困惑のさいとしーいんぐ その15
「そんなことより水着だよ」
うさみの強い意向により、冒険者ギルドとの折衝を手早く済ませ、予定していた水着を作ってくれる職人の元へやって来ていた。
冒険者ギルドへは客観的な事実をそのまま伝え、エイプリルさんに100万リネを手渡してある。黒幕がうさみであるとかそういったことは話していないが大体のところ察せられていると見ていいだろう。なんたってさっきの今でありうさみが規格外なのも現金持ってるのも把握されているのである。それでも黙って受け取って畑の補償の手配をしてくれたのは思惑あってのことだろう。
それはそれとして丸投げしてしまって問題ないという判断はうさみとバニさん両者の間で一致していた。
ただ、それよりもバタバタしそうなのでさっさと当初の目的を片付けてしまおう。というのがうさみの意見であり、一方バーニング娘としては先にウサギさんを含めたその他の根回しを済ませたかったのであるが、
「ウサギさんは夜でも話せるから後でいいよ」
ということで後回しになった。人間の街は生活サイクルが昼型なのである。もっとも、当の職人はプレイヤーなので特に時間帯の縛りはないのだが。今日の昼間は拠点に居ることは確認しているので可能なら今日中に訪ねておきたいということもあり、そういうことになった次第である。
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「えっ、できない?」
「水着って想像以上に厄介な代物でね」
肩をすくめてそう言い放ったのは件の職人、仕立屋のベルさん。
黒髪赤眼、背は小柄ではあるがうさみと比べるとだいぶ大きい。ゴシック風なドレスを身に着けた姿は吸血鬼映画の世界から出てきたような雰囲気がある。
バニさんの友人で現在うさみが着ているエプロンドレスの制作者でもあるということだが、今回、水着ということで依頼を持って行ったところ、残念な返答が返ってきたのであった。
つまり、
「まずレシピがない。地域の環境のせいか、世界観のせいか、とりあえず調べた範囲では見つからなかったわ」
「そもそも中世ヨーロッパって水着があったのかしら」
RFOは中世ヨーロッパ風世界ということではあるけれど、今時のゲームでもある。水着が存在しないというのも考えにくいと思うのだけれど、というような話をベルさんとバニさんがしている。
うさみは衝撃で固まったままだ。
「で、オリジナルで作るとしても、適当な素材がね。布はごついと水を吸うし薄いと透けるし皮は水に濡らすのはねえ」
「化繊がないですからねえ」
現代の水着は大体化学繊維でできている。もちろんそんなものはゲーム内に存在しないので、そこから開発しない限り現実世界の現物をコピーして完成、というわけにはいかないのだ。そもそも化繊を開発できるかどうかもわからないし石油も見つかっていない。
「そこで目を付けているのが水棲モンスターの素材なのだけど、狩りに行く装備が開発されていないのよね」
現実世界に存在しない要素であるモンスター。彼らから手に入る素材を使えないかと考えているという。
しかし服を作るのに必要な素材を手に入れるのにでかけるための服がない。
そういう状況だということだ。
「その素材っていうのがあれば、つくれるの?」
「耐水性があって、丈夫で、伸縮性があるか、あるいは繊維なら編み方で工夫できるわ。肌に直接触れるものだから人体に害があるものはダメだし、硬かったり鋭かったりするのもまずいわね」
「そんな都合のいい素材ありますの?」
「さあ。今のところ見つかってないわ」
だめじゃん。
うさみはうなだれた。
「ついでにいうと、デザインにも制限があってね。ビキニとか、露出が多いものは装備できないわ。とりあえず、おへそが見えるとだめのようね。娘さんを見て分ける通り、胸はわりと許容範囲広いみたいだけれど」
「バニースーツは大丈夫ですわよね」
「ほほう?」
娘さんことバニさんが、うさみを見る。ベルさんもつられて見る。うさみはしょぼんとしている。
「うさみ、バニーさん」
「え、え?」
バニさんがうさみにバニーさんを強要している。
「バニさん自分でやったらいいじゃない。似合うよきっと」
「わたくしあのクラスになれませんもの」
バニさんのスタイルならきっとにあうだろう。ウサギさん仮面が証明している。存分にお胸が揺れること間違いない。すとーんなうさみとは違い凸凹しているので。
しかし、今求められているのはそういうことではなくいいからバニーさんになって見せるんだよという圧力でありしょぼくれて気力が低下中のうさみは圧力に屈した。
「【ウサギ】に【クラスチェンジ】」
「あら?」
ベルさんが驚きの声をあげる。
うさみにうさ耳が生えたからである。うさみのうさ耳に驚いたのだ。
問題の服装はエプロンドレスのままであった。バニースーツは【ウサギ】の基本装備であり、なにも装備していないときに自動的に身に着けられるものなのだ。服を着ている時には現れない。
「ベル、近く公開されますから秘密でおねがいしますわ。そしてうさみ、服を脱ぐのです! さあさあさあ!」
「え、ちょ、ま」
かくしてうさみはバニーに剥かれるのだった。いやちゃんと自分で操作して装備を外したのだけれども。そして服を脱いだらバニーさんになるというのもなかなか不思議なものだなあ、などと遠い目をして思うのだった。




