困惑のさいとしーいんぐ その21
「ぷっあははははははははは!」
「うひゃあ……」
控室で待っていた二人と合流し、あったことを話すとバニさんがキャラ設定ぶっ壊れるレベルで爆笑し、ベルさんは引いていた。死んで二百万リネ失った時と違ってドン引きではなかったのは慣れたせいだろうか。額は五倍なのだけれど。
「でもほら、なんだかいっぱいスキル増えたし。【ヒール】【ブレッシング】【サンクチュアリ】【ホーリーバリア】【グロリア】……ん?」
うさみがスキルを連発すると、エフェクトであたりがきらきらと輝かしくなる。
というかむしろまぶしい。
「ええと、うさみちゃん、聖職者のスキルは使うたびにお金が奉納されるの、説明受けなかった?」
「え? 【プロテクション】……ああ!? ほんとだ!」
「聞き逃したのですねきっと」
ステータスウィンドウを表示して所持金欄を確認しながらスキルを使うと一リネ減った。
話によるとスキルレベルと同値だけ減る仕様で、代わりに神殿への累計奉納額が加算されているらしい。
「神様って……」
うさみはちょっと複雑な思いを覚えたが最後まで口に出すのはやめておいた。一応ほら聖職者になったわけだし。
それはそれとしてそんな話は聞いていない……と思うのだけど。多分。きっと。めいびー。確かに上の空だったけれども。
という表情を読み取ったか、バニさんが正規の手順で進めた以上NPCが言い忘れるようなことはないと思いますわよ、と止めを刺してきた。しかし真相は闇の中である。闇の、中で、ある。
『ところで、【神官】レベル幾つになりましたの? 【超初心者】で【入信者】や【神官】のスキルは使えます? 覚えたスキル一通り教えてもらえたらうれしいですわ』
『娘さんがっつきすぎ?』
『あー、別にいいけど』
なんて話しながら、今度こそ目的地へと向かう。
錬金術師のおうち。アトリエだという。
道中プレイヤーの人の露店で食べ物を買ったりしつつだ。
ウサギのお肉だという串焼きを多めに購入。この後必要になるのだそうだ。一本いただいたら敏捷値の数値が一増えた。お腹が減らない代わりに一定時間ボーナスがつく、というのはこのことかとうさみは理解したが、合計二百を超えている数字が一増えたからどうなるのかなと疑問に思い、それを口に出すと、
『小さな補正の積み重ねが最終的に大きな差になるのよ』
『一定値ごとにボーナスもありますしね』
二人から反論をいただいたのだった。ゲームに詳しくないうさみよりはその認識は正しいのだろうと納得しておく。うさみとしては細かい数字のやり取りは重要なのだろうけど、ゲームでまで数字に振り回されたくないというのが本音だ。レジの数字が合わないとか帳簿の数字が合わないとか右辺と左辺が合わないとか解なしとか。そういうのはいいから。どうせなら体動かしたい。その方が楽しいじゃない。
『一点の数値を追いかけるのはゲーマーのサガというものですわ』
『そういうものなの?』
『皆が皆そういうわけではないわよ? こだわる度合いも人それぞれね。まあ、聞く限り自称ゲーマーなプレイヤーには極振りが多いようだけれど』
極振りってなんだろう。極端な振り? 極端なボケを要求する感じ? ゲーマー関係なさそうだし違うかなあ。
そんな話をしたり感想を抱いたりしているうちに問題の場所に到着するのだった。
□■□■□■
何の変哲もない街角で周り同様石造りの建物。木製の看板に飾り文字で【アトリエ】とある。ずいぶん年季の入ったもので、風格すら漂うその看板はまめに掃除されているのか塵や埃がたまっているような様子はない。
あたりは徐々に薄暗くなってきているのだが、その建物からは灯りが漏れていた。
にもかかわらず、中に人の気配は希薄。他に光が漏れる建物からは人の気配がはっきりとするのだが、このアトリエに限っては違うのである。これは一体どうしたことだろう。
いつのまにやら先頭に立っていたうさみは二人を振り向く。二人はどうぞどうぞと身振りで示す。このシチュエーションは何度か経験したことがあるような気がするのだけど。
つまりまた何かイベントがあるのだろう。
うさみは覚悟を決めてアトリエのドアに手をかけた。




