困惑のらびっとすくらんぶる その1
12/19 兎人族について言及済みだったので一部削除と調整。直ちに影響はありません。
それから、ギルド施設の使い方とか紹介状の宛名にある施設の場所とかレクチャーされた。レベル10以下の冒険者は施設の利用料が無料で武器の使い方とか講師もいるので是非利用してねと言われたりしたがまた今度と断って冒険者ギルドを出た。
「予定より時間がかかりましたわね。魔法のお話で盛り上がりすぎましたか」
「そうだねえ。なんで闇で魔力とか吸収できるのとか、地で重力を扱えるとかやっぱりわかんないけど」
「まあそのあたりは伝統や先例でしょうか。このゲーム内での解釈であれば図書館や魔法学院で調べると参考になりますわよ」
「どっちかというと体動かしてたいかなあ」
「それは残念」
おててつないでお話ししながら街を歩く。
次の目的地はスターティア内のセーブポイント、お地蔵さまだ。忘れないうちに復活ポイントを変更しておかないとまた帰れなくなる。
本当はその気になれば空を走って抜けられるのだが、時間もかかるし人に見られると面倒だし【兎の抜け穴】での出現ポイントを増やして損はないというか便利なので。
そのお地蔵さま、最寄りのものが南門付近ということでうさみとバニさんは南門へ向かっていた。
「といっても目と鼻の先なのですけど」
冒険者ギルドはその性質上、門の近くにあるのが都合がいい。
防衛上だとか治安上だとか利便性だとかいった理由で、街の四方にある門ごとに支部を設置しているのだそうだ。
具体的には門前の広場から徒歩一分ほど。いっそ広場に面した場所にあればいいんじゃないかと思うが、それはそれでマズいらしい。
ともあれ、冒険者ギルドと広場とをつなぐ短い道の端には露店がならんでおり、広場は半ばが資材置き場、もう半分はたくさんの人間が集まっている。
その片隅にあるお地蔵さまになむなむしていると、喧騒のなかから様々な言葉が漏れ聞こえてくる。
「初心者用ポーション安いよ!」「ドロップアイテム買います!」「初心者さん案内ツアー本日第三波締め切りまであと五分でーす」「ウサギさん討伐はんたーい!」「はんたーい!」「臨時パーティ募集中!現在剣槍弓魔!聖募集!」
『ウサギのひとがいっぱい集まってるけど』
『あれは【ウサギさん愛好会】の方ですわね。ウサギ型モンスターを倒さないようにしようと訴える活動をなさっている方々です』
『なにそれ』
ウサギがかわいくて仕方がない人や自身がうさ耳なのでウサギがやられるのがつらいという人たちの集まりで、一時は他者がウサギを攻撃するのを邪魔する活動に発展し、他のプレイヤーたちと対立したり何やかんやあった結果、現在は初心者が集まる南門付近でこうやって声を上げているのだとか。
『それって楽しいの?』
『さあ、わたくしにはなんとも。人それぞれでは?』
集まってみんなで何かするのはそれだけでもわりと楽しいことではあるが、それならそれで、他にやることがあると思うのだが。例えばウサギを愛でるとか。あるいはウサギらしく月を見て跳ねるとか。出てないけど。。
『というか、ウサギさんが畑を荒らすなら駆除するのは仕方ないと思うんだよね』
『あら、そのあたりの事情をご存じですの?』
冒険者ギルドには『畑を荒らすウサギを駆除してくれ』といった内容の依頼が張り出されており、ゲーム中下から数えて三指に入る【いたずらウサギ】を一定数討伐することでわずかであるが報酬を得ることができる。
こういった依頼は様々なモンスターに対して出されており、その理由も様々で、依頼を出す側にもそれなりの背景が存在することがわかる。
畑を荒らす、となれば農家の人には死活問題であるし、街の人も食糧生産が安定しないと困るだろう。
そういった話をバニさんは知っていたが、うさみが知っているとは思っていなかった。冒険者ギルドでもそういった話はしていないし。
『あー、うん。ウサギさんは趣味と実益を命と天秤にかけてやってるから遠慮する必要はないんじゃないかなあ』
『なんですのそれ。ちょっと、いえ、すごく興味がありますわ』
バニさんが妙に喰いついた。
『地下帝国パラウサで話を聞いたんだけど……。というか、あの人たちはパラウサでクラスチェンジしたんじゃないの?』
『種族で兎人族の方たちだとおもいますわ。ウサギのクラスも地下帝国パラウサもうさみ以外から聞いたことがありませんし』
『兎人族ねえ』
うさみがウサギにクラスチェンジした時期と前後して追加されたという新種族であり、うさみはよく知らない。もっとも、エルフやドワーフについてもよく知らないけれど。
『猫耳とか犬耳とかの種族も準備されているのでしょうか。ワンワン共和国、なんて?』
『猫はともかく犬はちょっと』
犬はダメだ。うさみは拒否した。のーさんきゅー。
『あら、うさみ、犬が苦手なんですの?』
『の、のーさんきゅー』
バニさんがいじめっこの貌をしたのでうさみは目をそらした。そんなバニさんは嫌いだよ。犬はダメだよ、うん。
『い、犬といえば、ウサギさんは犬と戦争してるらしいよ。縄張り争い』
『ほほう。これまた興味深いお話ですわね』
自分で振ったとはいえ、バニさんは妙なことに興味を持つなあ。うさみがそう思いながらそらした話を補足する為に口を開――
「くそ、なんだあのウサギ! 強すぎる!」
――こうとしたところで、近くに出現した人が叫んだのだった。




