困惑のさいとしーいんぐ その7
応接室と思われる場所に連れ込まれ、準備してきますのでおくつろぎください、と言い残して受付の人は出て行った。
ソファとテーブル、足元には絨毯、部屋の隅に書棚がある程度で、そのほかあまり目につくようなものはない。飾り気が少ないのは新築で追いついてないのか、そういう方針か。冒険者ギルドの性格を考えれば、モンスターの剥製のひとつも飾られていればハッタリがきいてよさそうなものだけども。いやそういうものを飾るならエントランスが先だろうか。
バニさんがのんびりそんなことを考えている横に座って、うさみは現状について考えていた。
なんでこんなところに連れ込まれることになったのか。
魔導具というのは稼働していたと思う。正常に、かどうかまではわからない。が、受付の人の反応、あれは演技だよね。
マップかアイテムの情報に問題があったのだろう。モンスターは倒していないので情報はない。口で伝えることはできるけれど、あの道具には関係ないだろう。
平原、地下帝国パラウサ、迷いの森、山麓の森、星降山。そして話題になっているらしい今日の朝のことを合わせれば、星光竜さんがらみが怪しいか。
「バニさん、こうなること予想してたね?」
横で飄々としているバニさんを見上げて問う。
もしかするとこの人結構曲者なのではと疑い始めたうさみに、バニさんはウインクひとつ。
「こうなることというのがNPCの間で大ごとになる、ということでしたらイエスですわ」
「お、大ごとになるって?」
「星降山に棲む星光竜というのは街に情報としてありましたから」
「そこに朝のことがあって、今、星降山の地図を持ってきた。うんそうね」
そりゃあ大ごとになる。つまり特定されました。
「わかってるなら先に言ってよ……どういう狙いなの?」
クランハウスで情報を流してどうこう言っていた気がするが、いきなり全ぶっぱしたも同然に思え、ちょっとうさみには何がしたいのかわかりかねた。
「NPCを味方につけるためですわ」
「わたしのことをバラしたらNPCが味方になるの?」
人差し指を立てて若干ドヤ顔で言うバニさん。どうしてそうなるかわからないのでうさみは質問を重ねる。
「味方になるかはこれからの交渉次第です。プレイヤーより話が通じやすいですから、おそらく大丈夫だと思います。うさみは思ったように喋ってくださいまし」
「好きに喋っていいの?」
「そうですわね、あえて言うなら変に演技など考えず正直に。話したくないことなら話したくないと言ってもいいですし」
何やら目論見があるようなのに、それを理解していないうさみに好きに喋らせていいのかと思うが、問題ないという。うさみとしては全容を話してもらいたいところなのだが、いつ受付の人が返ってくるのかわからないし、んもう。
「んもー。先に話しておいてくれたらいいのに!」
「多少のサプライズは人生のスパイスですわ」
悪びれないドヤ顔に、うさみはため息をついた。振り回されるのは本意ではない。これはいつか逆に振り回してやらねばなるまい。うさみは心の中にメモを取った。バニさんにやり返すっと。
「はじめまして、私がスターティア冒険者ギルド新南支部長、サースだ。こっちは先ほど会われたと思うがエイプリル、受付担当の者だ」
「†バーニング娘†ですわ」
「うさみです」
向かい合ってお辞儀をする。
受付の人、エイプリルがお茶とお茶菓子と一緒に連れてきたのは推定偉い人。
がっしりとした体つきで目つきが鋭い。髭の似合うなかなかカッコいいおじさんだった。
「さて、今回はこのエイプリルの判断でこちらに来てもらったわけだが、単刀直入に尋ねる。そちらのうさみ嬢は、今日の朝、星光竜……ドラゴンの背から降りて来て、ウサギと共に去った女性で間違いないだろうか?」
「うん、あ、はい、そうです」
「ああ、喋りやすい喋り方で構わんよ。しかしそうか、厄介なことになったな」
眉間にしわを寄せて髭をさするサース支部長。やや前傾気味だった姿勢を緩めてソファに座りなおす。
「厄介とは?」
「ああ、とバーニング娘嬢、あなたは?」
「うさみの関係者です」
なんで君ここに居るのという視線を向けられ、いけしゃあしゃあと言ってのけるバニさん。
確かに関係者といえなくもないが朝の時点ではたいした関わりもなかったのでこの場合は不適切だろう。しかし、サース支部長はそれを知る由もない。関係者と言われれば受け入れざるを得なかった。
「評議会からうさみ嬢を確保せよという話が来ている。状況を考えれば当然だと思うが、どうかね」
「うさみではなく、今朝の女性、でしょう?」
「同じことだろう?」
正体不明だがドラゴンと関わっているのは間違いなさそうをなその女性探して事情を確認しようというのは、状況からすれば当然の動きだろう。街の実働戦力である冒険者ギルドにその話が回ってくるのもだ。
どうも怪しげな雲行きである。
うさみはサース支部長とにこやかに見つめ合うバニさんを見上げるのだった。だいじょうぶなの?




