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困惑のわんだーらんど その2

 【Wonderland Tea Party】はクランと呼ばれるプレイヤーによる組織のひとつである。

 クランとはReFantasic Onlineにおける、プレイヤー間のコミュニケーション補助のためのシステムで、結成、所属することで様々な恩恵を受けることができる。

 その一つに、クランハウスの設置というものがあり、これはクランに所属する者および、クランリーダーもしくはクランリーダーが任命するサブリーダーが許可した者しか進入できない施設をゲーム内に持つことができるというものだ。

 このクランハウスは初期設定、もしくはコストをかけて拡張することで様々なカスタマイズが可能である。

 例えば【Wonderland Tea Party】の場合はレストルーム、というより喫茶店風にカスタマイズしている。カウンターおよびイスとテーブルを数組、パーテーションに観葉植物などが配置された、落ち着いた雰囲気。

 カウンターの奥にはキッチンがあり、また二階にはメンバー用の個室や倉庫を設置してあるが、たいていの用事は一階のこのスペースで片付くようになっている。


 クラン結成には幾つかの条件を満たした上で特定のクエストをクリアする必要があるが、【Wonderland Tea Party】は最初に条件を満たし、二番目に結成したクランとしてそれなりの知名度を持っている。

 そしてそのクランのクランリーダーこそがバーニング娘であり、名物プレイヤーとしてそれなりに耳目を集める人物であった。


「ようこそ、【Wonderland Tea Party】へ。バニさん、お客様を奥に。それとおかえり」


 キッチンから出てきた女性がコック帽を取りながら声をかける。

 赤い髪のバーニング娘とは対照的な短めにそろえた青い髪。コック帽をかぶっていたのは料理をしていたからだろうか。紺色の服の上にフリルのエプロンを身に着けている。そして黒縁のメガネをかけており、その耳は尖っていた。エルフさんだ。

 ちなみにバニさんというのはバーニング娘の通称のひとつ。ほかにバニ姉さん、バーニングさん、娘さんなど様々に呼ばれることがある。


「あ、ええ。ただいま帰りましたわ、あいす。ええと、とりあえずこちらへ」


 バニさんが奥を示して先導すると、金髪少女、うさみは一度扉を振り返ってから、バニさんに続いて奥へ進むのだった。、





 □■□





「わたくしは【†バーニング娘†】と申します。呼びやすいように呼んでくださいな。クラン【Wonderland Tea Party】のクランリーダーを務めております。といっても形だけですが。こっちは【あいす・くりぃむ】」


「どうも、ひらがなで【あいす・くりぃむ】。横棒じゃなくてちいさい『ぃ』。あいすと呼んで」


「あっはい、えっと、うさみだよ。」


「うさみーでもいい?」


「ふえ? い、いいけど」


 バニさんとうさみはカウンター席へ。

 あいすはカウンターの向こうで何やらシェイカーを振りながら、自己紹介を終えるとそっと脇において後ろにあったポットを手に取り脇においてあったカップにお茶を淹れる。


「粗茶ですが」


「??? あ、ありがとう?」


 うさみは首をかしげながら受け取る。さっき振ってたのは一体何だっただろう。

 そして渡されたお茶は緑茶。香りも緑茶。カップで緑茶。

 うさみが混乱している間にあいすは同じものをバニさんと自分に用意する。


「あー、あいすの言動はあまり気にしない方がいいわ。貴女なんでさっきシェイカー振ってたの?」


「雰囲気?」


「ね?」


「あーうん」


 あいすは変な人。うさみは覚えた。




「で、なんで誘拐をしでかしたの」


 おもむろにあいすがバニさんに尋ねる。


「はい? 誘拐って、そんなわけ……ん?」


 バニさんはここまでの経緯を思い出した。あれ? いやまさか。でも。あれ?


「街でぶつかったら抱えられて連れ込まれたんだけど」


 うさみがそう言うと、あいすはバニさんに指をつきつけ。


「ギルティ」


「ご、誤解ですッ! 話せば、話せばわかりますわあ!!!」



 

 バニさんが、あいすに事の次第を説明する。どんがらどげざーのひっつかみダッシュ。

 これを受けてあいすは腕を組んで頷き、


「うさみー、人前で土下座はさすがによくない。しがみ付いて上目遣いでごめんなさいするべき」


 高い椅子に座って届かない足をぷらぷらさせながら、何度か確認されて「うん」というマシーンとなっていたうさみは、そんなたしなめの言葉をうけて、実際にやってみた。


 横に座るバニさんの腕にそっと手をかけ、


「ごめんなさい」


 潤ませた上目遣いでそっとささやく。

 バニさんはそれを見てしばらく固まっていたが、おもむろにうさみを抱きしめた。


「この子持って帰ったらダメかしら」


「持って帰ったからここに居るんでしょう。やはりバニさんは犯人」


「むぐー」


 うさみがはなせーと思うと、抱きしめていた腕が外れる。


「あら?」


 ぬるりと外れた感覚にバニさんが首をかしげる。

 一方、解放されたうさみは世界の理不尽を訴えた。


「胸で圧迫するのはずるい」


「確かに、反則」


 うさみとあいすがバニさんを指さして言う。その視線はバニさんの特定部位に向いていた。それは先ほどうさみを拘束していた一角である


「あ、すみません。……って、胸とかおっぱいとかそういうキャラ押しつけてくるの止めてもらえません? そもそもわたくし、別にそこまで大きくもないですのよ」


 バニさんの主張に対し、うさみとあいすは視線を合わせ、次にバニさんの首とおなかの間を見て、さらに下を向いて自身の足元への視界が万全に確保されることを再確認した後、もう一度視線を合わせると、同時にため息をついた。

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初心者うさみシリーズ新作はじめました。
うさみすぴんなうとAW
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