困惑のあるけみ・まじかる その2
メリーはスターティアの街に住む数少ない錬金術師である。
といっても錬金都市で修行した資格持ちではなく、錬金術師であった祖父の遺した覚書をもとに独学で覚えたほぼ我流の錬金術師であった。
父母は冒険者であり出稼ぎに出た先で消息不明となってはや数年。知りあいの薬師の元に身を寄せて、薬師の修行する毎日だった。しかしあるときその薬師が別の街に居る親戚に呼ばれ、スターティアを去ることになった。薬師は一緒に行こうと誘ってくれたのだが、行方不明の父母が帰ってきたときこの街に居なければ困ると言ってスターティアに残ったのである。その後本来の家に戻り掃除をしていたところ、件の覚書を見つけ、興味を覚えて勉強を開始、今では一応錬金術師といえる程度の技術を身につけたというわけだ。
問題は薬師としての活動をしつつ錬金術の勉強をして日々の家事もこなしと忙しく、また研究費に生活費にと貧乏生活を送っていたため、たまーに、そう、たまーにうっかり限界を超えてしまって倒れてしまうことがあったのだ。お腹がぐーきゅるるとか、作業中にぐーすーぴーとかである。
そんな時は運よく異界のマレビトの方がやって来て助けてくれたりくれなかったりしたのである。
そのお礼にとメリーが最も得意なポーションの作り方などを教えたりしていた。ただ市販のポーションと大差ない効果であったせいかあまり喜ばれなかったので残念でした。
そしてそんななかやってきたのが†バーニング娘†と仲間たちである。
別にたいしたことではない。
冒険者ギルドと直接契約を結ぶ仲介をしただけである。
細々と明日をも知れぬというか今日のご飯にも事欠く生活を送っていたメリーがポーションを作る能力を持っていることを知っており、またスターティアの街のポーションの需要が高まっているにもかかわらず供給が不十分であるということで供給元をたどった結果たどり着いたのだ。そして冒険者ギルドに材料を用意させ、メリーがポーションを作る。輸送その他は冒険者ギルドが持つという契約を結んだのである。
とバニさんは説明した。
「問題はその後です! 大量発注をいただいて頑張ってこなしていたらだんだん発注量が増えていったのですよ。どうにかこうにか対応していたのですがもう限界むりむりあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
といったところで錬金都市がですね」
「お仕事持って行っちゃった?」
「いいえ。あ、そうなんですけどそれでもそれは助かったですし、メリーさんが生活していくのに十分な程度の発注は貰えてるので問題ないです。ただ急に殺人的な仕事量から解放されてちょっと休憩のつもりが休みすぎてしまい、仕事がたまってしまったのですよ」
そしてご飯食べるのも忘れて仕事をしていたそうな。
重ねて。自業自得であった。
ともあれまとめるとポーションの作り方を教えてくれるNPCであるメリー、しかしポーション自作がプレイヤーにとってあんまり魅力的ではなかったため、また会いに行くと倒れているという不憫な設定により敬遠されていたところをバニさんによってポーション供給マシーンに仕立て上げられたのであった。ひどい。
「バニさんひどい」
「娘さんえげつない」
「そうですそうです」
「わ、わたくしは悪くないですわ!?」
三人に責められて大げさな身振りで無罪を主張するバニさん。どことなく楽しそうなのはなぜだろうか。うさみは首をひねったが答えは出なかった。
「過去は置いておいて、今日はメリーに少々聞きたいことがあって来たのですけれど」
バニさんが話題を変えにかかる。
「え、メリーさんポーションの納期が危険があぶなくてお急ぎなのですけど」
「それは手伝いますから。【クラスチェンジ】【錬金術師】」
「はいはいっと。【クラスチェンジ】【錬金術師】」
初めからそのつもりだったらしいバニさんとベルさんがクラスチェンジする。どうやらクラスを獲得していたらしい。
「錬金術を使ってポーションを作れば【錬金術師】になれるですよ……ってあれ、あなた【錬金術】スキル持ってますですね」
「え、そうなの?」
説明ゼリフをうさみに向けて言いつつ、言がいそうに指摘するメリー。
うさみはウィンドウを開いて確認する。あった、レベル27。
「錬金術師でもないのに【錬金術】を持っている人はまず珍しいはずですよ」
さてどこで身に着けたものだろうか、と考えるうさみだが、思い当たるのは一つしかない。アン先生の工房だ。鞄や団子を作るときに手伝った。その時だろう。他にはない。
「まあそれはいいです。お二人は交代で錬金釜を使って、できたポーションを詰めてください。メリーさんはこちらのうさみちゃんに基本を教えるです」
「了解ですわ」
「やはりそこからなのね」
まわりが動きだす。うさみはどちらかというと最初に動くタイプなのでこういうタイミングはちょっと苦手である。
「それじゃあポーションづくりを始めるですよ」
「はい!」
なので早く動きだしたい。その気持ちがもれてちょっといい返事をしすぎてしまい、メリーをすこし驚かせてしまったのであった。




