困惑のあるけみ・まじかる その3
「まず製薬技術ははマレビトの皆さんの世界では通用しないことをまず明言しておきますです。よろしいですか?」
「えっと?」
「はいですか? いいえですか?」
「はい」
よろしい、とメリーが満足げに頷く。
「製薬以外でも通用しない技術は多いけれどね。それこそ魔法とか」
ベルさんが捕捉をくれる。一部の製造系スキルを教えてくれるNPCが教授の際にいうお決まりのセリフだそうだ。要するに大人の事情である。
「こういうところゲームしてるという実感が得られますわよね」
「そういうものなの?」
「ちょっとーちゃんと聞くですよー!」
とまあこういった流れでうさみはポーションの作り方を教わったのである。
「そこは丁寧にゆっくりやるのです。焦ってやると変質して薬効が――」「これを混ぜる時は一ッドに入れるのではなく混ぜながら少しずつ――」
などと細かなアドバイスをいただきながら量を計ったり石?を削ったり草?をすりつぶしたりひたすら混ぜ合わせたりして完成したのが。
「ポーション。HP回復+HP回復力強化。品質107。だって」
「うさみさんほんとに初めてですか? 品質値100を超えるなんて……!」
「初めてだけど……」
『能力値が高いとボーナスつきますものねえ。うさみなら下手な生産職より高補正つくはずですわ』
『そんなに』
完成品の品質が高くメリーが驚きの声を上げる。
品質が高いと同じアイテムでも効果が高くなるのでつまりよいことなのだ。ぐっど。
アイテム生産の成功率は該当のスキルとクラスだけではなく能力値にも影響を受ける。
そして品質は主に素材と工程ごとの評価によって算出されるのだが、これに成功率に比例して底上げされる、という仕様がある。要するに同じ材料作り方でも上手な奴が作った方が高品質になるというわけだ。そしてうさみはちょっとばかり普通より能力値がすごくたかい。ちょっとね。もう月が昇る時間でもあることだし。
結果品質がプロもちょっと驚くくらいのものができてしまったのである。初めてなのに。
「それよりこれって、錬金術じゃないよね?」
「それよりって……あーはい。これは【製薬】です。この一連の生産作業は錬金術ではありませんですよ」
さらっと流して尋ねるうさみ。本当に興味ないことよくわからないことをスルーする癖がある子である。
とはいうものの、それより気になったのがつまり【錬金術】じゃなかったということだ。
ポーションが完成したとき取得したスキルが【製薬】だったのである。錬金術じゃなかったのである。獲得したレシピも種別が【製薬】になっている。
「【錬金術】でポーションを作るなら、本来の工程を知っていた方が効率が良いのです、と教科書にありまして」
「ほうほう」
「それそれ、そこのところなど改めて聞かせてもらおうと思い参りましたのよ」
「などです?」
「などなど」
本日の目的は錬金術についての話を聞くことであり、食事を差し入れ仕事を手伝うのは手段である。メリーが自由に動けないとお話もできない。
そんなわけで本題に入りたいところだが、まだ机の上の瓶は半分くらい空き瓶である。ついでにうさみはまだ錬金術でのポーションの作り方を教わっていない。もうすこし時間がかかりそうである。
というわけで選手交代。バニさんが【製薬】で作業を始め、うさみが【錬金術】を教わる順番である。
「あ、その前にうさみ、補助魔法かけてもらってもよろしいです?」
「いいけど。【フル・エンチャント】」
【フル・エンチャント】は能力値を増強するエンチャント魔法をまとめてかける魔法であり、うさみの半オリジナルといってもよいかもしれない。中身のエンチャント魔法はアン先生に教わったものなので“半”なのだ。
当然ながら魔力の消費量は相応だ。長時間効果がある魔法でありまとめて六つ分かける訳なので、つまりいっぱいである。
そんな魔法をぽんと使って平気な顔をしているうさみを見たメリーが何か言いたげな様子であったがすぐに元の様子に戻った。
「ありがとうございます。それでは【製薬レシピ:ポーション】」
ともあれ、補助魔法を受けたバニさんがスキルを使うと通常の三倍の速度で動きだした。
「なにあれ」
きもちわるい、と言い切るのをぐっとこらえるうさみ。動画の早回しのような違和感がある。
「レシピで生産するとああなるのよ。はじめはちょっと見た目慣れないけど時間考えるとすごく便利」
「へ、へえ」
「さあそれよりも【錬金術】ですよ」
うわあうわあと内心引いていたうさみ。慣れるのアレに。まあ慣れるか。うーん。なんて考えているとメリーが現実に引き戻してくれる。引いたり引かれたり忙しい。
「それでは【錬金術】開始です」




