困惑のだいあろぐ その4
ReFantasic Onlineにおけるアイテムを製造する技能、いわゆる生産技能はちょっと複雑である。
基本的には、ゲーム的に該当スキルのレベルを上げることで身につき、動作補助によってアイテムを加工することができる。
例えば、【料理】技能のレベルを上げれば、現実で料理ができなくとも高速の千切りや桂剥きのような技術をゲーム内で再現できる。
その一方で、現実で料理ができるのであれば、ゲーム内でも相応の効果を発揮する。
具体的には技術に見合った一定迄スキルレベルが上がりやすいだとか、スキルが足りてなくとも加工したアイテムの効果や品質が技術相応に向上するなどである。
要するに現実で同じことがでるならば、ゲーム内でも有利だということだ。
話は戻って、現実で料理なんてできない、という人が、ゲーム内で【料理】技能を使用する場合、レシピという機能を利用することで、技能レベル相応の成果を得ることができる。
レシピは一つ一つがスキルとして扱われ、他者から教わったり、スキルブックというアイテムを消費することで修得できるもので、【料理】ならば【豆腐の味噌汁】だとか【おにぎり】などのように生産するアイテムの名前のスキルとなる。
材料を用意して【おにぎり】スキルを使用することで、体が勝手に動いて【料理】【おにぎり】の各レベルに依存した成功率で、おにぎりというアイテムを製造できるというわけである。
このとき、【おにぎり】のレベルが高ければ、レシピのアレンジを行うことができる。
アレンジは材料や工程の一部を変更することで別のアイテムを作りだすことができるシステムで、たとえば【おにぎり】を【うめおにぎり】にアレンジすることができるわけである。
アレンジに成功すると新しくそのアイテムを製造するスキルを修得できる。
さらに【料理】が高ければオリジナルのレシピを作ることができる。
これは要するに【おにぎり】を修得していない状態でおにぎりやうめおにぎりを作り、同時にレシピを修得するということであり、その為には当然実際に料理ができなければ難しい。
この点でも現実にその生産技術を持っていることが有利である。
とはいうものの、料理くらいならともかく、鍛冶なんかになると、現実で技術を持っているようなプレイヤーは多くない、というかほとんどいない。
なのでゲームシステムの補助を受けて、簡単なものをレシピ生産からすることから始めるのが生産技能育成の基本である。
そしてシステムの補助を最大限受けるには該当の生産スキルに対応したクラスになることが推奨される。
料理なら料理人といった具合で、クラスボーナスによって成功率が底上げされるためである。ついでに言うなら生産は時間もかかるので安全な場所、つまり任意にクラスチェンジできる場所で行うのが基本なので生産中のみクラスチェンジするというのがおススメされている。
話は変わるがあいすは現実では料理とかできないタイプの人である。
ゲームの中であれば、ということで料理生産成功率補正の付く装備を手に入れたこともあり、ちょっとお菓子作りなどに挑戦した結果。
「センセ、失敗するのは仕方ないけど片付けしようよ」
「てへ」
リリアーナに叱られることとなった。
リリアーナは現実でもお菓子とか作れる人であり、【料理】スキルも趣味程度には育てている。そのせいでもないだろうが、調理失敗後放置されているキッチンは見過ごせなかったようで、あいすを叱りながらもてきぱきと片づけを進めている。
あいすはペロリと舌を出してごまかそうとしたがリリアーナの非難の視線を受けてしゅんとなった。
「料理担当がリアル用事でダイブできないのが悪い」
「それはききましたけどお」
なったはなったが言い訳をして責任を逃れようとするあいす。
しょうがないにゃあ。とリリアーナはため息をついた。
ティーパーティの名の通り、お茶会に必須であろうお茶菓子が、うさみとのお話合いに提供されなかったの裏にはこのような事情があったのであった。なくなった茶菓子を補充しようと頑張ったあいすであったが、なんだかんだお菓子はそれなりに難易度が高かったのである。
「でー、わたしのレポートの被害者がいるってことで来ましたけど、あれでよかったです?」
「ん、十分。目立つのはもう仕方ない。好印象で上書きできれば一時しのぎにはなる」
「うさみちゃんですかー。実際のところは?」
洗いものをしながら尋ねるリリアーナ。
実のところ、リリアーナとバニさんは普通に懇意であり、あいすはそのつながりから知りあった、元は友達の友達スタートの関係であった。
ゲーム内で不仲っぽいことを装っているのにちょくちょく同行するのも、そういうことだ。
要するにやらせであり、もしくはロールプレイの一環で、ライバルとかいいじゃないという遊びであった。
それを知っている関係者とはお互いつき合いがある。たとえば、あいすとリリアーナは今では友達である。
バニさんは【ファイブカード】の面々に対して、リリアーナも【Wonderland Tea Party】のメンバーに対して、敵対的な態度は取らない。あくまで二人の間のお遊びなのだ。
それでも知らない人間にとっては結構な対立をしているように見えるようで、遊びが成功していると二人はほくそえんでいるのであった。
「バニさんは嘘は言っていない。ただし、うさみーはドラゴンの件の本人」
「まあそうですよね……というとレベル1なのも本当ですか。俄然興味がわいてきましたよ」
今回はそんな関係を利用して、うさみの印象操作を試みた。
いろいろと目立つリリアーナとバニさんがぶつかれば、わざわざ介入しようとする者は少ない。あとは場の空気をごまかして何となくいい感じに流せれば、とりあえずうさみが嫌がる注目のされ方は減るだろう。
狙いは概ね成功したが、バニさんとリリアーナにはさまれたせいで別の方向で目立ってしまったのは、まあ必要経費だろう。
「詳細は本人に聞くといい。お茶菓子を用意すれば口が軽くなる。女の子だもん」
「だもんって。まあいいですけどね。センセ、リクエストあります?」
「アイス」
「冷やす手段がないんですよねえ。残念」
ともあれ、リリアーナは勝手知ったる人の家にて、うさみに聞くことを検討しつつ、お茶菓子を作るのであった。
そしてあいすはたべるひとなのであった。