困惑のあちーぶめんと その12
うさみが立ち上がった。
『行くの?』
『うん』
『お気をつけて』
『ありがとね』
人が大勢集まってる広場の端っこ、目立つはずのメンバーがいるのに不思議と注目されていなかった一角で。
時間もないし、こまけぇことはあとでお茶会でしようねってことで休憩に努めたうさみ。
出撃である。
「それじゃあ、ウサギさん仮面。お月様、もらっていくね」
「うむ、あとはまかせた」
端っこと、真ん中と、間にたくさんの人がいたにもかかわらず、その声は通じた。正確には、今までのウサギさん仮面の声同様に、周囲の空間全体へ響く声だった。
そして、声と同時に、周囲の様子が変化したことに鋭いものは気が付いた。
しかし、うさみが満月の夜の結界ごと魔力を受け取ったことで起きた変化であると気づくことができたものはあらかじめ知っていたものを除けばいなかった。
「オープンゲート!」
という声が最後に響くと、人々の集まりのはずれに黒い門が開き、そこに誰かが飛び込んだ。
うさみである。
が、その姿を見たものはほとんどいなかった。
しかし、月の上に何者かが現れたことに気づいて声が上がるまでにはそれほど時間はかからなかった。
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「お月様に腰掛けるなんてふぁんたじっくだよね」
月の上に腰掛けたうさみはつぶやいた。遠近法とかそういうのじゃなく、普通に腰掛けていた。
実のところ大きさとかそういうのはあんまり意味がないのだ。月であればいいのであって。
なのでちょうどいい足場として利用することにしたのだった。
そしてうさみがさて、と上を向くと、るな子が飛び込んできて顔面で受け止めてへぶっ。変な声が出た。
そんな一幕ののち、るな子をわきに置いて改めて上を見る。そして気分的に両手をのばす。特に意味はないけど何となく。もう時間がない。始めよう。
「オープンゲート。隕石逆落とし!」
うさみが魔法を使うと、紫よりのピンクの光をたたえた円が上空に出現し、高速で拡大していく。そしてそれと引き換えに周囲の魔力が急速に消費されていった。
「ん……」
光の円は竜をまとめて閉じ込めた、間もなく解除される時間超停滞空間を挟んで巨大隕石の直下、同心円状に拡大していく。
「あ、やば、魔力足りないや」
うさみのつぶやきと、様々なものが動き出すのは同時だった。
時間の停滞が解除され、竜の速度が元に戻る。
同じく空間に落下を止められていた隕石の落下が再開。
これは同時であり、竜たちに逃げる暇はなかった。
結果、光の円に押し付けられ、その姿を消し。
そして隕石は光の円に引っかかる。
光の円の直径が、隕石のサイズよりも少しばかり小さかったのである。
だから引っかかったのだ。
が、それで終わらない。
「そうなるよねえ」
隕石が自重と衝撃で圧壊しドーナツ状にくりぬかれる形で落下を再開したのであった。
光の円の正体は、元の【隕石落とし】の魔法の上下をひっくり返し、さらに落とすべき隕石がない場所につなげたものだ。
【隕石落とし】の魔法は星界の隕石がある場所に空間の裂け目を開いて目標の位置に落ちるよう呼び込む魔法であり、つまりその逆というのは星界につながる門、ゲートを広げたということだ。
しかしながら、その範囲が足りなかった。
距離とか規模とかが消費魔力に影響するのだ。
今回、地上で莫大な量のMPが集められた。これは一プレイヤーが扱うものとしては想定以上の規模であった。
でもたりなかったのだ。半径十キロメートルを超える大きさの隕石が丸ごと通れるほどのサイズのゲートを開くには。
このまま落ちればドーナツ状の巨大な円筒が地面に突き立つことになるだろう。そしてそのあと衝撃で崩壊してどしゃんだ。
中心部がくりぬかれている分、そのまま落ちるよりはましだろうが、十分に大惨事といえる規模の破壊が起きるに十分だ。
「あーあ」
うさみは目を閉じた。




