困惑のあるけみ・まじかる その5
「なんでインタビュー形式なの? っていうか煽りすぎじゃない?」
錬金術によるポーション生産の片手間に、バニさんが見せてくれた原稿を読んだうさみの感想。
生み出されるポーションの品質は、錬金術師へクラスチェンジしたことと大量に作り続けていることで【錬金術レシピ:ポーション】【錬金術】のスキルレベルが上がっていくことでさらに良くなっていた。本職のメリーが作ったものにはまだかなわないが、能力値の差を考えれば、クラスとスキルのレベルが上がっていけば近いうちに並びかねない。
「第一に印象操作ですわね。これをうさみが書いたとは思わないでしょう?」
それはそうだ。ちっちゃ……子ども……小柄で大人っぽく見えにくいであろううさみの外見からして、こういう受け答えをするようには見えないかもしれない。実際かいたのはバニさんだし。
「ほー。……ほー。なるほど、なるほど」
「こ、これメリーさんも見ていいのです?」
「いいんじゃない? というか、これ、だいたい合ってるけど、わたしが言ってないこと言ってるんだけど」
他のプレイヤーの人を慮るようなことや、NPCの魔法の教え方にどういう意図があるかの分析とか口にしていないし考えてもいなかった。そう言われればそうかもしれないと思うくらいのものだ。ということはこれはバニさんの意見だろうか。
「問題があったらおっしゃってくださいまし、直しますわ。これで魔法学園に注目を逸らすことができれば上々なのですが、どうでしょう?」
「え、う~ん? どうかなあ、もうちょっと魔法学園強調しないと印象薄い気もする?」
「そうね、もっと魔法学園ageた方がいいかもしれないわ」
「ふむん。でしたら」
バニさんが修正案を用意する作業に入る。
「それにしても異界のマレビトの人は死んでも生き返ると聞きましたけど、千回ですか。……千回ですか」
「いやたぶんいってないよ千回。多分」
たぶんね。うさみは数えてないので自信を持って断言はできなかった。でも、千回というと一日三十回以上死んだ計算になる。三十回といえば一時間に一回より多いのだ。一時間に二回より少ないが。……あれ? いやでも。あれ? もっと死んでそうな気がしてきた。
「それより、もうすぐポーション終わるけど、みんなできた?」
どっちでもいいことであるし、もう回数とか考えないことにして、うさみは三人に尋ねた。
なにかというと、スキルである。
「とりあえず、【魔力感知】【魔力操作】【呼吸法】【魔力循環法】【瞑想法】のスキルは取れましたわ」
「でも【瞑想法】を“ながら”でやるのは無理がないかしら」
「これメリーさんも教わってもいいんです?」
「あのね、跳んだり跳ねたり逃げたりしながらできないと意識が取られて死ぬんだよ。だから覚えた方がいいよ」
「千回死んだ人が言うと説得力があるです……!」
魔法の基本とうさみが認識しているスキル群を、ポーション作る間に教えていたのである。話によれば魔法学園とやらで教えてもらえるとのことではあるが、自力で取れるならその方が早いだろうし、うさみも一晩かけて自力でできるようにと叩きこまれたのだから多少はね。頑張ってもらおうということで。
もっとも、三人ともうさみよりも呑み込みが早い。方向性は違えど魔力を扱うクラスについていたせいかもしれない。特にバニさんはほか二人よりも冒険者ギルドでの分アドバンテージがあったのか、別のこと、記事を作りながらの練習に移っていたくらいである。
「MP回復促進系はどれか一つか、いっそ取らないでMPポーションに頼るというのが定番構成でしたが、こうして覚えてみると悪手でしたわねえ」
「それでMPポーションが品薄になっていたですか。作っても作ってももっともっとと……!」
「大変だったのね」
「あなた方のせいですよね!? 注文山ほどもってきたのも! MPポーション使いつぶしてきたのも!」
なんでそんなことになっていたのか。普通に考えて、MPいっぱい使える方が有利に思える。覚えられるなら覚えた方が、0より1は大きいわけで。
これには、戦闘勝利時に獲得できるスキル経験値の仕様に理由がある。
戦闘勝利に貢献したと判定されるスキルすべてに対して戦った敵の経験値に比例した量の経験値が入るのである。ただし、それは該当するスキルの数に反比例する。要するに戦闘に貢献したスキルの数が多ければ多いほど、スキル一つ一つが得る経験値は減るのである。
スキルは戦闘勝利時以外にも訓練などで経験値を得られるのだけれども、敵を短時間にいっぱい倒せるのなら、戦闘勝利時に獲得する量の方が多かったのである。当然そちらが注目され、スキルレベル上げるなら実戦で敵を倒しまくれというのが定説になり、必要ないスキルは取らないで重要なスキルに経験値を集中させるべしというのが主流になり、MPを回復させる手段はスキル以外にもMPポーションなどがあったので優先順位が下がり、魔力操作や魔力感知がなくても魔法スキルを使うだけなら困らないので優先順威が下がりといった具合でその存在感を薄れさせていったのである。
対してうさみは反対である。
まず敵を倒したことがない。なので勝利時に経験値を獲得したことがない。
ひたすら実践と実戦を兼ねた訓練を繰り返してきただけである。あと創意工夫とか。無茶苦茶な難易度の障害を試行と死亡と死に戻りをひたすら繰り返すことで強引に突破してきたのである。
MP回復アイテムとかなかったし。
必要になるMPは自力で回復するしかなかったし。
それでも足りないなら効率化して省エネだ。それでもだめなら体を動かして補うしかなかった。
結果、なんか引かれたり笑われたり驚かれたりするスキルお化けになったのである。
こうしてみるとうさみスタイルがすごくて上のように見えるのだが、実際のところうさみスタイルは死にまくりの単独行動でないとうさみと同等の結果を出すのはまずできないようなスタイルであり、一種の苦行であるとすら言える。
ただ、いままで見向きされなかったスキルが改めて見直され再評価されるであろうことは間違いないだろう。
その結果一波乱あるだろうことも、予想される範囲内であった。




