困惑のらびっとすくらんぶる その2
うさみとバニさんが顔を見合わせていると。
「あんなのが居るなんて聞いてないぜ」「一撃でHPが吹き飛んだぞ!」「レベル見えなかったんだが」「攻撃が当たらないどころかカウンターしてくる件」「となるが蹴られてる隙をねらったのにヒットアンドアウェイが完璧すぎる」「テメェ俺を囮にぃ!?」
次々に死に戻ってくるプレイヤーたち。南の平原は初心者向けのフィールドなので皆レベルが低い、と思いきや街や港の開発クエストの関係でそれなりに強いプレイヤーも混ざっている。といっても五十とかそのあたりであるが。
彼らの話を総合すると、異常な強さのウサギが出現し無双しており、徹底した一撃離脱でろくに打撃を与えられず、寄って攻撃しようとすると反撃され、射撃しようとすると射程のぎりぎり外に逃げられ、見過ごそうとするとお尻を向けてしっぽと耳をふりふりして挑発してくるという。意地が悪い。でもかわいい。
『むそうするってなに?』
『この場合、すごく強いキャラクターが有象無象をちぎっては投げちぎっては投げする事ですわ。そういうゲームのシリーズがありまして。元をたどると国士無双に繋がりますわ。多分』
『たぶん』
死に戻りプレイヤーたちの声を聞きながら。
しかしなるほどそういうことか。うさみは一人頷いた。
バニさんはそれを見逃さなかった。
『うさみ、心当たり、いえ、なにをやったんですの?』
『わ、わたしはなにもやってませんじょ?』
あからさまに目をそらすうさみ。なにかやらかしましたと宣言しているようなものである。パーティ会話で話をしていてよかっただろう。周りの被害者の皆さんに知られたらことだ。
ともあれ、バニさんがどうやって聞きだしてやろうかと、ジト目を送り口を開きかけたときである。
「「「「「「うぎゃああああああ!?」」」」」」
一度に大勢死に戻ってきたのであった。
先ほどまでは一人ずつ散発的な帰還であったのだが、今回は同時に六名。この六名という人数はパーティを組むうえで実践的な上限と経験上考えられている数であり、要するに一パーティが協力して当たって一度に殺されたということである。
先の被害者に状況を聞かれた彼らはこう言った。
「追いかけて囲んで倒そうとしたら、伏兵にやられた」
「ウサギがいっぱい出てきた」
「角が、角がおしりに……ッ!」
「はじめから誘導されてた感がある」
「とどめさされる前にウサギが一斉に後ろ足で地面をぱしーんて。ぱしーんて」
「マジパネェ」
三人目の人はみんなに憐みの視線を受け、五人目の人はガクガク震えていた。
そして被害者の皆さんはあーだこーだと盛り上がり、俺も見に行こう私もと現場へ向かう人も現れはじめる。
ゲームなのであり死んでも生き返るしせっかくイベントらしきものに遭遇したのだから多少の危険は承知の上で突っ込むのは正しいかどうかはともかく妥当な反応であった。
そんなみなさんを見てうさみはうむうむと頷いていた。
そんなうさみをみてバニさんはうずうずとみんなについていくかうさみから話を聞き出すか迷い、
『うさみ、わたくしたちも行きません? 道中うさみの所業を聞きながら』
『それよりニンジン畑の場所わかる?』
『ニンジン畑?』
ニンジン畑とはニンジンを植えている畑であり、ニンジンとはウサギさんの大好物である。というのは誰もが知っている常識であることは言うまでもない。
なのでバニさんはニンジン畑とは何かを訊いたのではなく、なんで今ニンジン畑なのかということを訊いたのである。今ホットなのは異常に強いウサギであって、ニンジン畑では……ふむ?
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「うわあ」
うさうさうさうさうさうさうさうさ。
ニンジン畑は盛況だった。
耳の生えた毛玉の群れに。
勿論その正体は、ウサギさんである。
「これはまたひどいことになってますわねえ」
バニさんがその光景を見てそのまんまな感想を述べる。
もうひどいとしか言いようがない。ニンジン畑は盛大にウサギさんの群れによって荒らされていた。
穴とかいっぱい開いているし、一羽一羽がニンジンくわえて跳ねている。
その数ざっと見て二ケタを超える。三ケタはいかないかな。なんだこれ。
あたりに人間はいない。
だいぶ離れたギャーとかキャーとか聞こえてくるの場所に集まっているのだ。
この状況にバニさんは呆れ、うさみはうんうんと頷いていた。
「これ、どうしましょう?」
言いながらバニさんがニンジン畑に寄っていく。
すると、気づいたウサギさんが片耳をふりふりしたかと思うと脱兎。お仲間も一斉に逃げ散ってあっという間に見えなくなった。
残るは荒れた畑のみ。あーあ。
「うさみ?」
「ウサギさんもなかなかやるよね! 囮作戦だなんてさ!」
「うーさーみー?」
「バニさんこわい」
こうして、うさみの回想が始まるのであった。




