がもう一回開いて何かが飛び込むのを。
そしてそれと同時に月夜の空が青空に変わったのを。
こうして、超巨大メテオストライク事件とのちに呼ばれる事件は終わったのだった。




