困惑のらびっとすくらんぶる その5
「レベルだけは高いようだがッ!」
【いたずらウサギ】の体当たりをギリギリでかわす。そしてすぐに向き直る。敵から視線を切るのは危険だ。予兆を見逃すのは致命的。だが、異常にレベルが高いとはいえ、所詮は最弱モンスターの一角だ。攻撃パターンは限られている。つまりまだまだ対応は可能ッ!
『はるさめ。』は回避型ビルドのプレイヤーの中で三指に入る腕前の持ち主である。なので一対一なら多少ステータスが高い程度の相手をいなすのは可能なのである。とはいえ容易に反撃を入れられるほど余裕もないのだが。
問題はこうして戦っている間に展開しているだろう伏兵だ。これははるさめ。が知覚しているのではなく、先にやられたパーティのたどった末路からの類推。一体に注目を集めて戦闘域を誘導あるいは包囲し奇襲を仕掛けるとか戦国武将じゃねえんだからなんだよそれはばかじゃねえのチートかという戦術を使い始めたウサギたち。すでに初心者が多数屠られ中堅どころのパーティも複数壊滅している包囲伏撃からの見事な一撃離脱。これを自分がしのげるかというとちょっと怪しい。なぜならば敵の隠形を見破れていないからである。それだけレベル差があるということだ。
一対一なら時間をかければ倒せる。時間は味方だ。相手のレベルが高い分、回避スキルにも経験値が入っておいしいです。だがそれが許されるのは一斉攻撃を受けるまでのこと。
はるさめ。の側も数をそろえれば対抗できるかというとそれも難しい。
遠巻きに見ている野次馬どもが突撃してきても邪魔にしかならないだろうし、同行しているパーティメンバーはいない。ぼっちではない。回避特化はパーティを組む旨味が薄いのでソロが多いだけである。必要ならいつでも組める。偶然ソロで動いている時にこの事態に出くわしただけである。ホント。マジマジ。ほらメッセージ起動して仲間を呼ぶ余裕もないしね相手強くて。
いたずらウサギの攻撃をかわすたびにギャラリーから歓声が上がり、それがはるさめ。の自尊心をくすぐる。
一部、ウサギちゃんを傷つけるなとか聞こえるがあれは放っておくべき事案なのでどうでもいいだろう。
ここまでこの異常ウサギたちを相手にして生き残った、正確には交戦して長時間生き残ったパーティはいない。近接戦を挑めば一撃で倒される。盾職でもだ。レベル差補正が半端ないということだろう。つまり攻撃を受け止めようとしてはいけない。また、魔法や弓などの飛び道具をもっているとまともに交戦してもらえず、射程外ギリギリで挑発とも思える行動をとってくる。そして追いかけると伏兵による奇襲が。
となると最適解は接近戦で攻撃を全部避けて倒すことである。無論、伏兵がくる前に。
という分析をもとに、はるさめ。はトッププレイヤーの一人としての自負と自尊心をかけてウサギに挑む。多少レベルが高かろうが、最弱モンスターの一種にプレイヤーがただただ一方的に負けることがあってたまるものかよ。
はるさめ。の攻撃手段は短剣二刀流であり、狙うのはすれ違いざまの一撃だ。まともに正面から受け止めるのは不可能なので、うまいことかすめるように、武器スキルの【ポイズンダガー】で毒を付与した攻撃が通れば優位にたてる。という目算である。
しかし、スキルを使うタイミングに失敗すれば隙ができる。アクティブの武器スキルはモーション固定のものが多く【ポイズンダガー】もその一つ。出は早いが終わり際に若干隙があり、はるさめ。がイメージする通りの当たり方をしなければ追撃を回避する余裕がなくなるだろう。正面から突撃してくる相手に直撃させるだけなら難易度は下がるが、そうすると相打ちになりそのまま自分が死ぬのだ。仲間がいるなら選択肢に入るが、ソロである以上それではだめだ。針の穴を通すようなシビアな狙いとタイミングを成し遂げなければ。
難しいのはわかっているが、むしろそれは燃える要素だ。いつ奇襲がくるかもわからない。一手でも早く。3、2、1、ここだ――
□■□■□■
ずん。
という音がしたのかどうか。
男性プレイヤー(レベル45)といたずらウサギが交錯する、と思った瞬間、周囲一帯の空気が変わった。
それは比喩表現ではなく。
一帯に居たプレイヤーは皆、急に体が、装備が、武器が重くなったと認識した。思わず手に持っていたものを取り落とす者が多数。ふらつくものや耐えられずにしゃがみこむものもいた。
同時にあたりが薄暗くなる。
「なんだ」「どうした」「なにこれ」「ちょっと誰おしり触ったの」
ざわ。ざわ。
ざわざわざわ。
異常な事態にギャラリーがざわめく。もはや名物プレイヤーとウサギ異常個体の一騎打ちよりも優先度が高い。一体何が起きている?
場が混乱と困惑に包まれる中。
「わっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」
それは光を伴って降臨したのだった。




