困惑のらびっとすくらんぶる その3
「地下帝国パラウサのの帝位を継いで我々を導いてくれぴょん!」
「やだよ」
拉致されたので様子を見ていたら禅譲されそうになった。
ドラゴン来襲事件直後、うさみがウサギの群れにワッショイワッショイ拉致された先でのことである。
巨大なウーサー三世陛下と片眼鏡黒ウサギさんのぴょん五郎、歴戦の白ウサギさんのうさ吉の前に引き出された。いつかの裁判を思い出す状況だ。
なんでも、犬狼系モンスターとの縄張り争いで押されつつあり、このままではすみかを失い、近隣のウサギは滅んでしまうかもしれないというのだ。
そこにドラゴンを連れて名誉臣民うさみが帰還してきたのである。ウサギさんたちはウーサー三世陛下より頼りになりそうじゃね? と全会一致でうさみをトップに戴くためにつれてきたのである。
しかしうさみはうさみであった。
犬(狼)と戦うためにトップに立つとかあり得ない。
うさみは犬が嫌いとか滅ぼしたいとかそういう感情はもっていない。ただ関わりたくないのである。怖いから。だって噛むし吠えるんだよ。
せいぜい知らないところでいなくなってくれればいいのになあ、と思うくらいなのである。穏健派なのだ。
「ではるな子はどうだぴょん? 純粋なウサギで最もレベルが高くなったるな子なら皇帝に相応しいぴょん!」
ぷ。
ふるふると横に振れた後、うさみにピタッとくっつくるな子。
「イヤだって」
あっさり鞍替えされたのでちょっとイラッとしたうさみはジト目で言った。
「ぐぬぬぴょん! 我々に与えられた猶予も少なくなっているのだぴょん。このままでは狼どもにこのあたりを征服されてしまうぴょん! そうなれば昼夜問わず狼が徘徊し、我々ウサギは生きていけなくなるぴょん」
「ぴょん吉よ、あまり無理を言うんじゃないウサ。本来我らが成さねばならん事ウサ。いざとなれば最後の一兵まで戦い抜くウサ」
臣下の二羽がわいわいやっている向こうで、ウーサー三世陛下がしょぼんとふるふるゆれている。
自分より頼りになりそうだと皇帝の位を譲ることになったり(なお、ウーサー三世陛下自身も賛成している)、それを断られたり、いろいろと立つ瀬がないというか微妙な状況であるウーサー三世陛下の巨体に比してつぶらな瞳としばらく見つめ合ったうさみは息を吐いた。
「皇帝になったり狼と直接戦うのはお断りだけど、強くなる手伝いならやってもいいよ。ちょっとだけね」
るな子もちょっと里帰りして地元に貢献するくらいならいいよね、とうさみが問いかけると、るな子もしょうがないなあ、いいよ、とばかりに頷いた。
「なんと! ありがとうぴょん!」
「感謝するウサ」
言い争いをやめて謝意を伝えてくる二羽とふるふると揺れるウーサー三世陛下。
やれやれだね、と肩をすくめるうさみと肩がないるな子。
こうして地下帝国パラウサ強化プロジェクトが発足したのである。
□■□■□■
地下帝国パラウサに満月が昇った。地下なのに。
どういうことかといえば、うさみの魔法である。
満月の夜を顕現させる大魔法。星光竜との切磋により作りだされたものである。
その満月の下、無数のウサギさんが跳ねていた。
大広間に描かれたトラックに沿って、ぴょんぴょんと。その様子は皆必死である。
「ウサギの本懐は月を見て跳ねることと危険を避けることだと、ウサ吉さんはいいました」
「確かにそうウサ」
「なら戦って討ち死にするなんてことを考えていちゃあダメだよ。ダメダメだよ」
「ぐむむぴょん」
うさ吉とぴょん五郎を両脇に、熱弁をふるううさみ。ちなみにウーサー陛下はトラックの中を跳ねている。その巨体の割に速い。びっくりだが他のウサギがつぶされないかちょっと心配だ。
「すべての基本は足腰! 敵より足が早ければ、敵より長く走れれば、自由に逃げられるよ! 死にたくなければ走れ走れー!」
両腕をぶんぶん振り回して発破をかけるうさみ。しかしウサギさんたちが懸命に走っているのはそれだけが理由ではない。
「るな子に周回遅れにされないで一周できたら迷いの森特産のおやつをあげるよ! それ逃げろ逃げろー!」
目に前ににんじんをぶら下げられたウサギさんたちはやる気満々だ。一度はダメでも何度でもチャレンジ可。追いかけるるな子の速度はそのレベルに相応しい速さで、うさみほどではないが十分に速い。一番早いウサギさんの三倍ぐらい速い。褒美にありつけるウサギさんは当分いなさそうである。
「まずは何よりも基礎体力! ってことでみんなに走り込みをやってもらっているうちに、話を聞くよ。どういう状況なの?」
「う、うむウサ」
ウサギさんたちを走らせながら、幹部の二羽に話を聞いたところによると。
西から狼が縄張りを拡大しつつある。狼はウサギさんを追いかけて捕まえて食べる。特に夜になると群れになって徘徊するのでウサギさんは避難している。狼はウサギを追いかけ捕まえ食べることで力をつけている。ウサギは逃げ隠れすることで成長するが、失敗して食べられると減る点で不利である。またウサギさんは食糧を得るのに狼を警戒しなければならないうえに、人間がニンジンの群生地を独占しているので、食糧を得るのも一苦労である……。
「ちょっと待って。ニンジンの群生地?」
「そうだぴょん! 人間はにんじんがたくさん生えている場所を独占しているのだぴょん! 食事に入った子ウサギが犠牲になっているのだぴょん」
それって畑じゃないの? うさみは思った。ニンジンって自生してるの? 群生するの? 知らないけど。人間が管理してるなら畑だよねそれ。
そう思ったがとりあえず置いておく。重要なのは狼との争いであって人間のことはとりあえずあとだ。
「被害を減らすことと反撃する手段が必要だね」
「なにかいい考えがあるウサ?」
「うん、ここはやっぱり囮作戦かな」
こうしてうさみは囮作戦をウサギさんたちに伝授した。
体育の授業でサッカーやバスケをするときに役に立ったものである。
うさみはわりと運動が得意な子だったのでマークされやすかった。しかしそれを逆用して自ら囮になることで味方を有利にしたものである。
ついでに囮を攻撃的に発展させた作戦も。巧く扱えるかどうかは、まあ難しいだろうけれど、一例として。
「とにかく逃げられる速さと体力を付けて、攻撃するときは一撃離脱で逃げるようにする。逃げられないときは囮になってみんなを逃がすんだよ」
厳しいことも言ったりした。
そしていろいろと話した結果、るな子は一日里帰りということで、地下帝国パラウサに居残り、うさみは自分の用事を済ませるついでに人間の様子を見に行くことになったのだった。ニンジンの群生地のこととか。
「それじゃあるな子、よろしくね」
るな子はもちろん、滞在中ウサギさんたちを鍛えるのである。
ぷー。
ちょっとさみしそうなのでひとしきりなでくりまわしてから、うさみは人間の街へと出発したのだった。




