困惑のあちーぶめんと その10
「MPが減った時、回復するタイミングの感覚を意識して感じ取るようにすると気づきやすいよー」
「魔力を感知できるようになった方はこっちに! 魔力操作と魔力回復系スキル講習3周目はじめまーす!」
「危険な環境だと獲得経験値がふえますわ! チャンスですわよ!」
月の光の下に集まった人々の中心近くでは、スキル講習が行われていた。
最先端の魔法使いプレイヤーであるところのうさみが、魔法使いにとって重要と述べたスキル群である。
【魔力感知】【魔力操作】そして三種の魔力回復系スキル。おまけに【魔力回復】や【魔力増加】スキルもついてくる。
この催しの主催者の目的はこの場の総魔力量を増やすことであり、同時に参加者への餌のひとつでもある。
集まったはいいが具体的にすべきことがないプレイヤーの多くが参加し、また、街の人からも少なくない参加者が出ていた。
はじめ指導に回ったのはイベントNPCとしてプレイヤーに認識されたウサギさん仮面である。
人々が集まり始めたのを確認したところで、大勢のウサギさんたちをその大仰な所作とともに呼び出し、さらには頭上を蓋われているにもかかわらず月を呼び出したことで、強力なキャラであるとプレイヤーに納得させ、あとは「イベント」という名目もあり、流れで状況を持って行ったのだ。
「諸君! 天を蓋うものを排除するには魔力、MPを集めねばならない!」
なるほど、そういうイベントなんだな、となればプレイヤーは協力的になるものだ。終わった後スキルが残るとなれば強硬に断る理由もない。
一方、街の人の多くは初めは様子見をしていた。
しかし、魔法や魔力の知識がある程度ある者や、状況を認識している偉い人が動きだし、参加し始めたところで流れが変わったのである。
時間をかけてじっくり伝授したわけではないので、満足に習得できなかった者もいる。
それでも特殊な環境のなかでのこと、そして規模から参加したプレイヤーのほとんどと、街の人からも成功者が出ていた。
そして覚えた者は教える側に回る。数人がそのように動くと、周りからも同じように動くものが出てくるのだ。もちろん自分のことに集中する者もいる。どちらにしてもMPの回転率は上がる。
こうしてMPを集めていた。
どうするのかといえば、ウサギさん仮面による月の結界に、『範囲内のキャラクターからMPを一定割合奪取する』という効果を合わせたのである。
維持するのに結構な魔力を消費するけれど、それは奪取できる総量から見れば大した量ではない。
何せ二千五百キャラ分だ。ゲームの仕様上、仮にレベル1でも10秒あれば1は回復するようになっており、またここに集った者たちの平均レベルは30を超える。ウサギたちが軒並み高いし、一般の街の人も成人までは大体年齢と同じくらいのレベルで設定されているのだ。レベルが高ければMP量も、自然回復量も増え、今回スキルを覚えればさらに増える。諸々合計するとチリは積もれば、ということで莫大な量になるのだ。
そんな量のMPをウサギさん仮面が管理できるかというと、実は無理である。
【魔力操作】で維持できる量を大きく超えてしまっている。
ではどうするかというと、月の結界の中に閉じ込めるという選択をしたのである。
かつて竜の咆哮で吹き散らされた魔力操作による魔力キープ技術は、その後の星光竜との語り合いで獲得した月の結界、【満月の夜】の魔法として昇華された。
簡単に言えば、放っておくとどこかにいっちゃうなら仕切りを用意して閉じ込めればいいじゃないという理屈である。
文字通り満月の夜と同様の環境にする効果もあるので、満月の夜にパワーアップするスキルをうさみから継承しているウサギさん仮面にはぴったりの魔法なのだ。
これなら仕切りを破壊されなければいいので維持がしやすい。
【満月の夜】は星光竜との検討の結果、脆弱性一定以上、克服しているのでよほどの魔法的圧力がかからなければ破壊されない。
ついでに結界の内部に与える影響も、魔法を作る技術をもっているのでいじることも可能である。今回はMPを奪取する設定にしてある。その分維持に必要な消費量はふえているが、見返りは余りある。
あとは十分に集まったらうさみを呼べばいいというわけだ。
事件の終息まであと一息のところまで来ていた。




