困惑のあちーぶめんと その5
「どういうことなのと言われましても、聞いていたならわかるでしょう?」
ラビラビが話に割り込んだ形になったが、バニさんは肩をすくめて答えた。
両者とも有力なプレイヤーであり、互いのことは知っている。知っているだけだが。
ウサギ好きのグループの頭の一人と、いろいろと目立つトッププレイヤーの一角だ。実は知名度はあまり変わらない。どちらも変わったことをしているプレイヤーと目されている。
「わたくし達の頭の上で。危機的状況が進行しているにもかかわらず。何ら手が打てないという、そういうことですわ」
わざわざハンカチを取りだして噛むバニさん。きーっ。
ラビラビたちはジト目で対応する。
「いえあの、一人で対応している人物がいるというのは」
「ウサギさんと接触があってそれだけの能力を持っている、かもしれない者といえば一人しかいないでしょう」
「“竜少女”ですか」
「ああ、そう呼ばれているそうであるな」
ウサギさん仮面が話に入ってくる。というか入ってきたのはラビラビだったのだが。
「ああっ! ウサギさん仮面さま! わたしはクラン【ウサギ愛護協会】のラビラビと申します! この度は――」
「改まった挨拶は不要である。兎人族のラビラビと【ウサギ愛護協会】であるか、覚えたぞ」
ラビラビがかしこまった態度で挨拶をしようとするのを留め、胸の下で腕を組んでうむりと頷くウサギさん仮面。前ではなく下から押し上げるように。
「奴はな、【ウサギさんふれあい広場】の開設に骨を折った者なのだ。その折、そこの†バーニング娘†とも接触があってな」
「そんなつながりが……」
「竜少女さんは並外れたレベルの魔法使いでしたわ。それこそ今の状況に単独で対応できているのがその証拠」
「それですけど、信じがたいんだけど。なんでそこまで私たちと差ができてるのよ」
もっともな疑問である。が、事実としてそうなってしまっているのでどうもこうもない。
「掲示板の竜少女Aスレチェックしてないんですの? 荒唐無稽な話でしたけど、実際に目にしたからには事実として受け入れるしかありませんでしたわね」
いけしゃあしゃあ。
遠い目をして語るバニさん。
そもそも竜少女Aの情報を流したのはバニさんである。
普段から大げさな、あるいはネタに走った言動をするので、実際に何を考えているのか見抜くのは慣れないと難しい。何も考えていないことも多々あることをベルやあいすなどは知っているのだが。
今回の場合は一応狙いはある。
「うむ、さきも言ったが、【ウサギさんふれあい広場】はあやつがおらねば成立していなかっただろうからな!」
ということを広めることだ。
聞いているのはほぼウサギ愛護団体の構成員である。
短期的にイメージアップにつながることだろう。
ウサギ愛護団体はプレイヤー全体から見れば一部にすぎないし派閥もあるが、内部で独自に情報をやり取りしていたりと組織的に活動しているという特異なグループであり、感情的にうさみの味方になりうる立ち位置に居るのだ。深入りすると面倒だがそのへんは本人次第なのでとりあえずとっかかりを確保である。今回はちょうどいい機会だった。
それはそれとして。
「あら、返事が……『まりょくあったら助かるます。いっぱい』」
「魔力、MPか」
「どうにかできます?」
「うむー、そうだな、頭数を集めれば」
「ど、どういうこと?」
よくわかっていないラビラビに、ウサギさん仮面がMPを自身の外に確保して使用することができるという話をする。
「なので月光の結界の内に魔力を収集しておけば回収させることができるであろう」
「なにそれ、チートくさ……」
「【魔力操作】の範疇であるぞ。この月の下へ連れてくれば、魔力の抽出は請け負おう」
ウサギさん仮面の説明が事実なら本人のMP上限が意味をなさないことになる。【魔力操作】スキルがそんな無茶苦茶なものだったとは。ラビラビは慄いた。軽視されていたスキルがとんでもない効果を発揮することがわかったのだ。スキルの評価が大きく変わる。もしかすると他のスキルも……!
なんて考えているうちに。
「まあそういうことなら話は早いですわ。人を集めましょう。あいす、掲示板を。ベルは生産職の筋から。わたくしは冒険者ギルドから現地民にあたりますわ」
「了解」「わかったわ」
バニさんグループが動きだす。
バニさんは街へ。あいすとベルはウインドウを開く。
「我も兎さんたちに声をかけてみるとしよ……む?」
「ちょっ……と?」
その時。
ウサギさん仮面が空を仰ぎ、ラビラビがつられる。
上空を、何かが通るのが彼女たちの視界に入る。
魔法の月の光を受けるその身は、うねる蛇のごとく。
深い青色のウロコが光を反射する。
「あれは、竜?」
「昨日のものとは別の個体ですわね」
昨日飛来した巨大な翼の生えた爬虫類といった西洋のイメージにある竜であった星光竜。一方、蛇のような長身で翼は見えないが空を泳ぐように飛ぶそれは、違うタイプの竜だった。
竜はスターティア上空を、街や月には目もくれず南から北へと飛んでいく。距離がある成果あまり早くは見えないが、かなり速いはず。どこか焦っているようにも見えるからきっと。悠々とという表現が似合わない程度にそう見える
南には海。北は星降山がある。
「なんだか嫌な予感がしますわね」
「バニさん顔とセリフが合ってない」
バニさんは楽しくなってきやがったぜみたいな笑顔を咳払いでごまかした。
「げふんげふん。さあさ、動きましょう」




