困惑のあちーぶめんと その11
空を走る五つの光がらせん状の軌道を描いて一か所に集まった。
それを追うドラゴンもまた、集まることになる。
一つの光を六体のドラゴンが取り囲む。
その時、魔力を感知する能力を持っている者たちは強烈な魔力の発動を感じ取り、一斉にその方向を向いた。
同時に、光が消え、そこには何もなくなったように見えた。
暗視能力を持たないものは、ドラゴンが光を倒したものと思い、中には悲鳴を上げるものもいた。
しかし、暗視能力を持つ者は、突然、ドラゴンも、消え失せたという。
話が錯綜し、空を見上げていた人々はざわめきながら、何か希望につながる情報はないかと視線を凝らす。
ほどなく、一つの光が発見される。月の影から現れた光は、移動を始めた。
流星のごとく、スター平原の人々とウサギが集まる場所の上空まで来たかと思うと、静止、いやこれは。
「落ちてきてる!?」「場所をあけろ!」「大丈夫なの!?」
落下。
月と同じ色の輝きを放つ存在が、上空から落下を始めた。
強い光がその正体を判別することを妨げる。
しかしそれが落ちてきていること、そして落ちるであろう場所は早々に割り出され、人々はその落下地点を避け、遠巻きに囲むことを選んだ。
そしてウサギさん仮面が一歩二歩と前に出る。
さらに、人とは一定の距離を保っていたウサギたちの一部が、輪の内側に飛び込んだ。飛び込んだウサギたちはぴょんこぴょんこと上を向いて跳ねる。月と同じ色の光に向かって跳ねる。
特に統率が取れているわけではないが、その姿は幻想的な風景だった。
デフォルメされたウサギたちが、月の光を浴びながら、思い思いに飛び跳ねる、童話のような光景だ。
その真ん中に、光が自由落下。
どかん、ぺしゃ、とはならなかった。
着地の直前に落下速度が急激に低下したのである。
同時に光の強さも薄れ。
多くのものが見守る中、現れたのは。
「「「「「ウサギ!?」」」」」
月の光とおなじ白金色の光をほのかに放つ耳が生えた毛玉。
周りでぴょんこぴょんこしているものと同じ系統の生物。
ウサギであった。
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ウサギであった。
あっれ、うさみどうしたのかしら。
まわりが空から落ちてきたウサギに沸く中、バニさんは首を傾げた。
準備ができたことを伝えるメッセージの後の大きな動きであったので、てっきりうさみが帰ってきたのだと思っていたのだが。
人を集めて魔力を集める。時間がない中ではまあ上出来なほうだろうと自分では評価していた。
しかし肝心のうさみが帰ってこないとなると……。
口元に手を当て、考えようとしたところで裾を引かれる。くいくい。
引かれた方に視線をやると、うさみがいた。
『いやなんかいっぱい人がいるし。それより、あいすごめんねちょっと失敗しちゃって約束してたのに』
周りの注目がウサギさん仮面がるな子にニンジンを与える姿に集まっている中、うさみはバニさんとあいすを端の方に連れ出して、まずはごめんなさいした。
『うさみー、マンガのネタにさせてくれたら許してあげる』
『マンガ? えっと、はずかしくないやつならいいよ。ああ、あとベルさんにも謝らないと』
『あの子は向こうで別の知り合いをまとめてますわ。そういえば服は?』
どうもうさみは気が急いているようで、昨日より早口である。話の回し方も雑だった。
『全力で動いてる間に破れちゃって消えちゃったんだ。じゃあ後かな。あと五分くらいしか時間がないから』
うさみは初期装備に戻っていたのだった。飾り気のない地味な服。装備品が何らかの理由で破損すると倫理上の理由からか自動で装備される仕組みなのである。
『わかりましたわ。まずこれ、街にあった中で最高品質のMPポーションです。飲むかかければ一定時間MP最大値を上昇させてMPを大回復しますわ』
『これも食べて。MPにかかわる精神値が一時間、増える飴』
ガラス瓶に入った液体と親指の爪くらいのサイズの飴ちゃんを渡されたうさみはさっそく口にする。
『まっず!』
液体、MPポーションはまずかった。苦いくてしぶい。飴ちゃんは甘かったのだけれど、特に中和されるわけでもなく合体してエグくなった。ぐえー。
『体に振りかけても同じ効果が出ますわよ』
『それを先に……あ、言ってたねぇ……』
飲むかかければと。
かけた。
『あとはウサギさん仮面から受け取ってくださいまし』
『うん、わかった。えぃ、っと。こんなに集まるとは思ってなかったよ、ありがとね』
お礼を言いながら回復したMPで魔法を使う。
MPがあればとは言ったものの、うさみの認識では、トッププレイヤーの一角だというバニさんであってもうさみの運用する量と比べると桁が違う。それも一つではない。
しかし、うさみよりも手が広いしゲームの知識もあるのもまた事実である。
なので何かできることは、と訊かれたときに、期待半分、もう半分はだめでもともとということで頼んでみたのだ。
正直、大勢動員し数で補うという発想は、うさみにはなかった。頼んでみたのは正解、いや、大正解だったというわけである。
逆にバニさんからしても、うさみの一見チート級の能力、ステータス上のMP以外の、体外の魔力を扱うという技術があったからこそ有効な結果を出せたわけで、お互いをねぎらいながらも、相手をうらやましく思っていたのだった。
そしてうさみは地面に腰を下ろして本格的に休憩に入る。実は大の字に寝ころびたかったのだが、自重した。いっぱい人がいるので。
バニさんとあいすもしゃがんで、わずかな時間を情報交換しながら過ごすのだった。




