困惑のさいとしーいんぐ その3
冒険者ギルド新南支部は土台を石で、壁や屋根は木で作られた立派な建物で、その外観は小学校の体育館程度はあるように見えた。端的に言ってでかい。まわりのあばら家とは比べるべくもない。
入り口は両開きの大扉が全開になっており、これって砂とか埃とか風とかいっぱい入るんじゃないのどうなのとうさみは思ったが、わざわざ開いた状態で固定しているということは理由があるのだろう。きっと。
「さて、うさみ。まずは一人で入るのがお約束ですのでどうぞ」
そういってバニさんが繋いでいた手を離す。
お約束ってなんですか。まあいいからいいから。
視線でそんなやり取りをした後、バニさんに背を押され、うさみは建物の内部に足を踏み入れた。
「お役所?」
うさみが漏らした感想のように、冒険者ギルドの内部は役所を思わせる構造だ。
正面に受付カウンター。窓口は大きく取られ、一か所あたり1.5メートルほどが板で仕切られ十ほど並んでいる。
右手には、こちらは機能優先装飾少なめのテーブルとイスが並び、そのうち二割り程度が埋まっている。奥には調理場らしき場所が見えるので食堂だろうと思われる。
受付スペースとの間には簡単な低い仕切り以外に遮るものはないので、待合スペースとしても使われているのかもしれない。
左手には移動式の黒板のようなものが並ぶスペースがある。紙が張りつけてあるようなので掲示板だろうか。その向こうには階段が見え、二階があることがわかる。
階段の脇には扉がある。見えている範囲は外観の半分くらいなので奥はまだまだあるのだろう。
一歩踏み入れてみたものの、中か閑散としていた。この規模の建物に対し、人口密度が低い。受付カウンターに座っているおねえさんも二人だけで、片方は対応する客もなく、あ、あくびかみ殺してる。
カウンターの奥では事務仕事をしているらしい人が十人以上いるので仕事はあるようだけれども、受付は暇らしい。でも欠伸するのはまずかろう。あ、こっちに気づいて笑ってごまかしてお辞儀をした。
うさみは何かもう目が合っちゃってもうこれどうしようもうという気分になったが、仕方ないのでおねえさんのいる受付に向かうことにする。どうせ稼働二か所のうち一か所は埋まっているので選択肢はないのである。
そして歩きだしたところでなんだか右から視線を感じたが、これをスルー。堂々としていればいいのです、とはバニさんの教えであり、ついでにいえば、暇な時間帯らしい今、見慣れない人が入ってきたら見る位するよねということである。
なのでガン無視。
そうしててくてくと歩いていくと、飲食スペースから三人組の男性が出てくる。ごついのとほそいのと中くらいの。あまりガラがよろしくない風体でへらへらと笑っていてあまりお近づきになりたくない雰囲気。
しかし相手はうさみに用があるようで。
「おいおいおーい。いつからここは託児所になったんだぁ?」
三人の大人の男の人に囲まれ、上から話しかけられた。友好的ではない口調と内容は、つまりこれは絡まれているということだろう。
でもうさみには用がないので無視してカウンターへ向かった。
「あ、な!?」
ざわざわり。あんまりいないとはいえ、幾つかのグループが飲食スペースにたむろっており、彼らの耳目はうさみと三人組に向いていた。
彼らから見れば、三人組がうさみに声をかけたので視線をやると、うさみはすでに三人組の後ろを歩いていた、ということになる。なんとも間抜けな状況であるが、これが三人組を最初から追っていたのなら違う評価をすることになる。
三人組はうさみを囲んだ。にもかかわらず、うさみは三人組の後ろに移動したのだ。うさみは囲まれており、囲んだ側は逃がす理由はないどころか絡む気満々むしろ絡んでいたわけであり、名のに移動したというのは何が起きたのかわからない。
その証拠に三人組も慌てて辺りを見回しカウンターへすすむうさみを見つけたところであり、一体何がどうなった?
衝撃の事実は単に想定よりはるかに早い速度で間を抜けたので認識できなかったというだけのことである。だがその衝撃度はうさみの向かう先に座っているおねえさんも目を丸くしているほどであった。
「な、ナニモンだあのガキ……?」
ほそいのがぼそりとつぶやく。すると、
「お答えいたしましょう! あの子こそ、わたくしのかわいらしいお友達! うさみですわ!」
「「「げえっバーニング女ッ!?」」」
入り口に仁王立ち、逆光からの宣言に、三人組が反応する。
どうやらバニさんは有名人らしい。
女ではなく娘ですわとツッコんで、のっしのっしと中へ踏み込むバニさんに、三人組は怯むばかりで、どうも過去にお灸を据えられたことがあるらしいのが漏れ聞こえる声から想像された。
がうさみは無視してカウンターへ向かった。
それはそうとなんで一人で入るように言われたのか、結局うさみにはわからなかったのだった。