困惑のあるけみ・まじかる その4
「できたよ。ポーション。品質110。だって」
「ええええええ!?」
驚いて大きな声を上げたためみんなが注目する。
「どうしたの?」「どうしましたの?」「びっくりしたーポーション少しこぼれちゃった」
【製薬】で手作業で作ったポーションを瓶に移していたベルさんが声を上げたメリーに苦情を言うがメリーはそれどころではないようで。
「普通錬金術で作ったら品質劣化するですよ。初めてだとまず間違いなく。素材の品質も変わらないものですのに……」
「えっと、【錬金術】持ってるからじゃないの? あと、バニさんとベルさんのお手本もいっぱい見てたし」
うさみに対し、まるで問い詰めるような剣幕で言うメリー。
【錬金術】でのポーション作成にあたってメリーが出した指示は簡単なもので、「さきほど作った手順を思い浮かべながら錬金釜に素材を入れながら書き混ぜてくださいです。自動で魔力を持って行かれますから、なくならないように気を付けてくださいです」とこれだけであった。
なのでうさみは指示通り、材料と魔力を投入したのだ。ただし【製薬】で作っていた間に横でバニさんとベルさんがやっていた錬金術、その魔力の動きを感知して覚えて参考にしていたのだが。
さらに言えば【錬金術】スキルはすでに持っており【製薬】スキルは持っていないということももちろんか変わっていることだろう。
「あう、普通の見習いじゃなかったのを忘れてたです……というか製薬しながらよそ見してたですかっ!?」
「ううん? 魔力の動きを把握してただけだからよそ見はしてないけど」
「え?」
「へ?」
「ん?」
「えへん?」
最後のえへんはバニさんの茶々である。ちょっとかみ合ってない様子を感じ取りうさみは認識のすり合わせを試みようとする。
「えっと、魔力の動きってわかるよね見なくても? あ、いやちょっと待っていつからわかるようになったんだっけええっと……わからない?」
「何を訊いてるのかわからないですけど……メリーさん魔力の動きは意識して視ないと難しいです」
残念ながら試みは試みる前に破綻してますますうさみは混乱し、メリーはどうしようこの子いやまさかと疑惑を持ちつつ否定したりしている。
その横でバニさんが一人でうんうんと頷いているのを見てベルさんが突っ込む。
「娘さん何一人で納得しているのよ」
「なに、やはり我々は大きな誤解をしていたようですわね、と改めて思いなおしていたのです。うさみ、魔力知覚と魔力操作は得意ですわよね?」
「得意っていうか、だいたいそれが全部だよね魔法って」
「えっそれが全部?」
「えっと、違う?」
あれ? と首をかしげるうさみ。聞き返してきたベルさんの様子を見るに魔法に対する認識が違うらしいことはわかる。わかるけれども、じゃあどう違うの?
今日うさみは自分の認識を揺さぶられ続けているのでこれもまたわたしがおかしいのかなと不安になった。しかしそれは即座に収められる。
「いえ、うさみは正しいですわ。正確に表現するとより真理に近い場所に居るというべきでしょうか」
「どういうこと?」
「よくわからないですよ」
「娘さん回りくどい」
バニさんはもったいぶった言い方をするので時々面倒だなあと思うときがあるのだけれど、ベルさんが旧知の気安さかざっくりと切り捨ててくれたので何となくすっきりしたうさみである。
しかしそれでもへこたれないバニさんもなかなかにしぶといというか図太いというか。
「ほほほ、つい癖で。ごめんあそばせ。できるだけ簡単に言いますと、うさみは常識を超えたレベルの魔法使いですから、わたくしたちのレベルの“常識”よりもうさみ個人の認識の方が、より正しいところにあるものだろうと、わたくしは思います。ということですわ」
「いやそんなに持ちあげられると逆にどうかなって思うんだけど」
「あの、もしかしてうさみさんは名のある魔法使いの方だったりするのです? たとえば、称号をおもちとか?」
「わたしも娘さんが一目置いてるかわいい子、くらいにしか知らないわね」
なんだか大げさに言われているような気がするうさみだったが、今日何度もバニさんには言われてきたなと思いなおす。自覚しろと。
ちょっと普通じゃないことを思いの他にやらかした、という認識はある。その結果普通の人とちょっとばかり違った結果を得て、それが原因で悪目立ちしそうになったりしたわけだけれど。
こと魔法に関していうならば、普通の範疇のトップクラスがバニさんであるならば、――正直うさみからみれば初歩のレベルでしかないように思われる。とはいえ自分も初歩を教わった後はほぼ我流であり、真理だとか正しさだとかそういう表現からは程遠いだろうかとも思う。
と、ここまで考えたところで何かがすとんと納まった。
わからないならわかるようにしたらいいじゃない。
整理して確認する。
だいたい勢いと流れでやってきたものだからひとつ見つめ直してみようかと。
というわけで、うさみによる魔法講座とあいなった。
うさみがうさみの魔法について認識しなおすためである。




