困惑のわんだーらんど その3
うさみはこの人たちは変な人だけどまともに話せるみたいだなあと、ちょっと上から目線の感想を抱いていた。
といっても、これはまあ仕方がない面があるかもしれない。
スターティアの街に帰って来てからというもの、遠巻きにヒソヒソされるばかりで視線を向ければ目をそらされるしなんだこれもういじめかという目にあわされて。半ばやさぐれていたところに話の通じる相手に出会えたのだ。
通じた話は馬鹿話だけれども。
ついでに出会えたというか連れ込まれたのだけども。見方によっては拉致されたように見えるかもしれない。
逃げなかったのはその気になればいつでも脱出できるだろうという確信があったのと、あの状況がかわるなら流れに身を任せてみてもいいかなという投げやり気味な気分のせいであった。
結果として変だけど話せそうな人たちに会えたので正解だったらしい。
というわけでうさみはせっかくなので聞いてみることにした。話せる相手であれば話してみるだけタダである。
「ねえねえ、さっきね、街に入ってから遠巻きにヒソヒソ話されてものすごい気分悪かったんだ。街っていつもこんななの?」
わりと本気で街によるんじゃなかったかもと後悔しかけていたうさみなので、ちょっと、いやけっこう表現にとげが混じっていた。
内容的にはどんだけ被害妄想抱いてんだよ自意識過剰ですと切り捨てるようなセリフであるが、バニさんとあいすは顔を見合わせ、
「うさみさん、心当たりとかございませんの?」
バニさんが真面目なトーンで問い返した。あいすはというと、ふむ、とか言いながら腕を組んでいた。
「えっと、おかしなことをした覚えはないんだけど、ゲームあんまりわからないからやってるかもしれない?」
うさみは本気で言っている。
大勢ゲームしてるはずなのに初日以来他の人と会ってないなあ、もしかしてわたし誰も知らない隠し面はいってたのかなあ、だったらすごいかも、くらいのことは薄々思ってはいたのだが。
それでも他の人と接触してない以上腫れ物に触るような扱いを受けるいわれはない。
帰ってきたときなんか人がいっぱい集まってたけど、星光竜さんが吠えたら解散しはじめたし、地面に降りたらすぐにウサギに連れ去られたからそんな見られてないはず。
うん、やっぱりあんな仕打ちを受けるいわれはないよね。
でも自分が無知なのは自覚しているところでもあり、知らないところでなにかあるのかもしれないけど。
と、うさみは思っていた。
しかし。
「うさみー、今朝ドラゴンに乗って北の平原に降り立って大量のウサギに乗って去っていったのはうさみー?」
「えっと、たぶんそうだよ。ウサギに乗って去っていったんじゃなくて、連れて行かれたんだけど」
「それ」
あいすが腕をほどいて右手の人差し指を立てながら、断言する。
要するにうさみが思っていたのと周囲の状況は大きく違ったというわけである。
うさみは以前からスターティアにおいて星光竜が警戒されていたことも知らないし、今日飛来してきた星光竜への対応で街が混乱に陥ったことも知らない。
そしてドラゴン来襲というイベントとして認識され、現場にいたプレイヤーのうち複数によってプレイ動画として録画されていたことも当然知らなかった。
そしてその動画がウェブ上の掲示板経由で拡散され、謎の金髪赤リボンの少女(後ろ姿のみ)が話題になったことも、その情報がゲーム内に逆輸入されスターティアの街で噂になっていることも予想すらしていない。
しかし、あいすはその流れを知っていたので断言できたのである。
「なんのことですの?」
しかし、バニさんは知らなかったので話についていけなかったのである。
「バニさん塔に行ってたから。これ、百合子のレポート」
バニさんは、別の用件で出掛けていたため、その場に居合わせなかったので知らないよね、ということをあいすが指摘する。
そして空中にウィンドウを呼び出し、ウェブ上にある、事件のあらましをまとめたリリアーナというプレイヤーによるレポートを表示させ、うさみのバニさんの前に差し出した。
「ドラゴン来襲事件のあらまし?」
「なにこれ! ねえ、この空中に出すやつどうやるの!?」
記事を読み始めるバニさんと、全く違うところに喰いつくうさみ。
「普通にウィンドウを出してメニューからブラウザを起動させるといい。このゲーム専用のブラウザしか使用できないけれど」
「ういんどう? めにゅー?」
ん~? と首をかしげるうさみ。うさみに合わせて首をかしげるあいす。
「インターフェイスが違う? ARモードならウィンドウモードにするといい」
「いんたーふぇいす? えーあーる?」
んんん~? 両者はなぜか張りあうように、首だけでなく上半身も傾けていく。だんだん角度が厳しくなってあいすがぷるぷるし始めるのと、うさみの頭がぽふんと隣のバニさんに届いたのは同時だった。
「……何をしてますの?」
バニさんはジト目であいすとうさみを交互に眺め、呆れ声で言った。