困惑のらびっとすくらんぶる その9
「ああ、そうだ、あー、そうだな、そこの少女」
拠点間ワープ移動スキルの衝撃にざわめくプレイヤーさん方を尻目にウサギさん仮面が一人のプレイヤーを指さした。
その相手は赤髪ツインテ、ではなく。赤髪ツインテと手を繋いだ児童文学の主人公のような、エプロンドレスの金髪小柄な少女であった。
「え、わたし?」
「うむ、エルフの少女、君だ! ちょっと頼まれてほしい! ちょっと手を出すのだ!」
「え?」
ぽとり。
「お金?」
少女の手の中に現れたのは、高額金貨であった。100万リネと書いてある。ウサギさん仮面の後光を反射してきらりんと輝く。
「うむ! 今日ウサギさんの被害に遭った畑の持ち主に分配してもらいたいのだ! 冒険者ギルドに任せればいい感じにやってくれるであろう!」
「えええ!? そんなの自分でやったらいいじゃない!?」
「我は地下帝国パラウサとの調整を進めねばならんのでな! 足りなかったらまた持って行くから立て替えといてくれ!」
「え、ちょっと!?」
慌てるエプロンドレス。
「これだけ目撃者がいればネコババもできないだろう!」
「いやそんなことしないけども!」
「ならばよし! では我はゆくとする! 興味がある者は明日の今頃ここに集まるが良い! ウサギさんと仲良くなると思う存分モフモフできるようになるからな!」
「「「マジで!?」」」
「ま、マジだょ」
重圧をはねのけ超反応する一部プレイヤー。
ウサ耳が生えた人達だ。
あんまりの勢いにウサギさん仮面ちょっと引いている。
「ではさらばっ! とうっ!」
ウサギさん仮面は気を取り直してしゃきーんと右腕を高く天に伸ばして叫ぶと軽く身を沈めた。そして次の瞬間、残像を残して跳びあがった。跳びあがったとわかったのはそのマントの色だろう、赤い色が線のように上空へ伸びていたからで、そして。
どぉぉぉぉぉぉんっ!
響き渡る爆音と共に、上空に大輪の華……華じゃないなウサギが咲いた。
つまりウサギを象った形状の花火である。
薄暗くされていた一帯に花火の残光が散っていき。
それと共にプレーヤーのみなさんに与えられていた重圧が解除され、辺りも明るくなっていき、ウサギさん仮面の姿はきれいさっぱり消えていたのだった。
□■□■□■
ウサギさん仮面が高空で爆散、ではなく、花火に紛れて姿を消し残されたみなさん。
ざわざわざわり。
「おいどう思う」「ウサギさん万歳」「ないない信用できねえだろ」「いやでもあれ当たり暗くなったり体が重くなったり異常だったぜ」「モフモフしたい」「ワープスキルほしい」
異常現象から解き放たれて、いろいろ意見交換などやっていた。
「それじゃあちょっと、冒険者ギルドに行ってくるよ」
「ああ、つき合いますわよ」
うさみとバニさんはそんな集団から抜け出だした。
白銀の胸当てを付けた女性がそれに気づいて手を振ってきたので振り返してから歩きだす。
ウサギさん仮面からお金を預かったのである。
という体でうさみが自分で出したお金であるけれど、そいつを持って冒険者ギルドへもっていく、という任務を遂行するのだ。
という体で。
この場を脱出して冒険者ギルドに顔を出すにはちょうどいい名目である。
もちろん予定通りの流れであり、ひとまず思惑通りに事は進んだのであった。
『それにしても、このゲーム、思っていた以上に魔法の自由度、高いようですわね』
歩きながら、声をかけるバーニング娘さんの目が煌めいていた。本人の言う通り、このReFantasic Onlineの可能性に心をときめかせていたのである。
要するに、先ほどの一幕はうさみの魔法によるものであった。
辺りを薄暗くし、重力を1.5倍くらいに強めて、ウサギさん仮面を投影して、お金……を出したのは普通にシステム仕様であるが、その後の花火も魔法であるしそれがウサギさん型なのもそうである。姿が消えたのは魔法を消しただけであった。
『姿をごまかして誤認させるための方法は結構工夫を重ねてるからね。それでも魔力溜めてたのいっぱい使っちゃったけど』
それもこれも星光竜突破のための創意工夫の副産物だ。
自分の姿を投影したり自分以外の姿を投影したり隠れたり位置をごまかしたりと、結局最終形の五体分身の術までは通用しなかったとはいえ、様々に工夫したものであった。さらに星光竜と魔法の見せ合いによって一定範囲に影響を及ぼし続ける技術も開発された。
これら中心に合わせ、ひねって生み出したが今回の一幕。
シナリオはうさみ原案を下敷きに、バニさんと二人で検討して大筋を決め大部分アドリブだ。時間もなかったし他のプレイヤーもいるので完全に思い通り行くかどうかわからなかったので。
演出および主演うさみ、助演バニさんに、協力を仰いだリリアーナ。
お金を冒険者ギルドに委託する流れになったがこれはうさみの意向と、実利を兼ねてであった。
ウサギさん煽ったので若干後ろめたかったのと、万一この影響でニンジン栽培が止まってしまうと地下帝国パラウサににんじん供給ができなくなるかもしれないからだ。
地下帝国パラウサと取引を行う。
うさみは本気であった。というかわりと普通にできそうだと思った。人語をしゃべる子もいるし実際話が通じるしかけっこで訓練するという提案も通るくらいだし。一部(?)脱走して畑を荒らしに来たけれど。
ともかく、地下帝国パラウサ側は交渉可能という判断で、あとはもう一方、プレイヤーかスターティアの街にメリットを提示できれば、利害が一致して協力はできるんじゃないか。
このうさみの意見にバニさんは賛同した。面白そうだったので。うまくいけば楽しそうだったし。
さらに言えばメタ視点で地下帝国パラウサという組織が存在し、交渉できる知性がある代表がいるのであれば、ゲームのプレイヤーたる自分たちと関わる前提であると考えるのが自然であり、うさみからもたらされた情報が正しければその関わり方は幾つも想像がつくのだ。その中で考えるなら、ウサギと協力関係を築くことができる、というのは可能性として大いに有りである。問題の情報源がうさみ一本であるのは不安があるが、嘘をつく意味はないし、実際に動きだせばすぐに確認されることである。ならば乗った方が楽しかろう。むしろ乗るしかないじゃない。という判断である。
そのへん理屈を説いて誘導するようあとに残ったリリアーナに依頼してあるのでそう悪いようにはなるまい。
そういうわけでうさみとバニさんはやり遂げた感を覚えてにやりと笑った。
『ところでウサギさん仮面のあのノリは何だったのです?』
『昔やった文化祭のクラスの出し物の創作劇、眠りの森の白雪デレラの冒険 ~メイドさんは見た!毒リンゴとかまどの灰と三年寝ることの関係~のヒロインのノリを参考にしたんだよ』
『なにそれ見た……いや見たくな……やっぱりちょっと見たいですわ』
なおウサギさん仮面の体型は参考資料バニさんであり、演技中に思う存分ぶるんぶるんさせたのは、うさみだけの秘密である。うさみが小柄でペタンストーンなのは何の関係もないのだ。




