困惑のあちーぶめんと その7
うさみは赤い竜の頭を踏んづけた。
即座に頭から首、背に向けて滑るように移動すると背後、つまり赤い竜の頭から爆発音が聞こえた。
口を開いて灼熱の吐息をはこうとしていたところを踏んづけられたために口が閉じ、口内で暴発したのである。
そのまま一枚一枚がうさみよりも巨大な鱗や角でおおわれている体表を駆けると一番大きな角を蹴って跳躍する。
跳躍にわずかに遅れて青いしっぽが振り下ろされると、ばちこーんと赤い竜の背中にすまーっしゅし、赤い竜が悲鳴だか何だかわからないくぐもった轟音を響かせた。
「踏んだり蹴ったりだよ」
踏んだり蹴ったりして青いしっぽをかわしたうさみがぼやいた。
なんでじゃまするのもーであった。
30m以上あるような六体の竜に、うさみは襲われていた。
魔法の練習をしていたら魔法を乗っ取られたり変なのが現れて攻撃してきたりでっかい隕石のかけらが落ちてくるのを止めつつ解体という大変な土木作業を進めていたら襲われたのである。
攻撃の余波のせいか、もらった服ははじけ飛んでしまい、初期装備のシャツになっていた。
ほんとにもーであった。
竜たちに共通するのはスケールと、空を飛んでいること、爬虫類っぽい雰囲気と、見た目のドラゴン感。ああ、ドラゴンだね、竜だねと思うような外見だ。
でっかいトカゲに蝙蝠のような羽が生えたオーソドックスないわゆるドラゴン、蛇のような長い体を持つ東洋風な竜、首が二本生えているもの、恐竜の時代にいたような翼竜っぽい形の個体、亀からドラゴンの首が生えたようなどっしりした奴も飛んでいた。後とげとげしいのとまがまがしい感じ。
色も違う。赤青緑黄白黒とかぶっていない。
そしてそれぞれ違う属性の吐息を吐いて、魔法を使ってくる。火水風土と光と闇。
「一方的にお前を殺すとか言われても困るんだけど。今忙しいのに」
死ぬのは別にもう今更であるが、今というのがよろしくない。
四方、じゃない六方からそれぞれ飛んできて囲まれ、「星の災いを呼び起こしたのは貴様か」とかなんとか言っていた。今忙しいので後にしてと伝えて土木作業を進めたところ、なんか攻撃してきたのである。
なにか誤解があるのではないかと思い、ちょっとまってもらおうと慌てて声をかけた返したのだが、今度は相手が聞く耳を持たない。ころーす。がおー。ってなもんで、なんだか怒っていた。
不幸なすれ違いである。
そして口からなんか吐いてきたのをかわした。
星光竜はピンク色のビームみたいなのを吐いていたが、六体の竜はそれぞれ違うものを吐いていた。火とか蒸気とか酸とかだ。周りを囲まれていたのでうさみがいた場所に収束して爆発したが、うさみはすでにその場を離れていたので特に影響はなかった。
その後他愛もない的なことを言って勝ち誇っていたところで遠くで解体作業を進めていたうさみに気づいて慌てて飛んできてまた襲い掛かってきたのである。
対してうさみは五人に分身して対応した。
一体竜が余った結果、赤と青がペアになることになったのである。
そして踏んだり蹴ったりしているのである。
ペアになっていたけれど、特に連携とかしてくるわけでもなく、それぞれが体を使って攻撃してきたり、吐息で攻撃してきたり、魔法を使って攻撃してきたりするので逃げ回る。
竜の方もわざと同士討ちになるるような範囲に攻撃しているようにも見えた。さきほどの青の竜のしっぽが赤の竜の背中にばちこーんしたように。仲が悪いのかもしれない。足の引っ張り合いは歓迎だが、それでもメインの狙いはうさみに向いていた。
だけれども、正直なところ、邪魔ではあるが助かる面もあった。
なんといっても、魔力を回収できるのが大きい。
竜たちが魔法を使うことで周囲に余剰の魔力が滞留するのだ。うさみはそれを回収して使っていた。
その代わりによけるとかさばくとか余計な作業が入るのが大いにマイナスではあるのだが。
今、最優先なのは隕石の解体だ。
これをどうにかしないと超がつく大規模な被害が出ることだろう。
ゲームだし生き返るから別に待ちとか壊滅してもいいんじゃないかと思う部分もあったけれど、でもそれなりの割合うさみ自身に責任がある気がするし、先生とかメリーとか、冒険者ギルドやお金お金言ってる神殿の人とか、それからうウサギさんたちNPCの面々がどうなるかわからないし、実際的に対処できるかできないかで考えるとできそうな気がするしということで。
いっそどう考えても無理! ってことだったらあきらめもついただろうが、うっかりできそうな気がしてしまったから仕方がないのだ。
なのでどうにかする。
そのために必要なのは時間と魔力だ。
時間というのはつまり作業量が多いということ。魔力は解体作業にも時間稼ぎにもつかう。特に時間稼ぎに大量につかう。
「【すごく落ちなくなる魔法】!」
危険感知で危険なエリアを読み取って魔法を置いていく。
【すごく落ちなくなる魔法】は範囲内の物体が下に向けて落ちなくなる魔法だ。名前は急いでいたので適当だ。時空属性の魔法をいろいろいじくってでっち上げたものである。多分時間とか重力とか操作してる感じ。うさみにもよくわからない。時空って何さ。魔力の扱いの側から逆算する形で組み上げたものなので物理的な作用がどうなっているかとか理解できてない。魔法なので物理の理屈が通じないかもしれないし。
隕石はあんまりにも大きいので、うさみ個人用に作った【落下制御】ではとてもじゃないが意味がなかった。規模が違う。なので広範囲に影響を及ぼすように改造したものが【すごく落ちなくなる魔法】である。が、それでも全体を覆うことは無理だった。りろんてきには可能だが、魔力が全然足りない。
なので重心らしい場所に作用するように設置する。
そうすると魔法の影響を受けていない場所に自重で負荷がかかって圧壊しそうになる。
崩れる部分の下は危険なので【危険感知】がびんびんに機能するのでその中心あたりに移動する。
移動中に少しでも魔力を回復させる。
また設置する。
そうすると魔法の影響を受けていない場所が……と無限ループ。なんで無限かというと、対応しているあいだに効果時間が切れるからだ。魔力が限られているので効果時間も限られるのである。
という具合で時間を稼ぎ。合間合間の余裕があるときに隕石を少しずつ削っていた。
しかし、状況は悪化している。徐々に隕石の強度が低下してきているのだ。魔法を部分的にかけているためにかかる負荷が蓄積しているのである。
一枚岩であるからどうにかなっているが、ボロボロに崩れてしまうと手が足りなくなる。
正確には魔力が足りなくなる。
数が増えれば時間稼ぎに必要な魔法の回数が増えるからだ。限界を超えれば落ちる。落ちれば下は壊滅する。だめだそれ。
そこで竜が魔法を無駄撃ちして魔力を供給してくれるのが役に立つのである。
ただし竜への対応に手を取られすぎると今度は隕石の崩壊が早まる。
結局のところ痛しかゆしなのだった。




