困惑のあちーぶめんと その9
火竜は水竜とかち合い互いに鬱憤をためつつある。いつ爆発してもおかしくない一触即発の状態だ。
地竜はその絶大な頑強さを一切生かすことができずにいる。相手が攻撃をしてこないからだ。
風竜は本来の棲家である空という最大のアドバンテージをもってして相手を捉えることができずにいる。それどころか風の使い方を真似され応用されて相手の能力の向上に貢献しているほどだ。
光竜は必殺にして最速の閃光吐息を発射する前にかわされていた。発射してしまえば外すことがないほど速さの攻撃であるが、発射前に範囲から逃れてしまえば当たりようがない。
竜としては用心深い闇竜はこれらの異常さを最も早く察知して分析していた。
そしてこの相手は見た目通りの存在ではなく、忌々しいことに竜に対抗できるだけの能力を持っている、と気づいていたが有効な対策をうてずにいた。
危険察知能力が異常に高い。天を駆ける能力は他の生物も持っている。しかし一切攻撃をしてこない。
上空の岩塊の落下を止めようとしているのは見えていた。それを可能とする魔力の扱いに関しては尋常の域ではない。維持するにはとてつもない量のMPが必要で、破壊した方がよほど少ない量で済むであろう。しかし一切攻撃をしてこない。
5つに身を分けていずれが本体か竜にすら悟らせないという技に、そのいずれの分け身も竜による攻撃を寄せ付けていないということも見事なものである。しかし一切攻撃をしてこない。
本来天空は竜の領域であり、開放された空間こそ火力・耐久力・機動力すべてを併せ持つ竜にかなうものなど同種しかいないはずであった。しかし現在、天を駆ける小動物が偉大なる六大竜王を翻弄していた。天にあるものを地に落とす法や動き出しや止めにかかる力の法を無視するかのような挙動は、巨大な竜がその身を空に躍らせるために持っている能力と近いものがある。それほどの技を持っていても攻撃はしてこないが。
何をしてくるかといえば頭を踏みつけ背を蹴り跳ぶのだ。
屈辱的な行為だ。頭を踏みつけられれば誰だって怒る。
当然竜たちは怒り狂っていた。
追いかけブレスを吐き魔法を使って仕留めようとしていたが、どれも無為に終わっていた。
火竜と水竜がキレて殺し合いを始めていないのはそれ以上にこの相手に対して怒り狂っているからだ。
そうしてますます攻撃は激しくなる。
うさみはこうして垂れ流される魔力ありがたく使わせてもらい状況を維持していた。
これでじり貧が若干プラスになっていた。その代わり油断できない状況が続いているのでこれはこれで大変だ。
気持ち的に疲れる。
が、時間をかければ全体をどうにかするだけの魔力を集められそうではあった。
普通に話して協力してもらえていたらもっと話が早かっただろうと思うと思うところもあるが、問答無用だったので仕方がない。
そしてついに連絡が来る。
割とダメもとで地上に頼んだものだ。
『準備できましたわ』
システム経由のメッセージ。
うさみは返事を返した。
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地上、スター平原から見上げると月が輝いていた。
岩塊が天を覆っているにもかかわらず、である。
淡い輝きの向こうでは小さな光が五つ走り回り、ドラゴンがそれを追う姿が見えた。戦況が激しくなったのは遠目にもわかる。
約二千人。
約一時間かけて集まった人数である。
プレイヤーだけでなく街の人も合わせてのことだ。
そして五百羽。
地下帝国パラウサから派遣されたウサギの数である。
狼との闘いもある中、もともとウサギさんふれあい広場に配属予定だったものに加えて出せるだけの数が出ている。中には異様に大きい個体も見受けられる。その金色に輝く巨大なウサギは黒いウサギに囲まれていた。
これだけの数が集まるのは、ステーティアにおいてはいろいろな意味で異例である。
プレイヤーは各町に分散し、またゲームをプレイする時間もみんな違う。また一堂に会すようなイベントはまだ行われていない。
街の人も人口から考えれば異様な数が集まっている。短時間で集められる数としては最大限の努力の結果といえるだろう。街の総力といっていい。
地下帝国臣民も大勢集まって何かすることは基本ない。だいたい好きなように生きているので。
プレイヤー、NPC、モンスターという違う立場の者、あわせて二千五百という人数を集められたのは、それだけ危険な状況であり、ほかに解決手段が見いだせないためだった。
この集団の周囲とスターティア街門をつなぐ道はウサギたち、モンスターによって囲まれているにもかかわらず、街から人々が出てくるくらいである。それだけ上空の状況に危機感を覚えていたということだ。
それでも“これ”が解決手段である、として、街の人を動かすことができたのは、プレイヤーたる異界の稀人の今までの行いの結果だろう。
しかしまあ、その“今までの行い”にはうさみは特に絡んでいないのだけれども。




