困惑のあるけみ・まじかる その6
「エロくない?」
「確かにこれはエロですわね!」
「え、ちょっと何がエロ……はっ!? いやいやいやいや!? 男子中学生じゃないんだから!」
「あわわわわ」
うさみの持つ称号【夜の魔導姫】。すごい魔法使いで称号がどうとかメリーが言ったので魔がつく称号を探して一個挙げたところの反応である。順にベルさん、バニさん、うさみ、メリーである。
ほかに【夜の聖女】というのもあった。五十音でソートしたので一個上に。しかし余計にからかわれそうなので、うさみは見なかったことにした。
「ですがうさみ、夜の~で姫ですわよ」
「夜のお菓子だってエロくないでしょ!」
「いやあでもこれはもう完全にそっちの店でしょう。ふふふ」
そっちってどっちだよとツッコむとそれはねえ? ねえ? と二人してニヤニヤと見つめられたのでうさみはふくれた。ぷくー。
「あ、あの、【魔導姫】の方には反応しないのです?」
「そういえばどういう意味がある称号なのかしら?」
あわあわしていたメリーがあわあわ尋ねたので、ニヤニヤしていたベルさんが乗ってくる。称号といえば何かそう呼ばれる由来があるものだ。ゲーム的には一定条件を満たすことで取得するわけだけども。
「ええっと、“大魔導師の中でも頂点に位置する実力を持つ者であることを示す。夜に属する力を使いこなす。”だって」
「夜に属する力?」
「エロ?」
「エロはもういいよ」
なんでエロ押しなのか。うさみはまたぷくーした。
まあ心当たりはある。夜になると能力値が上がるのだ。あと月も関係している。それ以外には思いつかないのでたぶんそれ。
「メリーさんも詳しくはないですけど、魔法使いの中でも他者に伝授するだけの実力があり魔法への造詣が深い者を魔導師、その中でも一定の実力が認められる者が大魔導師と呼ばれるのです。そしてその中でも極めて実力がある者を指して魔導王あるいは魔導姫と呼ぶと」
「要するに魔法の教師のトップということですのね」
「魔法先生……!」
ベルさんの琴線に何かが触れたらしく目がきらりんと光る。
一方うさみはイマイチ実感がわかなかった。
「そこまで言うほどでもないと思うんだけど。アン先生の方が腕はいいだろうし」
「少なくともスキルレベルは追い抜いているということでは? あるいはもっと上のランクがあるのかもしれませんが」
「少なくとも、うさみさんの、その魔力は尋常じゃないですよ」
メリーが机の上を指して言う。
机の上には満タンのポーション瓶が並んでいる。ちなみに下にも箱詰めされて積んである。子の半分ほどはうさみの手によるものだ。錬金術師にクラスチェンジして成功率にプラス補正が入るようになったのもあって品質はさらに向上していた。
「錬金術はMPを代償にして手間暇時間などを端折ることができる技術ですから、何を作るにも便利なのですが、MPの消費のでどうしても回数に限りがあるのです。が」
「ポーション作る分くらいなら、完成までの時間に回復しきるけど」
「その回復力、羨ましいです」
メリーの錬金術工房に薬師の道具がある理由。それはもともと薬師の修行をしていたから、でもあるのだが、錬金術でMP切れを起こした際に回復までの時間で手作業でポーションを作るためでもある。そうメリーが語った。確かにMPさえあれば錬金術の方が楽に作ることができる。時間も少なくて済む。しかしMPに限りがあるなら作ることができる数にも上限があり、それ以上作るには手作業で作るしかない。納期が迫っているならMP回復中の時間も活用せざるを得ないのだ。
「スキルの練習たくさんしたらふえるよ」
「その暇があったら勉強したいですけど」
「勉強しながら練習すればいいじゃない」
「えええ」
なにごとも日々の積み重ねが重要なのである。レベル差補正でぽぽーんと上がったうさみが言うのもなんだけれども、それも一ヶ月分命かけてた成果なのでまあ。
「ま、魔力が満タンだと回復させるスキルは鍛えられませんですし」
「そうなの? ならちょうどいいよね、お仕事で足りなくなるくらい使うんだったら」
「ゴフゥ! そうですよねえ!?」
大体興味があること以外は必要最低限ですませたいのが人情であるけれども、深く考えない言い逃れは退路を塞いでしまうことも多い。メリーさん墓穴。
「それでも余るなら普段から魔法使ったらいいよね」
「それはそれで本末転倒では?」
MPが足りないのでMPを回復させるために必要なスキルを鍛えるために余分にMPを使う、というのはどうなのか。間違っていないし先を見据えるなら有効だろう。でも必要な時に足りなければ困るしいつ不測の事態があってMPが必要になるかわからないがむしろそういうときのためにMPを回復するスキルを鍛えておくべきで、まあ堂々巡りのぐるんぐるんであった。
「でもいろんなことに魔法使ってみた方が魔法の練習にもなるし、操作とか感知の練習にもなるし?」
たとえば、とうさみが魔法を使う。
「【花香水】さっきも使ったけど、魔力と体力の回復が早くなっていい匂いがする魔法。あとエンチャントの魔法とかずっとかけてたらよくない? MP回復は精神値っていってたよね、だから【エンチャントダーク】?」
「ええ、エンチャント・ダークはわたしもMPが満タンになりそうな時にかけるようにしているわ」
ベルさんは光と闇を操る魔法使いであるが、今は主に生産職として活動しているわけだが、戦闘メインで活動している人と違ってMPの使いどころがそこまで多くないのでMPが余りがちなのである。そのためまめに消費して魔法スキルの経験値稼ぎはしているのだ。
一方戦闘メインだといつ戦いになるのかわからないので温存しがちである。急きょ一狩り行こうぜってなった時、MP空っぽだから待ってとなるとテンション下がるし時間は有限なのである。
「ちなみにうさみ、十秒あたりで最大どれくらい回復していますの?」
「十秒当たり最大? ちょっとまってね」
うさみはステータス画面とにらめっこしながら魔法を使った。最大といわれるとちょっと困るのだが。準備が必要だ。
「えっと、改めて【花香水】でしょ。【燃える生命力(仮)】でHPが1になって、【フル・エンチャント】で、あと【満月の結界(仮)】」
魔法を使った。バニさん発案のゲームとかでよくある魔法シリーズはHPを1にするための魔法以外は使わないでおく。なぜかというとまだじっくり検証していないからだ。
そしてメリーの家の室内が満月の夜の周りに何もない空間に変わる。うさみが最も能力を発揮するのが満月の夜。その状況を再現する魔法であり、星光竜と張りあって開発した魔法である。これを使えば一発でMPを0にできるのもあって最大回復速度を確認するにはちょうどいいだろう。
「いーち、にーい、さーん、よーん、ごー、ろーく、なーな、はーち……えっと、途中で満タンになっちゃったんだけど」
うさみは失敗しちゃったなあ、とステータス画面から顔を上げてバニさんを見た。
しかし、そんなことよりバニさんを含む三人は景色が変わって絶句していたのだった。




