困惑のさいとしーいんぐ その16
うさみははねた。
そしてざんぶと海に飛び込んだ。
十秒経った。
うさみは死んだ。
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「海に飛び込んだら死んだんだけど!」
「なにしてるの!? っというかはやっ!?」
ベルさんの工房にうさみが跳び込んでくる。
バニーさんになったところベルさんとバニさんが寄ってたかって可愛がりを始めたのでたまらず脱出して跳び出したはいいもののちょっとどうしたものか思いつかなかったのでとりあえず海まで走って飛び込んでみたら死んだので帰ってきた。
この間、約五分。
海まではそれなりに距離がある。五キロぐらい。この距離もプレイ時間を圧迫する微妙な障害であるのだけれども、この距離を五分で戻ってきたというのは、うさみが少なくとも時速六十キロ以上で移動したということだ。はやい。現実世界なら世界新記録を軽く超えている。めっちゃはやい。
もっとも、徒歩以外の移動手段を使ったのならその限りではないが、それはそれで未聞のことである。
「水中に入るとは定期的にHPとスタミナにダメージが入るのです。HP1スキルなしなら十秒くらいであの世逝きですのよ……それよりうさみ、お金大丈夫ですの?」
死ぬと能力値に一定時間ペナルティがあるほか、所持アイテムやお金がランダムに失われるのである。
「え? あ、二百万くらい減ってる?」
「にひゃくまっ!?」
「あちゃー」
ベルさんが両手を口に当てて驚く横でバニさんが額に手を当ててため息をつく。
二百万リネというのはプレイヤーの平均的な資産に比べても上位であるといえる。
資金ではなく資産。
現金ではなく動産不動産などの所有物すべてを含めた価値の合計だ。
資産は大きく四つに分けて認識されている。
現金。装備。拠点。消耗品。その他。五つだった。
ほとんどのプレイヤーにとって資産とは装備である。武器と防具とリュックなどの収納アイテム。これらがあれば戦ったり採集したりといった活動を行うことができる。戦うことで種族レベルが上がる仕様上、武装は最重要といっていいだろう。
うさみはずっと初期装備のままだったけれど。
また、ベルのような生産系プレイヤーにとっては、生産道具もまた装備として重要な位置を占める。
武装にしても、生産用の道具にしても、市販のものですらそれなりの額がするのでいきなり入手可能な最高の品を! というわけにはいかない。初心者用のアイテムはクエストなどで支給される場合が多いが、装備のグレードを上げようとすると必要な金額が跳ねあがる。
大多数のプレイヤーにとっては装備の更新を行ってできることを増やしていくのが一般的なプレイスタイルであり、その装備のグレードを示す資産の額が一つのステイタスになるのである。
そんな状況なので二百万とかあっさり無に帰したと聞けばちょっとまってよまじかよええええとなるわけだ。
一方、失った側のうさみはとくに堪えた様子もない。
価値基準をよく知らないということもあるけれど、パッと手に入ったあぶく銭であるのでそんなに重要視していないのだった。
なので、
「そんなことより」
「そんなことより!?」
そんなことあつかいなのであった。
「海に入ると死ぬってどういう理屈なの?」
「【水中適応】とか【水棲】ってスキルがない限りダメージを受けるようになっているみたいなのよ」
「その二つは主にモンスターの持っているスキルですわね。【水泳】【潜水】で緩和できるところまでは検証が進んでいますわ。なんでそんな仕様なのかと問われても断言できませんけれど」
海に入ると普段以上につかれるとか、息ができないとか、そういう状況を再現したのではないかという説があるのだという。
「実は厳密には呼吸もしてないのよ、私たち。食事が必要ないのと同様、現実と違う点ね」
「ただ、呼吸が必要という設定はあるようで、例えば濡れタオルで口と鼻を覆うと定期的にダメージが」
「そんなことまで調べてるの……?」
システム上の都合か何かでそのようになっているという。
よくまあそんな細かいことまで調べるものだと感心半分あきれ半分のうさみである。
「これに関しては聞きかじりですのよ。水中というフィールドは陸上動物の我々には不利なのはわかり切っていますし、それに火属性が相性悪いですから、優先順位がどうしても」
「バニさん炎特化だものね」
「そういうものなの?」
うさみは火属性なら水中活動でも役に立ちそうだけどなあと思ったけれど、それを口に出す前に。
「というか、水中呼吸の魔法用意していませんでした?」
「あ」
そんなものもあった。
冒険者ギルドで「ゲームとかでよくある魔法」ということでバニさんが挙げた中にあったので作ってみたらできた中に。
「でもちょっと普通に泳ぐだけなのに水中で呼吸しようとは思わな……あ」
「い?」
「う?」
ごまかし笑いを浮かべつつ頭を掻いていた手が止まる。
「魔法とかえっと、錬金術とか? でなんかこう、うまいこといい感じの生地がつくれたりしないの?」
水着製作の話りたーんであった。




