困惑のあちーぶめんと その4
ラビラビはウサギ好きのプレイヤーである。
どれくらいウサギ好きかというと、RFOで最初に戦いになるであろうモンスターの一種、いたずらウサギに一目惚れし戦えずレベルを上げるのに手間取った挙句、兎人族という種族が追加されたと知ると即座にキャラクターをデリートして作りなおしたくらいのウサギ好きである。
だがしかし。
ウサギ好きではあるのだが、肝心のウサギの方はこたえてくれたことはなかった。
ゲーム内ではウサギはモンスターである。
モンスターというのはプレイヤーが戦って倒して経験値とドロップアイテムを得るための存在であり、つまり、要するに仲良くする相手ではない。
いたずらウサギは50センチほどの大きな毛玉に足と耳が生えてデフォルメしたウサギの顔がついているというモンスターである。気性はおとなしく、基本的にプレイヤーに近づいてこないが、攻撃しようとすると体当たりにより痛烈な反撃をしたあげく脱兎のごとく逃げ出す。そんなモンスターだ。
では攻撃しなければ触ったり撫でまわしたりモフモフしたりできるのではないかと試したが、接触したところで攻撃とみなされるのか反撃されてしまった。
上位種の角が生えたタイプのウサギ、ホーンラビット、バイコーンラビットなどはむしろ向こうから攻撃を仕掛けてくるのでより危険である。
餌付けも試したがエサだけ取られて逃げられるに終わった。
ウサギさん好きのラビラビの苦難の思い出である。
しかし、ラビラビは、ラビラビたちはあきらめていなかった。
いろいろ試しているうちに同好の士が増え、集団になった。
ウサギ性の違いによって言い争いになったり集団が分裂したりもしたが、それもこれも皆ウサギが好きなことの一面であるので、仕方のないことだ。
別れたものたちとも情報提供しあい、ゲーム内でウサギとたわむれる方法を模索していた。
希望はいくつかあった。
ゲームの進行に合わせて新しいシステムが解放されて行くのだ。
既存のゲームの例になるが、ペットを飼育するシステムや、モンスターを飼いならして使役するモンスター使い、あるいは召喚師などといった概念が存在する。
であるならば、弓士の村を発見したことで解放されたクラス【弓士】や、魔法都市で属性に特化したり魔法の選択肢が広がった魔法使い系クラス、鉱山都市での【採掘師】などのように、そういったモンスターと関われるシステムが解放される可能性がある。
運営に実装予定の質問など送ってみたが、『秘密です』と返ってきた。『秘密です』である。『実装予定はありません』ではなかったのだ。つまり期待できるということ。
ゲームを進行させ、フィールドを探索し、イベントを見つけ出すことがラビラビたちの目的になった。
しかし、ウサギを避けてレベルアップを計ることが難しいという問題に直面する。
始まりの街スターティア近隣にはウサギが多かったのである。
そして最低ランクのいたずらウサギはともかく、それ以上のウサギたちは攻撃的であった。
彼らと戦わずにレベルを上げることはむずかしい。
しかし、ウサギ好きプレイヤーにとってウサギを切り殺したり叩き潰したり焼き殺したりするのはなかなかハードルが高かった。
カワイイ方向にデフォルメされ、一つ一つの挙動が心をくすぐってくるウサギたち。
ここでウサギ好き集団が分裂した。
先を見るためにウサギを殺してでも進もうという派閥と、ウサギを殺すのは本末転倒であるという派閥である。
前者は心を鬼にしてウサギを殺してまわった修羅となり、最前線の攻略クランの一角を占めるほどとなった。
後者はウサギを避けて時間をかけてレベル上げをしつつ、主に街で活動する生産系プレイヤーとして身を立てるようになった。
そしてラビラビは後者であった。
ウサギをモチーフにしたカワイイアイテムを製作・販売しながら、ウサギ愛護精神を育み同志を増やそうという生産系クランを主催ている。
同時に、素材にウサギの毛皮などのウサギ由来のアイテムを使うかどうかで分裂した別のクランと共に修羅となった攻略クランの活動を支援するというのが主な日々の活動である。
そんな中、さっそうと登場したのが【ウサギさんふれあい広場】である。
公式イベントとして告知されたそれは、ラビラビたちが待ちに待ったイベントに他ならない。多分。蓋を開けてみれば全然違う方向性だったとなる可能性もある。
しかし、なんせ“ふれあい広場”だ。
触っても攻撃されない可能性は濃厚だ。
あわよくばモフモフも期待できるだろう。
むはー!
というわけでラビラビはいてもたってもいられず同志たちとともに前入りしたのであった。
イベント告知にあった時間までまだ半日近くあるが、些細なことである。
昼間なのに真っ暗なのも些細なことである。
そうしてワクワクしながら、仲間たちとどういったイベントなのかと予想したりとおしゃべりしつつ待っていた。
そこに現れたのがプレイヤー間で結構有名なプレイヤーで【Wonderland Tea Party】のリーダーである、†バーニング娘†と、ゲーム内で知る人ぞ知る独特な立ち位置を持っているあいす・くりぃむ、そして生産活動というくくりでは仲間として情報や技術交流のある、おもにゴスロリ系とコスプレ系衣装を手掛けているベルという三人組があらわれたのであった。
そして、イベントNPCである【ウサギさん仮面】を呼び出し話し始めたのであった。
自然、話が耳に入る。兎人族は耳がいいのである。
状況を理解するのにさほど苦労はなかった。
両者が事情を説明し合っていたからだ。
要するに、でっかい隕石が頭上にあって、バーニング娘たちの知り合いのプレイヤーが対処しているということらしい。
そのプレイヤーはなぜか未だ解放されていない【ウサギさんふれあい広場】用のNPC【ウサギさん仮面】とも知己であるらしい。これはバーニング娘もであるが。
ラビラビたちは顔を見合わせ、それから上を見た。まっくらだ。しかし、音は聞こえる。得に気にしてはいなかったが、遠くからドッカンバリバリと音がしていた時間帯はあった。
辻褄は合う。
理解はできる。
だがしかし。
どういうことなの。
「ちょっとちょっと、“ワンダーランドの”。さっきから聞いていたけど、どういうことなの」
あんまりにもとんでもな話であった。
ラビラビは思わず口をはさんでしまったのだった。




