困惑のさいとしーいんぐ その2
始まりの日。
スターティアの街は今までにない混乱に見舞われた。
それは急激な人口の増加によるものだ。
二千人程度の街であったスターティアに、突然何千人もの異界のマレビトであり精霊の加護を受けた者、すなわちプレイヤーが出現したのである。
一日のうちに数倍に膨れ上がった人口を吸収できるはずもなく、物資は不足し価格は高騰、治安は乱れ何が何だかわからない状態、にはならなかった。
なぜなら、スターティアの街は大昔ではあるが、同じような事態が起きたことがあったからである。
そして、マレビトたちの使っていた言葉を借り、ベータテスト事件と呼ばれるその時の経験だけでなく。
事前に精霊の啓示が下っていたのだ。
スターティアにすむものすべてが同じ日に異界のマレビトが現れることとその期日を知らされており、万全といえないにしても、ある程度対応の準備が整えられていたのである。
だが想定以上の規模であったため、物資の不足と価格の高騰が起き、現場は大混乱に陥った。
それでもプレイヤー側の協力もあり危険な状態はひとまず乗り越えられたのだ。
では、どういう対策がなされたのか。
その最大のものはプレイヤーたちに自分たちの活動する場所を作らせる体制を作り上げたというものである。
ようするに街の拡大工事とそれに伴うさまざまな物事をほぼプレイヤーの自給自足に近い形で行わせるという無茶なものだった。
だが、プレイヤーたちは“イベント”と受け止め喜々としてそれをこなしている。
スターティアにある各職人ギルドに冒険者ギルドなどを評議会が中心となって提携し、街を南方へ向けて拡大すると同時に、街の南にあった小さな船着き場を港町として開発する工事が進められているのだ。
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「というわけで、街の南側、このあたりに新たな街区、南方に港町がつくられている最中なのですわ」
「説明中ところどころ、視点が街の人みたいになってたけど」
「そのあたりは街の人にうかがった話です」
バニさんに連れられて、街の南門を抜けた先。
そこには掘っ立て小屋と工事現場が広がっていた。
いくつかは立派な建物もあるが、大体は素人くさい木造の小屋。
下を見ればロープで区割りがなされており、一つ一つの区画はそれなりに大きい。また道が広く取られているようで、見通しはよかった。
各所で工事を行っている人達が見えた。
「あっちのなかの建物は石造りで立派なのに、こっちは木造で、そのー」
「ええ、ぼろいのが多いですわよね」
うさみが言葉を濁しているとバニさんがあっさり口に出す。
うんぼろい。
「プレイヤーのスキルがまだまだ育っていまないそうですわ。生産系スキルは敵の経験値で強化できませんから……。それに港町の方に集まっているのもあるようで。街側の政策で、家さえ建てれば土地を確保できるので、とりあえず確保のために改築・拡張前提でぼろい小屋を建てておく方が多いらしいですわね」
なんとも世知辛い世の中であった。ゲームなのに。
なんでも石とか運ぶの大変だし、木でも十分苦労することになるが比較的マシであるし、加工もいくらか簡単だということ。
そして家を建てるにあたってお金を払えばNPCの大工さんなんかを雇えるそうだが、相応に高く、ひとまずのやっつけで建てる家のために金をかけるのが厳しく、あまり利用されていないとのこと。
やっぱり世知辛い。
「あちらの立派な建物はギルド支部など公的機関の建物ですわ。あちらは冒険者ギルドの新南支部ですわね」
「支部? いっぱいあるの?」
「本部と合わせこの街に六ケ所ありますわね。東西南北の門の近くに一つずつ。南支部はそのうち機能をこちらに移転してしまうそうです」
なんでも門の近くの方が都合がいいからだとか。
バニさんの説明を受けつつも、うさみは首をかしげる。
「冒険者ギルドっていうのはなあに?」
「冒険者に仕事を仲介する組織ですわ。冒険者はおおむね戦闘できる何でも屋と思ってもらえば。登録しておくと、討伐、採取、探索あたりの仕事を受けることができますの」
「お仕事、お金!」
「ですわね」
ざっくりした説明であったが、うさみは仕事という点に喰いついた。
水着買うのにお金が必要なのだ。うさみはぶのーまねーなのである。
「冒険者ギルド以外でも仕事を斡旋してもらえる場所はいくつかありますが、いい意味でも悪い意味でも一番緩いのが冒険者ですわね」
「ほかにもお金もらえる手段があるんだ?」
「ええ、そこは現実の世界と同じように。職人系ギルドはスキルが必要になりますし、逆に言えばスキルを鍛えられます。商人ギルドは元手があって街を行き来できれば。この街にはありませんが、魔法使いのギルドとも言える魔法学院、錬金術ギルド、鉱山ギルドや騎士団なんかもあります」
「錬金術ってさっき見たわたしのスキルにあったよね」
うさみは思いだした。
スキルレベルは7。もっとがんばりましょう。
「錬金術は魔法都市の向こうの四つ目の街でさかんな技術らしいですわね。化学につながる史実の錬金術ではなく、ファンタジーな現実にない技術ですから育成難易度が高い、という評価ですわねえ」
「そうなんだ。じゃあ当座のお金稼ぎにはむいてないかなあ。早く海に行きたいし」
錬金術なんて儲かりそうな字面なのにお金が稼げないとは。
と思ったが、実際のところどんな技術であれ習熟して一人前にならなければおおきくお金を稼ぐのは難しいだろう。
現実で手に職もってる人であればその経験を利用することもできるだろうが、うさみは特にお金になるような技術は持っていない。
育成難易度が高いなんて評価を受けている技術を十分なレベルまで鍛えるのは時間がかかりそうだ。一応手段としてはアン先生に頼る手もあるが、これ以上他の人とかい離してしまうのもどうかなあ、とも思う。同時にいまさらかも、とも。
「とりあえずの金策であれば、いくつか心当たりがありますわ。観光のついでに回りましょう」
「やったー! ありがとう!」
「ふふふ。ではまずは冒険者ギルドから行きますか」
おてて繋いで歩いているうちに、近くまできていたところの冒険者ギルドを指して、バニさんがいうと、うさみはおー!と手を上げるのだった。