困惑のわんだーらんど その4
「んー。うさみー、もしかしてVRゲームは初めて?」
体を起こしたあいすが、バニさんをスルーしてうさみに尋ねる。
「えっ、なんでわかったの? テレビゲームとかも、ほとんど触ったことがないんだよね。トランプとかはあるけど」
テレビゲームという表現からして、うさみがゲーマーではないことがよくわかる。
実際、うさみは親せきの人が趣味で集めていた古いゲームをちょっと遊ばせてもらったことがあるくらいで、いわゆるコンピュータゲームの類はほぼ触ったことがなかった。
ペンギンを操作して大陸を走るゲームや、落ちてくるブロックを並べて消すゲーム、あとゴルフとかテニスとか、今ではレトロゲームと呼ばれている初期のもの数種類というのがうさみのゲーム経験のすべてである。
そういった経歴がこの短時間で見抜かれたのか。
うさみは、もしやあいすさんはすごい人なのではと思い、目を輝かせてあいすを見つめた。
「うさみー復唱。【インターフェイス・モード変更】【ウィンドウモード】【メニュー】」
うさみの視線を受けたあいすが、右手の人差し指を立てて指示を出す。
バニさんはそれを見て、あ、あいす調子に乗っているなこれと思ったが、とりあえず害はなさそうかと判断し様子見に回る。
「【インターフェイス・モード変更】【ウィンドウモード】【メニュー】? あ、なにか出た! すごい!」
うさみが言われたとおりにすると、目の前に半透明な光の板が現れた。あいすが生み出し、バニさんが読んでいるものと同種の技術のものであると一目でわかる。表示されている文字列が違うだけである。
うさみはきゃっきゃと喜び、あいすはなぜか胸を張っている。
「プレイヤー全員に備わっているシステムサポートですわよ? あいすが特にすごいわけでは」
「そうなの? それよりこれ、どうしたらいいの?」
一人冷静なバニさんのツッコミもむなしく、うさみは新しいおもちゃに夢中である。
それを見てバニさんも切り替えて、
「触れようと思って触れれば触って動かしたり固定したり、拡大したり消したりできますわ。慣れれば触らずともそうしようと思うだけでも」
「ほうほう」
うさみは正方形のメニューウィンドウの右上と左下を掴んで引っ張った。
するとウィンドウが引きのばされて平行四辺形に変形する。
次に左上と右下を掴んで同様に引っ張ると、バツ印のような形になった。十字手裏剣の形である。
そして角の一つをつまむと回転を付けてひょいと投げた。
するとウィンドウは恐ろしい勢いで回転しながら壁に突っ込んだかと思うと跳ね返り、そして室内を高速で縦横無尽に跳ねまわった。
「きゃあ!」
「うわ」
「おお!」
バニさんの、あいすの、身体すれすれをかすめ、何かにあたると跳ね返り、気がつけば五つに増えて空間を蹂躙する。
おもわず悲鳴を上げる二人に対し、うさみは楽しそうである。目をキラキラさせていた。
「ちょっと、おやめなさいな!」
気を取り直したバニさんが、うさみのおでこをぺちんと叩く。
すると五つのウィンドウがぴたりと止まり、空を滑るようにうさみの前に帰ってくる。どうも分割されていたようで五枚集まるとくっついて正方形になった。
「驚くでしょう。安易に、それにいきなりものを投げるのはおよしなさい」
「ウィンドウでこうやって遊ぶ人は初めて見た」
お叱りと感想をうけて、うさみはえーっと、と対応に迷い、
「当たっても部屋とかなんともないんだね」
自分の思ったことを口にした。
「まあ、実体在りませんから。跳ね返っていたのはうさみさんが動かしたのでしょう?」
「うん」
「うさみー器用」
あれほどウィンドウが暴れ回っても、室内には風ひとつ起きていないのはつまりバニさんの言う通り実体がないからである。
うさみはこれでフリスビーみたいにして遊べそうだなあ、でも自由に動くんじゃ取り甲斐がないかなあと思った。あ、鬼ごっこの鬼にするのはどうだろう。ウィンドウおに。
そんなことを考えていると、目の前にウィンドウが立ち上がった。
『【†バーニング娘†】からフレンド登録の申請がありました。 許可/拒否』
「なにこれ、フレンド登録?」
「あ、バニさんずるい。わたしも」
『【あいす・くりぃむ】からフレンド登録の申請がありました。 許可/拒否』
「フレンド登録は、ゲーム内にいれば連絡が取れるようになるシステムです。メニューの【フレンド】で管理できますわ。要するにおともだちになりましょうということですわ」
「おともだち」
許可の表示を二つ押すと、登録されましたと表示が変化、そして二秒ほどで消える。
そしてためしに【フレンド】を開くと、二人の名前とその横それぞれに手紙マークのボタン、INと書かれたボタンがあった。手紙マークを押せば連絡できるのだろうと思う。INは何かな。今いますってことかな。
「おー」
うさみは携帯電話を手に入れて初めて人のアドレスを登録したときの感動を思い出した。
にへらと笑みがこぼれてしまう。
そんな姿を見て、バニさんは抱きしめたい衝動に、あいすは頬をつまんで引っ張りたい衝動に駆られたがどうにか自重するのであった。