困惑のだいあろぐ その1
【Wonderland Tea Party】のクランハウスの前には多数のプレイヤーが集まっていた。
ほとんどが朝のドラゴン襲来事件から掲示板をにぎわせる原因となった金髪に赤いリボンの少女が目的である。
あの事件で目撃された謎の少女。
どういう形であれ、ドラゴンと関わりがあり、またその姿の消し方からしてウサギとも関わっていることは明らかで、今までにそのあたりの情報は何一つ上がってきていない。
星降山にドラゴンが棲むという話はNPCなど、ゲーム内の情報源から漏れ聞こえて来ていたが、その星降山に至る道程がまず開拓されていない。手前の手前な迷いの森すら突破事例はなく、また迂回ルートも見つかっていない。
ウサギはというと、ゲーム内最弱モンスターの一角であり、また始まりの街であるスターティア近辺に複数種、格の違うウサギ型モンスターが分布していることがわかっているが、他のゼリー系や犬・狼系モンスターなどともさしたる違いはない程度の情報量。
すくなくとも多数のウサギを操るようなスキルは発見されていない。
あえていうなら兎人族というプレイヤーが選べる種族が追加されたことがあるくらいの話。
そんな状況なので、金髪赤リボンの少女は耳目を集める存在であった。
そこに現れたのが金髪赤リボン姿の小柄なエルフ。
自称情報通な掲示板戦士(※有志が運営する外部の情報提供・交流を目的とした掲示板サイトで熱心に情報を提供したり集めたりする人を指す)たち熱心に情報を広めた結果、そのエルフの少女は街中の注目を浴びることになる。
そしてその少女が、また別件で有名なプレイヤーである†バーニング娘†と接触、彼女の運営するクランハウスに連れ込まれたとなると、それは噂が捗るわけで。
しかしながら、実際に話を聞きに行こうという度胸のあるものはそうそう現れないもので。
名前からしてネタキャラであり、芝居がかった言動で、やってることもエンジョイ勢に見えるのに、最前線の攻略組と張りあえる実力者、という評価を受けている†バーニング娘†。そのクランハウスに突撃しろというのはなかなかハードルが高いのである。
友人でもないどころか同じゲームをプレイしているという程度しか関わりのないただの第三者にとっては。
「バーあーさーん! 居るのはわかっていまーす! 出てきてくださーい!」
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。
要するにさっきからチャイムを鳴らしている人物は、そんなハードルを超えられるほど無神経なのか、あるいはそれなりに関わりがあるのかのどちらかであるというわけで。
そもそも、大勢あつまって遠巻きに囲んでいる【Wonderland Tea Party】のクランハウスの入り口の前に出て行って呼び出しをかけるというのも大概であるといえるのだが、それを踏まえると、答えは両方、ということになるだろう。
ReFantasic Online内で最初に結成されたクランである【ファイブカード】。
その幹部の紅一点にして、クイーンオブハートの名をほしいままにする彼女こそ、リリアーナ。
ドラゴン来襲事件のレポートを公開し、金髪赤リボンの少女の知名度アップのきっかけの一つとなった人物である。
銀色に磨き抜かれた胸当て、白を基調とした動きやすさ優先であるにもかかわらず、高貴さと可憐さを意識させる衣装。ひるがえるマントが短めのスカートを不躾な視線から守り、腰には護拳のついた直剣を提げている。
その大げさにもおもえる肩書に見合うだけの実力者であり、緩急自在の刺突剣技と光魔法を中心とした器用な立ち回りを行う戦闘スタイル。
同時にその攻略の様子をレポートという形で情報公開しているために、後追いのプレイヤーに名前も売れていれば感謝もされている。
人当たりもよく、ともすれば八方美人といわれかねない顔の広さはその中に【Wonderland Tea Party】のメンバーをも含み、またその清楚なイメージと名前、あるいは外見から、
姫騎士、百合姫、百合子などともあだ名され、広い範囲で親しまれている。
そのような人物であるので、周囲に集まっているプレイヤーたちはリリアーナがチャイムを鳴らした時点でなんとなく彼女がこの場に集まったものたちの代表のような気分になっていた。
やりたいけどやれなかったことをやってくれた有名プレイヤー。
また、ここに集まっている者の多くは掲示板を見たものが大半で、それはリリアーナの情報の恩恵をもらっているものが多いということもあり。
間接的にリリアーナに関わっているといえなくもない彼らが、率先して行動を起こしたリリアーナに自己を投影して彼女が代表者であるような気分になるのも、そんな普段の関係の延長戦上のことなのであった。
しかし、最初にチャイムを鳴らし結構な時間が経っており、またいまもリリアーナがチャイムをぴんぽんぴーと鳴らしているのだが、【Wonderland Tea Party】の扉は沈黙を保っている。
徐々にじれてくる群衆だが、リリアーナは、
「おーい。君たちは完全にほーいされているー! 観念して出てこーい!」
ぴんぽーん。ぴぽぴんぽーん。
マイペースにチャイムを押しては声をかけている。
そんな姿にいくらかなごんではまた待たされて、とやっていると。
がちゃり。
ついに扉が開かれた。