困惑のだいあろぐ その3
バニさんに手を引かれ、現れたのは身長130センチほどのちっちゃな少女。
青いリボンに金色の長髪、水色のワンピースに白いエプロンのエプロンドレス、胸元にはリボンタイ。縞々のストッキングに紺色の靴。
これは。
「おー! ひろいん おぶ わんだーらんど! かっわいー!!」
「ふふん!」
リリアーナが手を叩いて喜び叫び、バニさんがなぜか自慢気に胸を張る。
有名な物語のヒロインの恰好を真似たコーディネート。いわゆるコスプレというやつであろう。
もじもじと落ちつかなそうに視線をあちらこちらとさまよわせる少女に、周囲の目はくぎ付けである。特にリリアーナ。
そんなあたりの盛り上がりに気圧されたか、バニさんを見上げてつないだ手を引く少女。
「なんですの?」
身を低くしてバニさんが耳を寄せるとなにやらささやく。
「ええ? でもお似合いですわよ? ほら皆さん愛らしい姿にくぎ付けですわ」
バニさんが前を示すと集まったみんな、特にリリアーナがうんうんと頷く。
少女は注目されているのを改めて自覚したのか、バニさんの後ろに隠れてしまった。
あー。残念そうにするみんな。特にリリアーナ。
「この子は街を歩くのも二日目の初心者の子なのですけれどね?」
そんなみんなに語りかけるように話しだすバニさん。
曰く、街を歩いていると遠巻きにヒソヒソと、明らかに自分に対して周囲が注目していると気づき、移動してもそれは付きまとい。怖くなって逃げだしたところでバニさんと会い、クランハウスに逃げ込んだのだと。
「ええ、ええ、今朝の出来事はわたくしも耳にしましたけれども! こんなちっちゃな子を――」
「ち、ちっちゃくないし!」
バニさんの腰のあたりから顔を出した少女が後ろから震える声で言葉をかぶせるが、バニさんはその頭に手を置いて続ける。
「こんな可愛らしい子を怯えさせるようなことは違うと思いますの! 如何!?」
「えー、でも、朝の件は気になるよねえ?」
周りに問うように語りかけるバニさんに、リリアーナも別の意見を投げかける。
みんなはそうだなあでもなあと微妙であいまいな空気。
「あなた方、レベル1の初心者がそんな大それたことの当事者だと思いますの?」
「え、レベル1?」
「そうですわ。言ったでしょう。街を歩くのも二日目の初心者だと! ねえ?」
バニさんが少女に問いかけると、少女はうんと頷く。事実であるので。
「大体見た目なんて、装備変更で何とでもなりますし、わたくしのようにスタイリストならこれこの通り!」
バニさんが少女にスキル【ヘアチェンジ】を使用する。
すると、少女の髪型がストレートロングからポニーテールに変化した。
「何なら色も変えられますわ。この程度の不確かな情報を頼りに初心者さんを、新しいわたくしたちの仲間を犯人扱いして怯えさせたりするのはどうかと思いませんの? わたくしはお友達もありますし、この子がこのゲームが嫌になってやめたりしたら、きっととても悲しいし悔しく思うでしょう」
バニさんはそこまで言って言葉を切ると、ゆっくりとみんなを見回した。
しばし、沈黙があたりを支配し、そして。
「うーん、確かにっ! バーさまの言う通りかも!」
「誰がバーさまですか!」
「それに、ああして姿を消したくらいだから、街を歩くなら変装くらいするでしょうしねえ」
バニさんのツッコミにも動じないリリアーナがそう言うと、みんなもまあそうかもなあ初心者じゃあありえんよなあレベル1のこんなちっちゃい子を怯えさせたるのもなあ事案だな。などなどとざわめきだす。
「うん、よし、じゃあみんなを代表してわたしが謝るよ。えっと、うさみちゃん?」
「え、あうん、うさみ」
バニさんが呼びかけたのを聞いていたリリアーナが名前を呼んで、
「うさみちゃん、怖がらせちゃってごめんね! ReFantasic Onlineは楽しいゲームだから、嫌いにならないでね」
頭を下げる。すると遠巻きに囲んでいたみんなもぽつぽつと頭を下げたりごめんなごめんねと謝りだす。何かそんな流れというか空気になった。
うさみはバニさんに背を押されて前に出ると、リリアーナに手を差し出した。
「あの、こっちこそなんだか大ごとになっちゃって、ごめんなさい、ありがとう」
うさみが言うと、頭を上げたリリアーナが差し出された手を握り返す。握手。
するとうしろのみんなのうちの一人がぱちぱちと拍手をはじめ、それが全体広がってあたりは拍手に包まれた。何かそんな空気。
うさみは握手をしながらぺこぺこと周りにお辞儀をし、リリアーナはうさみの手を両手で握って分軍振り回し、バニさんはなぜか胸を張っていた。
「よし、それじゃうさみちゃん、お姉さんとお茶しましょう! そうしましょう!」
「え、でも」
「だめですわ! うさみはこれからわたくしが街を案内するのです」
リリアーナがそのままうさみの手を引いていこうとすると、バニさんがインターセプトする。
「お友達との水入らずですの、今回は遠慮してもらえます?」
「むぅー。じゃあ今度! 今度ね! はいみんな、それじゃあ、解散ッ! 今日は二人のデートを邪魔したら、私が許さないからね!」
素直に身を引き、観衆を散らしにかかるリリアーナ。
みんなは代表的立ち位置になっていたリリアーナに特に逆らう空気でもなく、リリアーナ本人も同行をあきらめていたこともあり、素直に三々五々散っていく。
それを尻目にバニさんとうさみは、おててつないで街に歩いていったのであった。
そして、クランハウスの中から現れるあいす。
「あ、百合子。ちょうどいい、お菓子作って。在庫が切れて困ってた」
「え、ちょっともう! しょうがないにゃあ」
二人に手を振っていたリリアーナの腕を掴んで、クランハウスへ連れ込んだ。
それを見聞きして、いくらかのこっていたみんなも完全に散っていったのであった。