困惑のさいとしーいんぐ その5
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ! もうこっち来ないのかと思いました!」
「「あ、はいすみません」」
うさみとバニさんが連れだって受付に。
勤務中に欠伸していた受付のおねえさんに嫌味を言われ、うさみとバニさんは、ちょっと、ん? と思ったのだが、受付の前、公共の場所で長話をしていたのは事実であったので素直にごめんなさいした。
そのあいだ受付を訪れた客はいなかったのだけれども。
その欠伸のお姉さんは茶色いおさげでメガネをかけており、隣の窓口のお姉さんと同じデザインの服を着ている。制服なのだろう。いかにもな事務員の恰好で、ふぁんたじー? とはてなマークが飛び交いそうで、ますますお役所っぽい雰囲気を醸しだしてくれている。
「本日はどういった御用件でしょうか?」
営業スマイルで問いかけられ、うさみはなんだっけ、とバニさんを見上げる。
「まずはこの子の登録をお願いいたしますわ」
「冒険者登録ですね。ありがとうございます! 説明はご入用ですか?」
「お願いしますわ」
うさみがオートで進むのは楽だなあと思っていると、おねえさんが書類と冊子を出してくる。
これが冒険者ギルドだ! と表紙に書かれた冊子を開いてうさみの前に置いてくれる。
「冒険者ギルドは冒険者の皆様と一般の市民の方々の橋渡しを行い、冒険者の皆様の活動を支援し、冒険者の皆様の立場の向上と保証を行うことを目的とした組織です。基本的には市民の方々からお仕事をいただきまして、冒険者の皆様に斡旋するというのが業務内容です」
「んー、ハローワーク?」
「やってることは近いですけれど、ちょっと違いますわね。冒険者ギルドから斡旋されるのは、基本的に職ではなく単発の仕事です」
「はい。モンスターの危険のある街の外での活動が主になります。一応、街中での雑用なんかもありますけれども」
けれどもそういうのはメインじゃないということか。
「具体例を挙げますと、モンスターの討伐、アイテムの調達、戦闘力を持たない市民の方の護衛、それから街から街への配達などが多いですね。ただ現在はスターティア評議会と提携しておりまして、街区の拡大と港の開発にかかわる依頼も取り扱っています。この建物も冒険者ギルドで斡旋代行して建築されたんですよ」
「はあー」
うさみは大工さんの仕事じゃないのかと思ったが、先ほど受けた説明を思い出した。
つまりプレイヤーもこの冒険者ギルドの支部を立てるのにお仕事という形で協力したということか。労働力。
「一時的に他の職業ギルドとも連携しておりまして、多種多様な依頼を扱っています。が、本来的には討伐、調達、護衛、配達などが中心であると思っていただければと」
「戦ったりとかするんだね?」
「はい。主に戦闘になる可能性がある依頼を取り扱っているわけです。もちろん、依頼によってはうまくやって戦闘を回避することは可能ですけれども」
「なるほど」
このゲームは戦ったりとかするゲームである、と教えてもらったわけであるが、そうするとこの冒険者というのはプレイヤーの都合に合致した職業であると思われた。
そして、うさみがここに連れてこられたのは。
「つまり、ここでお仕事をして、お金稼げばいいってこと?」
うさみはバニさんを見上げて問うた。
水着を買うお金を、ということでやってきたわけで、つまりそういうことだろう。
バニさんはにっこり笑い、
「違いますわ」
「「えっ」」
受付のおねえさんとうさみの声が重なった。
「今回はそんな悠長な話ではなく、サクッと一時金を手に入れる話ですわ。というわけで、情報の買取りの話を」
「あ、はい」
バニさんが言うと、おねえさんは半分納得、半分疑問顔で頷いた。
「冒険者支援の一環としまして、ギルド員からマップ情報、アイテム情報、モンスター情報の収集を行っておりまして、提供していただけましたらお礼を差し上げることになっております。基本未確認情報に対するものですが、マップの場合は既知の情報であっても情報の確認となりますので些少ですが報酬が発生します」
「異界のマレビト、プレイヤーでしたら移動するだけでマップ情報、入手することでアイテム情報、倒すことでモンスター情報が蓄積されていますから、それを魔導具を使って提供できる、ですわよね?」
「あ、はいそうです。提供いただいた情報はギルドで共有し、ギルド員であれば参照できるよう資料化します。提供者の名前は公開、非公開を選べます」
「あー、そういう」
つまり、うさみの持っている情報を売ってお金にしようということか。
「わたくしも提供した経験がありますが、時間もかかりませんし、おそらくそれなりにまとまった金額になります。うさみの欲しいものを買うくらいであれば足りると思いますわ」
確かに、うさみは迷いの森より先では他のプレイヤーと会っていない、ということはそれだけお金をもらえそうだ。時間がたてば他の誰かがたどり着くかもしれないわけだし、今がチャンスというわけだ。
そう言うことなら前向きに検討である。
それからおねえさんの説明を最後まで聞いた。
仕事をしたりギルドに貢献することで功績値というのがたまっていってランクが上がり、新しい依頼が順次解放されて行くシステムらしい。
バニさんは新情報の提供などでそれなりに功績値を稼いでおり、ランク6、1から始まるので五回ランクアップしているわけだ。
ちなみにレベルが高いと高いランクで始められるらしいがうさみはレベル1なので関係がなかった。
それから禁止行為や罰則規定もあったのだが、基本的には法に従いましょう、悪質な行為が過ぎると追放されたり討伐対象にされますよ、というもので、うさみが気にするような目につく内容はなく。
とくにデメリットもないようなので、うさみは冒険者ギルドに登録したのであった。
そしてさっそく情報を提供してお金をもらおうということになり、おねえさんはレベル1の若いエルフの少女がそんなたいした情報持ってるのかしらと訝しむ雰囲気を隠しきれておらず、なぜかバニさんはドヤ顔でニコニコ、うさみは魔導具とやらの仕組みに興味津々で。
受付のおねえさんが出してきた、水晶が埋め込まれた置物にしか見えない見た目の魔導具に、うさみが手を添えた。
すると。
「…………えーと、あれ、おかしいなーはんのうしないぞーこわれたかなー? すみませんちょっと代わり用意しますので、奥までよろしいですか?」
「え?」
「うふふ」
うさみは驚いた。魔導具に触れたときには魔力が流れて稼働したっぽかったので。反応してないということはないはずである。
なぜかバニさんは笑いをもらす。妙に楽しそうなのはこの状況を予想していたからか。
ともあれ、どこかわざとらしい態度のおねえさんによってうさみたちは冒険者ギルドの奥へと連れ込まれるのであった。