困惑のあちーぶめんと その3
「というわけで、能力的に手が出せそうで、話が通じそうなところにやってきたというわけですわ」
「そういうことであったか」
†バーニング娘†の事情説明がおわりウサギさん仮面が大きく頷いた。
一人で巨大隕石(多分)に対応している援護がしたいが舞台は空だ。空中戦が可能そうなのは本人を除けばこのウサギさん仮面しか心当たりがない。というか能力的に本体ができることならコピーであるという彼女なら可能なはずである。
送信したメッセージの返信も鈍く、おそらく手が足りていないであろうことが予想される。
むしろすでにウサギさん仮面は参戦していてもおかしくなかったのだが、こうしてこの場に居るということはどういうことか。
「まず最初に、我はここから動くことはできぬ。【ウサギさんふれあい広場】を任されているからして」
「そこをなんとかならないの? あれ放置すると地下だって安心できるとは思えないけど」
「この世界の者とも異界のマレビトとも違う立場である故、この身は縛られていてな」
イベント用NPCということで行動範囲が限定されているということか。
ともあれ直接的な援軍は出ないということだ。
「ただ、よい情報もあるぞ。すでに山場は超えておるだろうというな」
「どういうことですの?」
「なに、経緯を鑑みるに、すでに半ば以上ことはすみ、あと片づけの段階にあるということよ」
詳しく話を聞いてみたところ。
ことの始まりは、未明に光の円が星降山上空に出現したのち、急激に拡大し一帯の上空を覆ったことであったという。次にその円の中より、円と同等サイズの巨大な岩塊が出現、落下を始めるもすぐに停滞。それから岩塊底部のあちこちが散発的に光るようになったのである。
と、ここまではプレイヤー側も確認している情報だ。
「はじめ現れた光の円、これは別空間、おそらく星界へのゲートであり、あの岩塊は星界に浮かぶ岩塊の一部、先っぽであると思われる」
「あの直径数十キロ単位の大きさのものが?」
「うむ、【隕石落とし】の魔法と同様の構造であったように見えた。しかし尋常の魔力量ではあの規模にはならぬはずだ。なんらかの異常があったことと思われる」
バニさんの推測は正解であった。
つまりあれは隕石で、落ちてこようとしているのだ。
「そして、はじめゲートの支配権が何度も入れ替わっていた。ゲートを開こうとするものと閉じようとするものが奪い合っていたと表現するのが適当だろう。ゲートが開くと岩塊、もう隕石と呼ぶか、隕石がちょっとずつ出現していたことから見えている部分は一部であると考えたわけだな」
ゲートより大きい隕石の一角がゲートからつき出ており、また同時にゲートに引っ掛かって全体が出てこれない状態になっているのだろうと、そういうわけである。
「そしてしばらく繰り返した後、星界側から何かが入りこみ、こちら側にいた者を攻撃し始めた。両者は高速で移動しながらゲートの支配権を取りあっていた。激しくあちらこちらで光っていたのはこの時だな」
「何かがって、なんですの?」
「状況から判断すれば、その“何か”が諸悪の根源」
「そうね、あいす。いらんことした悪い奴はそいつでしょう」
「なるほど、そういうことですのね、許すまじ」
拗ねて積極的に発言をしていなかったあいすが反応し、ここぞとベルが煽った。ついでにバニさんも乗ってくる。
ウサギさん仮面が語る、そういうことができるのかどうかとか、そういうのは置いておく。ゲームであるので出来てもおかしくない。この世界のシステムはまだまだ解明されていないのだ。
しかし、状況から考えれば巨大隕石を落とそうとしているのはそいつ、あるいはそいつらなのだろう。
わかりやすい構造だ。
悪役がいるなら責任をそいつに押し付けてやっつけてしまえばみんなすっきりである。拗ねたあいすもだ。なのでベルは煽ってみたのである。
あいすもそろそろ拗ねるのに飽きてきたころだろうし、しかし元の調子に戻るには適当なきっかけが必要だろうということで。
「ただまあ、それはもう片付いていてな」
「「「えええ!?」」」
ちょっとシチュエーションに乗りかけていた三人はずこーっと崩れた。
ついでに聞き耳を立てていた周りにいたうさ耳さんなんかもだ。
「星光竜がやってきてその“なにか”諸共ゲートの向こうに行ってしまったのだ。さらにはその後ゲートは閉じた。残ったのは引っ掛かりが取れた隕石の先っちょというわけだな」
掌を下に向けて水平に振るウサギさん仮面。
ゲートが閉じることで隕石がスパッと切れた、といいたいらしい。
「それじゃあ、落ちてくるじゃありませんの」
「うむ、なので落下を止めつつ端っこからけずっていっているらしい。時々光るのはそれであろうな」
要するに巨大質量が上空にあるだけであり、あとは解体するだけなので片付くのは時間の問題である、という。
単純に破壊するだけでは質量そのものは変わらないので、そのまま落ちてくるに任せられない。どこかへ移動させなければならないため時間がかかるのだろうということだ。
結局のところ話を聞く前と状況が変わっていない気はするが、事情はわかった。
「なるほど……ありがとうございます、状況がつかめましたわ。すでに事態が収束しつつあるというのは。とはいえ何もしない、できないというのも癪ですわね」
バニさんが胸の前で腕を組んでうーむと唸る。
あいすは八つ当たりの対象ができたと思ったら実はすでにいなかったという落ちを受けて脱力している。
ベルは煽ろうとした手前ちょっと気恥しい思いをしつつも、なんでもないですよという体を装っていた。
「ちょっとちょっと、“ワンダーランドの”。さっきから聞いていたけど、どういうことなの」
うさ耳さんが話に介入してきたのはそんな時だった。




