困惑のらびっとすくらんぶる その7
「然り! 我はそれを危惧しており、避けたいと望んでいる! その為にここに参ったのである!」
超強化されたウサギさん軍団と異界のマレビトすなわちプレイヤー数千人+スターティアの住人がぶつかるとどうなるか。
数ではおそらくスターティア側が有利である。なぜならば、プレイヤーは生き返ることができるからだ。無論能力値ペナルティを受け、戦力は低下するが、それでも即時何度でも戦線復帰可能というのは総力戦となればものすごい優位である。
一方練度ではウサギさん軍団が勝る。ウサギさん仮面の言っていることが正しければ、だが。
なんせ、最下級モンスターであったはずのいたずらウサギに、プレイヤーたちは手も足も出ていないのだ。
より上級のウサギ系モンスターが同等以上のレベルで控えているというならば、個々の強さでは圧倒的にウサギさん軍団が上ということになる。現状では。
そのほか大規模な数のプレイヤー同士の連携は十全に行かないだろうことや、ウサギさんの最大戦力が予想しきれないなど様々に不確定要素はある。プレイヤー数千人といえど、現実の生活もありゲームを同時にプレイしている数はぐんと少なくなることもある。
しかし、スターティアの街を守り切ることはおそらく不可能だ。
なぜなら、
「地下帝国パラウサはスター平原一帯の地下に巣を張り巡らせているウサギさんの国である!」
つまりスターティアの地下も含まれる。外壁で防御することはできないのだ。地下からくる相手への対処は限られるし、有効な手があるとしても準備には時間がかかることだろう。
例えば新しく拓かれた街の南部。工事中の場所も多数あり、石畳などまだまだ敷かれていない。そこらから敵が湧いてくるとしたらとてもではないが防衛しきれないだろう。
仮にウサギをすべて狩ることができたとしても、スターティアの街は無事に済むことはないだろうとそういうことである。
「そしてウサギさんはニンジンが大好きだ!」
「え?」「あっはい」「それが?」
突然話が飛んでみんな困惑する。なんのはなし?
「今回もこうして皆が釣り出されている間にニンジン畑がウサギさんによって収奪されていることはご存じだろうか!? 実はさっき見てきたんだけど見事に荒らされていた!」
「なん」「だと」「う、うちの畑は!?」
農家プレイ――ゲーム内で畑を耕して野菜などを作っているプレイヤーがいたらしい。反応を見るにニンジンも育てていたようである。
「誰の畑とかは我は知らぬが、一面やられていたぞ。ウサギさんはこう思っているそうだ! 『人間がニンジンの群生地を独占している!』とな!」
「馬鹿な! あれは俺らが栽培しているんだ!」「そうだそうだー!」「害獣がッ」「農地レンタル代高いんだぞ!」「肥料代も馬鹿にならん……!」「農具もだ!」
農業やってるプレイヤーは意外と多かったらしい。考えてみれば畑から釣り出された人間が集まっているわけだから当然かもしれない。
「諸君の苦労はよくわかる! 我も農業のお手伝いはよくやるのだ! 腰とか痛くなって大変だ! 夏は暑いし冬は寒いしでも手入れはさぼれないし!」
「うんうん」「ゲーム内だとそこはずいぶんましだよな」「スタミナやMPは減っても腰は痛くならないからなあ」
「だがしかし! 街が滅びればそもそも畑ごとおなくなりである! そしてニンジン畑がなくなればウサギさんもニンジンを食べられなくなる! これは共倒れである!」
うーむ、と考え込む声があちこちで上がる。
まあ確かにその通りであるが、そもそもウサギさん帝国、地下帝国パラウサがなければ問題にはならないので、悪いのは地下帝国パラウサではなかろうか。
「だからって俺らがわりを食うのはおかしいだろ! ウサギ全部駆除すればいい!」「ウサギさんを全部駆除だなんて許さないわよ!」「あんたら感情だけだろ黙ってろ! こっちは実害被ってんだよ!」「なんですって!?」「というか戦力的に無理なんじゃないかな」
農業プレイヤーに対しうさ耳が生えた兎人族プレイヤーが反発し口論が始まる陰でぼそりと現実をつぶやく人がいたりとだんだんと場が混乱してくる。
農家の人にとってウサギは害獣である。
畑に穴は掘るわ作物を荒らすわで困ったもんであるのだ。
しかし今回は駆除という方法を取れない。
「そう、強くなっちゃったから駆除できぬ! さらに言えば、仮にウサギさんを駆除し、地下帝国パラウサが版図を失えば代わりに肉食獣の縄張りが広がってくるであろう! 狼とか!」
「そっちもあったな」「エサがないのに広がってくるか?」「エサがないから広がってくるんじゃね」「じゃあどうするんだよ」
現状、狼などの肉食獣の勢力が拡大しつつある、というのもウサギさん仮面の主張であるが、事実ならウサギが居なくなってもそこに入り込んでくる可能性は多分にある。そして傍証として狼系モンスターとウサギ系モンスターの配置のこともあり、いくらかは信ぴょう性もある。
また、そもそもゲーム的に配置されているモンスターを駆逐しきれるのかなどの問題もある。それをおいても強くなったウサギを駆逐するのは現状現実的ではないだろう。
「そこで提案である! 地下帝国パラウサと取引を行うのだ! ニンジンを売りつけ十分な量を供給してやれば畑が荒らされることはなくなるだろう!」
「は?」「ん?」「ほう?」
そしていよいよウサギさん仮面が突拍子もないことを言い出したのであった。




