困惑のさいとしーいんぐ その17
ベルはいわゆる生産職として認識されている。
生産職というのは戦闘よりもアイテムを生産することに重きを置いたクラス、あるいはそのクラスをメインに活動しているプレイヤーを指す言葉で、今回の場合は後者である。
【仕立屋】というクラスは基本的には布を使って衣服を作ることを重視したクラスである。それだけではなく皮革も扱えるし、衣服以外にも、例えば靴であったりベルト、アクセサリーなども製作できる。現実での技術や知識を流用しやすい点で他の生産職に比べると敷居が低いため、人口も比較的多いが、その中でもトップグループに入る腕前であるということは自他ともに認めるところである。
婉曲な表現を重ねたことには理由がある。
もともとベルは光魔法と闇魔法を併せ持つミステリアスな魔法使いカッコいいひゃっはー、というプレイをしていたのだが、店で売られている装備品、特に服系のデザインが地味なことに耐えられなくなり、もういい自分で作るもん! と服飾に手を出したという経緯があるのだ。そして現実世界でコスプレ衣装などを自作していたため、相応に経験があった。そのうち仕立屋やってるほうが楽しくなってきてしまい比重がそっちに傾いてしまったというお話。
ちなみに同様に服のデザインが気に入らないと【スタイリスト】に手を出した†バーニング娘†とは、もともとつるんでいた過去がある。地味な衣装をどうにかしようという話が持ち上がり、情報を集めてそれぞれ別の方向からアプローチすることで、片方が外れ引いてもどちらかが目的を達成できればとリスクヘッジしたのである。しかし、その結果それぞれ別のプレイスタイルに落ち着いてしまったので一緒に行動することが減ってしまったという、少し残念なオチがある。
それでも頻繁に情報交換や素材の融通などを行い、最前線組といっていいバニさんとつながっていることで生産職としても一歩リードしているのは間違いない。少なくともオリジナルレシピの数に関してはゲーム内有数である。なのでうさみに着せるべき服もたくさん所蔵しているのだ。
「グッジョブですわ! すばらしいですわ! ちょっとサイズが大きいところが特にグッドですわ!」
「でしょう? オートフィットの調整に苦労したのよ。普通に作るとぴったりになってしまって」
「ちょっとなにこれ!」
うさみは体操服を着ていた。
やや大きいサイズで裾あたりがダブついており、その切れ目から紺色が覗く。
ブルマーである。絶滅していなかった!
足元はもちろん白のハイソックス。靴は運動靴っぽいものだ。
髪はポニーテールで健康的な運動少女の姿であった。
「スカートが苦手だということでね、どうかしら、これなら動きやすいでしょう?」
「いやちょっとこれは恥ずかしさが先に来るよ。うちハーフパンツだったし」
うさみが裾を伸ばして下を隠そうとする。
その仕草を見てバニさんが何やらくねくねと動いている。飛び掛かる前兆だろう。ほら飛びついた。うさみは一度捕まるがぬるりと抜けだす。
「これがだめなら水色のスモックに黄色い帽子のセットなんかどう?」
「その方向性はやめよういくらなんでも」
うさみ、真顔の拒否であった。
「それにしても、これ着る前はおっきく見えたけど、着たら縮んだ気がするんだけど」
「ええ、【オートフィット】使ってるからよ」
「なにそれ」
【オートフィット】とは装備に付与された特性である。体のサイズに合わせて装備品のサイズが調整されるのだ。調整されるがゆえに、ぶかぶかであることが通常の状態であると設定するのに手間取ったと先ほどベルさんが述べた。
ReFantasic Onlineにおける生産は基本的には【レシピ生産】によって行われる。材料と道具をそろえ、スキルとして修得したレシピを使用すると体が勝手に、高速で動き短時間でアイテムが完成する。スキルレベルが足りないと失敗して廃棄物ができたりもする。
そしてそのレシピは人に教わったり書物で調べたりスキルクリスタルというアイテムを介して覚えることができる。
次の段階として、レシピに習熟すると【アレンジ生産】を行うことができる。これは一部工程を変更するものでサイズやデザインを部分的に変更できるというものだ。アレンジでできた品は元のレシピとは品質や効果が変わったりする。また、アレンジ後のレシピを取得できる。この時アレンジ者としてレシピスキルの説明欄に名前が残る。
少し変わって、【オリジナル生産】を行うこともできる。これは完全手動で現実世界で作るのと変わらない手間と時間をかけて行われ、完成品はオリジナルのアイテムとなり、レシピにはレシピ制作者として名前が残る。これは完全にマニュアルで作成するので現実での技術が反映される。能力値が高ければ思う通りに体が動くなどの恩恵もあるが、基本的には腕次第である。
なおベルさんはもっぱらオリジナル生産で新しいデザインの衣装を作っている。
「で、市販の布に【オートフィット】がついているものといないものがあってね」
「それで【オートフィット】がついているのは錬金術で作られたんじゃないかって? ……この説明するのにわたしブルマーに着替える必要あった?」
「もちろんですとも! さあ次はこちらなど着てみましょう!」
「バニ子、マテ」
「わんわん!」
「や! のーわんわん」
このあとうさみが着替える着替えないですこーし時間を食うことになる。




