困惑のさいとしーいんぐ その18
「【オートフィット】なんて便利機能がそれなりに安価で存在しているのに、この機能がない生地や製品も販売しているということは、これはなんらかの方法で追加されたものである、と考えた場合怪しいのはやっぱり錬金術なわけよ」
「そしてこういった機能を追加できるのなら【オートフィット】以外の機能も付与できるのではないか、と。例えば防水。例えば水中活動。あるいは生地の特性として速乾性や伸縮性。吸湿性の低さ。そういった系統の追加効果を得られるならば水着の素材になるでしょうね」
「よくわかんないけど、化学がだめなら魔法で勝負だってこと? ていうかこの恰好めっちゃ馴染むんだけど! いくら!?」
髪をアップにしてキャップにつっこみ、ワイン色のジャージ上下を身に着けたうさみが尋ねる。
ジャージ超馴染む。自宅のような安心感というか、このままベッドに入りたい。そしてあったかいお布団に包まれたい。
「え、着せといてなんだけど、もうちょっといろいろ気を使わない? おしゃれとか。あとファンタジィとかさあ」
「魔法というか錬金術ですわね。錬金都市フィヴルアが解放されたのはつい最近なものですから、まだ情報が出そろっていなくて」
ジャージを欲しがるうさみと、ちょっと待ってよそれネタ枠だからと止めようとするベルさんをスルーして話を進めるバニさん。
なんでも、新しいアイテムの検証が先行しており実際に手を出す者がまだ少なくて錬金術についての概論的な情報がまとまっていないという。手を出したものも未だ初歩の段階で苦戦中であるとか、集中していて情報の拡散に気を使っていないとかそういった事情があるらしい。そもそも情報の拡散、共有は別に義務ではないので仕方がない面もある。
この間にうさみはジャージを2着注文した。せっかくなのでと体のサイズを計られた。すとーん。専用で作ってくれるらしい。専用なら【オートフィット】不要なのでいくらか安くなるそうな。
「公式からアナウンスがあってもいいと思うけどね。都市への到達と開放はアナウンスがあったでしょ」
「ゲーム内で発見することを楽しめとそういうスタンスなのでは? とりあえず、錬金術師のクラスチュートリアルクエストではポーション作成ができるようになるようですわ」
「ふぅん。それじゃあ、錬金術のNPCの人に聞きに行くのは?」
ポーションってなんだ。昔販売されたという青い瓶の清涼飲料水だろうか。うさみはゲーム知識がないので知らなかったので首をかしげる。
RPGとかやってる人にはおなじみであろう。要するに魔法の薬である。ファンタジーではお約束アイテムの一つといっていい。HPを即時回復させたりなど、不思議な効果がある。傷が一瞬で治るのは現実的に考えればとても不思議。
「そうですわねえ、スターティアにも錬金術師がいますが、彼女はポーションの作成に忙殺されていましたわね」
「プレイヤーのせいで需要過多だからねえ」
そんな不思議なお薬ポーションはその効果ゆえに人気が高い。HPが0になると死ぬ。死ぬといろいろとペナルティがある。なので死なないように立ちまわるわけだがそれでもミスや不測の事態は起きるので、緊急でHPが回復できるアイテムは重要視されている。戦闘をするならとりあえず持っておくべきとされ、数千人が必要としていたのだ。そりゃあもう忙しいことだろう。徐々に増えたのではなく、予見されていたとはいえいきなりこれだけの需要が湧いて出たのである。きっと物凄いたくさん作らなければならないのだろう。具体的な数とか考えたくない。ブラック労働が想像される。
「でも錬金都市と交易路が開通したから、いくらかマシになっているのじゃない?」
「ふむ、ではちょっといってみましょうか」
「え? あ、うん」
そういうことになった。バニさんとベルさんは旧知であるせいかとんとん拍子に話が進むもので、うさみは錬金術とか詳しそうで「困ったら聞きに来るように」といわれているアン先生のことを言いだしそびれたのだった。まあでも目的が達成できるならどっちでもいいよね。水着。
そろそろ夕方が近づいているのもあり、善は急げと三人は手早く移動を開始するのだった。




