困惑のさいとしーいんぐ その12
「うーん、とりあえずHPどれくらい減るか実験しないと。でもうっかり死ぬと星降山に帰っちゃうなあ……」
どうしようかなとうさみがつぶやく。復活地点のお地蔵さまをまだ見付けていないのだ。
星降山で復活してしまうとまた帰ってこれなくなる。
HPを減らす実験をする以上0になる恐れはあるだろう。
「あら、位置セーブが必要でしたら先に行っておくべきでしたわねえ。……HPが一定以下になったら解除される、とかできませんの?」
バニさんの提案を聞いた唸りながらゆらゆらと揺れていたうさみの動きが止まる。
「一割を切ったら解除、いえ、X以下になったらXにして効果解除される、といった感じにできれば効果中の事故を回避できたり、」
「それだ!」
「どれです?」
うさみとバニさんが見つめ合い妙な沈黙が生まれた。そして時は動きだす。
「時間経過以外の終了条件をあらかじめ設定すれば、……できるかな? 【死なない火傷】! うあなんか変な感じ」
うさみが魔法を作って唱えると、右手が赤く染まる。メニューを呼び出しHPとにらめっこをはじめる。HPの数値が減っていき999で止まり、右手の色が元に戻った。
「成功! それならこうかな、【燃える命】!」
今度はうさみの全身が赤い光を纏った。メニューのステータスを見ると能力値の+以降の部分が増加し、HPが減っていく。HPの減少に合わせて能力値が上がっていき、残りHPが一割を切ったところで現象が止まり、同時に光が消え能力値が元に戻った。この場合の元とは、アイスにヒールをかけられる前の水準のことだ。
「できたよ! 魔力結構使う魔法になっちゃったけど!」
「お、思ったより簡単に作れますのね」
バニさんとエイプリルは呆気に取られていた。
こうも簡単に魔法というのはつくれるものなのか。
「作るだけなら簡単だよ。使い物になるかどうかは別問題だけど。バニさんがさっき使った魔法はすごく効率がよかったんだ。先生に教わった魔法もそうだったから、きっとそのあたりにコツとか秘密があるんじゃないかと思うんだけど」
うさみの感覚での話になるが、バニさんが使った魔法や、アン先生に教わった魔法は洗練されていた。一方うさみが作った魔法はどこかもっさりとしているというか、効果に対して無駄が多い感じがする。
もう一度アン先生に会えばきっと教えてくれるだろうが、とりあえずこちらでお地蔵さまに挨拶しないとだし、そのまえに一連の面倒事を済ませたいし水着も注文しておきたいし。
「物理法則を利用できると必要な魔力が減るとか、単純な効果の方が効率が良くなるみたいとか、でも場合によっては幾つもまとめた方が結果として消費量が減るみたいとかいろいろルールがあるみたいなんだよね。火とか水とかでもなんだかいろいろあるみたいだし」
「ちなみに今回の消費魔力はどのくらいですの?」
「千ちょっと」
「せっ……!?」
バニさんの最大MPより多い。うさみにしても半分以上、運用するには少し不安な量である。
うさみの場合消費も効果も少なめの魔法を多用して移動補助を行うため、まとまった量を一度に使うとリカバリーが大変なのだ。星光竜相手に使った、五体に分身して見せる魔法も、使うためには魔力圏を蓄える必要があった。
「別のゲームのことなので参考でしかないですけれど」
「うん?」
気を取り直したバニさんがそう前置きして、
「対象を狭めたり、デメリットを付けたりすることでコストを低下させる、という概念はどうでしょう?」
術者自身だとか、エルフのみだとか制限を付ける。あるいは効果中HPの回復ができなくなる、バーサークする、詠唱が長い、使用するのにアイテムを消費する、などのデメリットを付加するなどで効果を上げる、あるいはコストを下げることができないだろうかというのがバニさんの提案だ。
バニさんはうさみと比べるといろいろなゲームに手を出しているので、うさみとは違うゲーム的な視点があった。
「行使に媒体を消費する魔法というのはあったと思います。それと、魔法に限らず、自分自身にのみ効果があるスキルと他者にかけられるもの、パーティ皆に効果があるものですと、制限が強いものの方が効果が高い傾向があるのではないかと」
エイプリルがこの世界に住まう者の視点から捕捉する。
冒険者ギルドの受付はそれなりにそういった知識が入ってくるのだ。あるいはチュートリアルでプレイヤーに教える必要がある場合があるため、ある程度の知識があるように設定されているとも。
「んー、あ、できそう。使う魔力……よっし、減るみたい!」
「「おおー」」
こうして、うさみの魔法開発が捗ってしまった。知恵を出すと、即座に反映されるというのはなかなか面白いもので、皆思いついたことを言ってみては試しを繰り返したのだ。バニさんのゲーマー視点とエイプリルのこの世界の冒険者(ギルドの受付)視点はうさみにはないものであり、肝心の魔法使いの視点が抜けているとはいえ大いに参考になった。
結果、新たに五十を越える魔法を作成。これらの多くは様々なゲームで実際にあった魔法の再現だ。バニさんが思いつくままに挙げたものをうさみの持っているスキルやエイプリルの持っている基礎知識を参考に作ってみたのである。
どれも改良の余地はあると思われるがとりあえず形だけは成立してある。
「星魔法ってなにができると思う? 隕石落としくらいしか当たりそうなのないけれど、感触からしてもっといろいろできそうなんだよね」
「なんだかもういろいろと越えているんですが。えーと、流れ星に三回願いを言うと叶うとか」
「この世界にもあるんですのねえ。そうですわね、星、宇宙、恒星、惑星、衛星、宵の明星、明けの明星、星座、七星剣、月、ブラックホール、重力、」
「重力ってさっき【地魔法】で再現できたよね」
「ですわね。ただ地属性に分類するゲームがありましたし、時空魔法の場合もありましたわ。地属性は最初に思いついただけですから、星があるならできても違和感ないですわね。そもそも大地も惑星の……」
「あ、時空でも星でもできた」
といったような様子でうさみにはよくわからなかった星魔法についてもいくらか仮説が得られたりもしたのだった。
並んでよくわからない兎魔法は保留中。
そのほか、目からビームはまぶしいのでなしだとか体を雷に変換する魔法は戻り方がわからないので今は実験できないなどの失敗談もあったがおおむね有益な時間であった。
なおエイプリルのお腹が鳴るまで話し合いは続き、天井の修理代はうさみが半分だけ持つことになった。




