困惑のとれいん その4
「さてと」
深夜。というよりもう明け方も近い時間。アン先生の小屋を出たうさみは、ん~っと伸びをして、足元のるな子を抱きあげた。
「今日は長い一日だった気がするね」
星降山から帰って来て、これまでとは違う出来事が立て続けにやってきた。
駆け回っていれば解決する問題ばかりではないというか、人間関係めんどくさいというか。人間だけじゃなくてウサギさんもいるけれど。
ともあれこれで一段落だろう。明日はウサギさんふれあい広場のお披露目と、あいすと遊ぶ約束がある。
それまでは特ににやるべきこともないし、ちょっと体を動かしておこうかな。あんまり動かなかったし。ついでに魔法の検証と推敲もやっておきたい。アン先生に作った魔法をお金に変える方法を教わったのだ。それを活用するためにも、いい感じの魔法を作っておきたい。
それとスキルも上げ直しておこうと思う。
【タレント】を覚えたときにスキルはなくなったり1になったりしていた。スキル合成の結果だ。
タレントがスキルがなくても行為が可能であることを証明してくれているとはいうけれど、基礎能力を強化するスキルなんかは実際に鍛えなおさないとパラメータが戻らないようなのだ。
今のうさみは初期能力にちょっとボーナスがついた程度の能力値しかない。別にそれで困ることはないというか、ない方が目立たずにすむかもという考えまであるのだが、身体を動かすなら目標とか目安があった方が身は入るだろうし、もっと先があるのなら行けるところまで行ってみたいとも思うのだ。スキルレベル上限開放とかなんとかいうやつがあったので。
それに魔法である。
いろんな属性魔法スキルを覚えていたはずが、スキル合成によって一つになっていたのだ。
その名も【真星魔法】。合成前にあった【火魔法】とか【時空魔法】とか【兎魔法】とか【神聖魔法】とかがなくなってこれだけがあった。
何が真なのかわからないけれど、説明には『星にまつわるすべてを扱う魔法』とあったので【星魔法】の上位版ではないかと踏んでいる。それと【神聖魔法】もなくなっているあたり、読みが同じだしなにかあるのかもしれない。魔法スキルをまとめたスキルみたいなものなのかも。
アン先生に教わった奥義もふまえて、試してみる必要があるだろう。
そんなことを考えながら、るな子を頭に乗せて足を踏み出した。
宙を蹴って走りだす。
目標は星降山。
もう庭みたいなものである。
魔力で作った足場を蹴ると同時に魔力に還元して駆ける。
高度がどんどん上がっていき、すぐに森の木の高さを超える。
星降山は夜中でもよく見える。なんせ頂上付近が光っているので。
駆けながらシステムウィンドウを呼び出し、バニさんへメッセージを送っておく。アン先生に紹介する件、一応話はついたので。
GM空間にいたときにもちょっとGMパワーで連絡を取っていたので別れてから何度も連絡するようになってしまうけど、思いだしたときにやっておかないと忘れてしまいそうなので。
そうして月の夜へと跳び出す。
高いところを移動していると景色が変わるのがゆっくりでスピード感はないけれど、このゆったり感も悪くないなとうさみは思った。新幹線の窓から景色を見ているような気分。
「そうだるな子、自分で走れない?」
ぷ?
えっ何言ってんの。みたいな反応が頭上からあった。
ウサギさんは空を跳ぶようにできていないらしい。
それじゃあ、と魔法を作る。
「【空を跳ぶ魔法】」
るな子に作った魔法をかけてみる。
だいたいうさみ自身がやってることを再現した魔法である。
「るな子! ごー!」
たしたし。
うさみが声をかけるが、るな子はためらっているようでなかなか踏み切らないのでくるんと宙を回って振り捨てた。
るな子は落ちた。
間もなく要領を掴んだのか、すぐ帰って来てうさみに頭突きを仕掛けてくる。お怒りだった。
うさみは華麗にかわそうとしたが、スキルが軒並みなくなっているせいか体がついてこなかったのでまともにくらいそうになった。どうにかかわせたがバランスを崩して落ちた。すぐに復帰したけれど。
そのようにじゃれ合いながら星降山へと向かった。
結果を言うと、うさみはこの後、あいすと遊ぶ約束と、ウサギさんふれあい広場のお披露目をすっぽかした。
この時のことをうさみは後にこう言った。
『やっちゃったぜ。えへ』




