困惑のあるけみ・まじかる その1
室内はいつかどこかで見たような雰囲気の内装であった。
そう感じたのはいくつかの設置物が同様のものであったからだろう。
迷いの森のゴリラ。もとい森の賢者であり、うさみ魔法のの先生であるアン先生の小屋にある工房。あそことよく似た部屋だった。
最初に目に入るのは大量の瓶が並べられている中央の机である。おそらくその瓶に何か詰めるために準備しているのだろう。机の端に円形に空いたスペースがあり、そこに何か、鍋とかを置いて作業する目算なのではなかろうか。
次に目立つのは大きな釜だ。アン先生が錬金釜と呼んでいたそれと同じものであることが、うさみの目にはわかる。同質の魔力を込められた魔法のアイテム。これに材料をぶち込んで魔力を込めながら書き混ぜてかき混ぜてかき混ぜると不思議なものができるのだ。謎の団子とか、外見以上にいっぱい入る鞄とかである。
そのほか、そのいっぱい入る鞄と似たような気配のするなかなか手の込んだ装飾がしてある大きな箱であるとか、何に使うかよくわからない機材であるとか、そういったものが棚やテーブルや床に置かれていた。
アン先生の工房と違うのは普通に生活するのに使うような家具の類が同じ部屋に置いてあることだろう。これは単に森の小屋では別に部屋を用意していたという差である。ベッドやクローゼット、鏡台やかまど、それから床に倒れた人。
倒れた人!?
「うわあ誰か倒れてる!? えっとそうだ、【ヒール】! 【花香水】! 【フル・エンチャント】!」
うさみは慌ててさっきから連発していて頭に残っていたヒールを使い、よく見るとST値が極めて少ないのがわかったので回復速度を倍増する花香水をぶっかけ、おまけとばかりに星光竜との決戦で用意した、能力値を向上させるエンチャント魔法を全部まとめてかける魔法を使った。能力値が意味があるかどうかわからないけれど倒れた人にも有効だったらいいなあと。
そして駆け寄る。順番が逆ではないかと後から思ったが、それはそれ。看護師さんとかプロフェッショナルならともかく、うさみは普通の人なので、思いついたことをとっさにやってしまったのである。このあたりうまくいくこともあるが失敗することもあるのでしばしば反省するのだがなかなか直らない。それよりもこの人だ。
「だいじょうぶ!?」
声をかける。
地味な服が主流な街の人と比べてカラフルな配色の服を身に着けた女性であった。首元に手をやる。暖かい。高熱があるわけでもない。脈はある。息は、ある。
ざっと見る限り外傷はない。うつぶせから横向きに体勢を変える。隠れていた場所にも特に怪我などはないようだ。
「おねーさんだいじょうぶ!?」
声をかけ続ける。
歳のころは十代半ばといったところか、なかなかアグレッシブな服装だ。おへそ出てる。スカートは長いがスリットが深い。
目につく問題がないのでどうしようかベッドにでも運ぼうか頭でも打ってたらまずいかなどうしようどうしたらあーもーと思っていると、女性がうっすら目を開ける。そして、
「お、おなかすいた」
ぐー。
ぐーといってもいびきではなくお腹の虫である。
うさみは力が抜けてがくーとなった。がくー。
「やあやあメリー、差し入れ持ってきましたわよ。しかしうさみ、手際いいですわね」
「やっぱり新規の人が来ると倒れてるのねえ」
そうしているとのんきな口調で声をかけながら二人ほど部屋に入ってくる。
というかうさみを先に行かせたのはそういうことか。
がくー。
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要するにゲームのイベントらしい。来訪者が扉を開けるとなんと女の子が倒れているというパターンはプレイヤーが女性で初めての来訪である時に起きるイベントだそうで、対応如何で仲良くなったり嫌われたりするらしい。なかなかエキセントリックなイベントである。あんまり何度も倒れているので病弱メリーさんとあだ名がつけられたが、新規プレイヤーさえ入っていかなければ特に倒れたりしないことが検証の末にわかり、不憫なので用のないプレイヤーは近づかないようにしようと暗黙の了解があるとかないとか。
という話を、アトリエの主、錬金術師メリー嬢が差し入れの串焼きその他をはむはむしている間にバニさんとベルさんが語ってくれた。
「メリーさんも、いつも倒れてるわけじゃないですよ? 今日はちょっとノルマがたまっていたので……!」
「錬金都市との通商が再開して需要過多は緩和されたのではなかったのですの?」
「そ、それはそのですね、ちょっと休暇をと思って休んでいたら、つい仕事がたまってしまったのでですね」
どうも自業自得らしかった。
うさみがジト目を送るとメリーは慌てた風に手をバタバタ動かし、
「違うんですメリーさん悪くない! メリーさんに大量すぎる仕事を手配したのこの人ですから!」
とバニさんを指さす。
指さされたバニさんはにっこり笑ってあらぬ方へと目をそらしたのだった。




