困惑のさいとしーいんぐ その10
「【マジックミサイル】!」
「!【シールド】」
バニさんが手に持つ杖の先から魔力の光が弧を描いて散開しうさみに向かって飛ぶ。しかしうさみが一歩も動かずに魔法を使うと攻撃性の光は何かにぶつかったように消滅した。
「うさみはシールドを覚えているのですね」
「うん、最初に教わった魔法だよ」
【マジックミサイル】【シールド】どちらもごく初歩の戦闘用の魔法であり、最初に覚える魔法の選択肢の一つだ。詠唱時間が短いので魔法使いの通常攻撃代わりに使え、習熟すると飛んでいく光の数が増えて行く攻撃魔法の【マジックミサイル】。同等の詠唱時間でマジックミサイルを問答無用で無効化し、また物理攻撃を自動である程度防ぐ見えない盾を生み出す個人防御魔法【シールド】。
多くの魔法使いプレイヤーはマジックミサイルを覚えている。一方でシールドはあまり人気がない。シールドが役立つほど接近された時点ですでに追い込まれており、その状況から立て直せるほどシールドの防御性能の信頼性は高くないためだ。また、マジックミサイルを遮断できるとはいえほかの魔法には無意味であることもある。
「はじめてやくにたったよ。街の外にいる間ずっと使ってたのに一度も効果を実感したことがなかったんだよね」
それは自力で全部避けるからだ。
というツッコミを入れられる人はここにはおらず。
「まあ今のは小手調べですわ。わたくしの炎をご覧あれ!」
バニさんが杖を構えて詠唱に入るのをうさみは観察するのだった。
訓練スペースに来てなぜ二人が対峙しているのかというと、冒険者ギルド側からうさみの能力をある程度見せてほしいという要望があったためである。
迷いの森の中心部に関する情報の公開についてのうさみの要望を受け入れる代わりという形での話だが、それがなくとも了解していただろうと思われる。うさみの能力を証明するのは双方の利益になるからだ。
しかし問題は相手である。
バニさんはプレイヤーの中では上位の実力者ではあるが、うさみと比べると大人と子供以上の差があることが目に見えてわかった。
先ほどから放っている攻撃魔法のすべてを、うさみは一歩も動かずに迎撃しているのである。
「【ファイアボール】!【ファイアボルト】!【フレイムストライク】!」
「えい。よっと。ふんす」
火の玉は魔力の玉をぶつけて影響の外で爆散、火の矢は軌道をそらされ、足元から吹き出るはずの火柱は吹き出なかった。
「えっと、こうかな。【ファイアボール】!【ファイアボルト】!【フレイムストライク】!」
「あだだだだだだ」
挙句の果てにうさみがバニさんの真似をして使った魔法がバニさんを直撃。1の数字がバニさんから多数跳ね出てくる。
「ぎゃふん」
ばたり。とバニさんが倒れた。
「あ、あれ? 大丈夫?」
うさみは慌てて二十メートルほどの距離をあけていたのが瞬く間に駆け寄り、バニさんを抱き起こす。
すると抱き起こされたバニさんは震える手でうさみにサムズアップすると、
「ぐふっ」
といって脱力した。
「ば、バニさーん!?」
「いえ、ほとんどダメージうけていませんよね?」
さけぶうさみ。冷静にツッコミを入れるエイプリル女史。
茶番であった。
「いやまあ正直精神的にはダメージ大きいのですのよこれでも。わかっていてもラーニングして返されるというのはキますわねこれ」
むくりと起き上がるバニさん。
『炎使いに火属性はきかないから遠慮なく攻撃してもいいですわよ』と事前に言われていたので帰してみたのだが、思わぬダメージを与えていたらしい。
でもいちいち小芝居をはさむ必要はないような気もする。バニさんの趣味か。うさみは何とも言えない気持ちになった。
「ともあれ、うさみさんが魔法使いとして極めて高位の実力者であることはわかりました。ちょっと信じられないレベルで」
「あれだけでそういうの、わかるものなの?」
「攻撃魔法を的確に迎撃した時点で相当な実力者だと思いますわよ。初めて見た魔法を覚えて使った、というのは証明できませんけれど、事実ならとんでもないレベルの魔法使いであるという評価がつきますわね」
エイプリルはやや興奮気味だ。
バニさんの解説を聞いてもそんなものかなと思うくらい。うさみは自分基準あるいは星光竜基準でしかわからないのだ。アン先生はその底を見ていないこともある。
「それに先ほどの駆け寄る早さもですね、目にもとまらぬという言葉通りだと。魔法、火以外はどうなんでしょう?」
「土とか水とかいろいろできるよ」
うさみは属性の玉を生み出す。とりあえず五個。出そうと思えばもっと出せるが、自由自在に動かせるのは五つなのだ。
五つの玉を曲芸のごとく動かしてみると、バニさんとエイプリルが「「おおー」」と唱和した。
「それはどうやっているんですの?」
「ん、これは【魔力操作】だよ。魔法でも同じことができるけど。火の玉とか水の玉とか出したりうごかしたり」
属性コントロール魔法という、火や水などを生み出したり、すでにある媒体を自由に操作する魔法を覚えたのは二度目のときだったろうか。
いまでは魔法を介さずとも魔力操作の感覚のみで同じことができるようになっている。
「魔法作ろうと思ったら【魔力操作】があればいいよ。あ、【魔力感知】も。たぶんだけど」
そんなことをあっさり言い放つ。
魔法を作ったということにバニさんが興味を示していたのを思い出したからであるが、これはこの世界の魔法使いの奥義のひとつである。エイプリルは職務上知識として知っていたが、実際に見るのは初めてであるが、事実なら少なくともうさみが魔法学院の教師級以上の能力があるということになる。
「なるほど……経験値が分散するからと外しておくのが主流ですが、言われてみればアレンジもオリジナルにも、その二つのスキルは必要そうですわよね」
「そうなんだ? えっと、あとは【魔力変換】【魔力収束】【魔力場】……この辺は違うかなあ? アレンジの関係かな?」
メニューを広げて関係ありそうなスキルはないか調べ始めるうさみ。だがどうもしっくりこない。系統だって教わったわけではなく、ほぼ自力で修得した上、システムの支援を目に見える形で受けていないのではっきりしたことが言えないのだ。
「あのーよろしければオリジナルの魔法を作るところを見せていただいても?」
エイプリルがそんな提案をしてくる。
オリジナルの魔法かどうかを確かめるすべはエイプリルにはないが、エイプリルが聞いたこともない魔法を使えるということがわかれば十分な材料だ。何のかといえばギルド本部や提携しているほかの組織を黙らせるための。
「ん、いいけど。どんなのがいいかなあ」
うさみはあっさり承諾し、開発すべき魔法を検討するのだった。




