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困惑のわんだーらんど その1

 ワープ系スキルや死亡による転送などによってマップ上出現する場合、あらかじめおおまかな位置が周囲にいる者に映像として示される。

 テレビの砂嵐のような影が数秒映しだされ、その間その場所に干渉できなくなるのだ。

 衝突や位置の重なりなどの事故を回避するための仕様である。

 また、出現できるポイントは場所によっては限定されている。

 スターティアにおいては中央の噴水広場内の一角、そして四方の門脇の広場の計五か所。

 なので該当するエリアには近づかないのが暗黙の了解であった。


 しかしうさみはそう言ったことを知らず、久しぶりの街中で駆けだしたことで注意も散漫、さらに思わず駆けだしたその速度は全力に近い速度であり、つまりそれは常識外の速度であったので、注意できる人もいなかった。

 さらには街中では基本的に「コミュニケートアクション」と呼ばれる仕様によりダメージが発生しないようになっている。

 要はぶつかってダメージを受けるなどといったことがなく、そういった場合、危険感知が機能しない。


 結果転送により出現ポイントに現れた相手に突っ込んだのである。

 ぽよん。ときて、どんがらがしゃんである。

 はてこの感触は依然味わったことがあるような。

 謎の既視感に襲われて、うさみは顔にあたる柔らかなものから離れ、取るべき行動を取った。


「ごめんなさい」


 土下座である。

 悪いことをしたら謝りましょう。

 いきなり現れたとはいえ、ぶつかっていったのはうさみなのである。

 ごめんなさいしないといけない。

 というわけで、とりあえず焦っていたことは置いといてごめんなさいしたのである。


「ちょ、あな、た……?」


 立ち上がる気配と共に勢いよく始まった言葉が途中で困惑声に変わった。

 それ以上になんだか覚えがあった声にうさみは顔を上げてみた。


 その人はきれいな女性だった。マンガみたいな赤い髪の毛をツインテールにしており、ちょっと釣り気味な目つきによく似合ってるように見えた。スタイルもよく、くびれた腰に左手をあて、肘まである手袋に覆われた右手をこちらに伸ばしかけている。髪の色に合わせてか、赤系をベースにコーディネートされた衣装。目につくのは全体の優雅な雰囲気に反逆するような意外なほどゴツいベルトと、垣間見える白い肌、そしてデザインによってさらに強調されている特定部位。その盛り上がりの大きさが、下から見るとよくわかった。


 ガッデム。うさみはいろいろ忘れて心の中で涙した。それはそれとして、


「あ、あのときのおっぱいさん!」

「お、おっぱいさん!?」


 おもわず口から出た叫びに対して、女性はひっくり返った声で復唱を返した。

 きれいなお姉さん。

 土下座する少女。

 響き渡るおっぱいさん!

 返されるおっぱいさん!?

 ざわり。

 周囲の注目は一瞬で集まった。


「~~~~~!」


 うさみ命名仮称おっぱいさんは声にならない声をあげると、目の前の土下座をにらみつけたが、「ひう」と息を呑んだのを見て一瞬困った顔をして、襟首ひっつかんで駆けだした。

 首がしまったうさみがぐえーと鳴くと小脇に抱え直され。

 野次馬の視線をあとに二人は駆け去ったのだった。




 □■□




 †バーニング娘†はおっぱいさん呼ばわりされて注目を集めたことは未だかつてなかったので、混乱と羞恥と怒りによって頭の中がぐちゃぐちゃになった。

 なのでまずとっかかりとして怒りに任せて目の前の土下座を叱り飛ばしてやろうとしたのだが、にらみつけた時点で涙で潤んだ上目遣いの少女の姿をまともに見てしまい、これは反則でしょうと躊躇が生まれ、結果変に冷静になってしまったせいで周囲の状況を認識してしまった。

 注目を浴びることそのものは別に構わないのだが、現状の絵面はよろしくない。というかヤバい。

 いつかも同じ思いをしたような、と既視感を覚え、よく考えたら実際にあった話だったと思い出す。

 急いでこの場を離れなければという心の中の声と、うるうるこちらを見つめる少女。

 最終的に出た解は少女を連れてその場を離れるというものだった。

 土下座している少女であるので掴みやすいところをつかんだところ、ぐえーと苦しそうな声をあげたので慌てて抱え直し、向かう先はなじみの場所だ。

 途中「あれ」だの「おおー」だのと抱えた荷物から意味の通らない声が聞こえたりしたがとりあえず無視。

 大通りに面する一等地。

 【Wonderland Tea Party】と看板がかけられた扉を開くと中に身を滑り込ませ、扉を閉じると、バーニング娘ははふう、とため息をついた。


「あのー、おっぱいさん?」


「ですから、おっぱいさんではありませんわ!」


 下から見上げる金髪少女の声に、バーニング娘は思わず声を荒げてしまう。

 同時にその抱えた少女の存在を思い出し、「おろしますわよ」と声をかけてゆっくりと下ろしてやる。

 そうして目の前に立った少女は思っていた以上にちっちゃな姿で、170ないバーニング娘の胸に届くかといったところ。

 ふむ。

 やはり。


「貴女、初日に二度、わたくしとぶつかった子ですわね?」


「やっぱり! あのときのおっぱ……」


「だからおっぱいさんではあ・り・ま・せ・ん・わ!」


 バーニング娘がかぶせ気味に叫ぶと、うさみはすこし大げさな動作で身を引いた。


「バニさん、何を玄関先でおっぱいおっぱい騒いでいるの? お客様を立たせたままで」


 奥から別の女性の声が聞こえたのはその時であった。 

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初心者うさみシリーズ新作はじめました。
うさみすぴんなうとAW
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