困惑のわんだーらんど その8
ぴーんぽーん。
「ん、時間切れ。いいところだったのに」
「時間切れ?」
「うさみが気になって仕方がない連中が、わたくしたちが関わっていると知って、直接動きだしたのですわ」
ぷー。とふくれるあいす。
うさみは雲行きに不安を覚えてバニさんを見るが、バニさんはウインクで応える。
「そうですわね、うさみ、一緒に街の散策などはいかが? 案内しますわ。聞いた限り、ゆっくり見物もしていないでしょう。なかなか面白い場所もありますのよ」
「え、散策? うーん」
突然のお誘いに困惑するうさみ。
想起されるのは先ほどの、遠巻きヒソヒソ。同行者がいるのは心強いけれど、あれを浴びるのは気が進まない。
「気になるようなら変装とかしてみるといい? バニさんはそういうの専門」
「専門?」
「スタイリストというクラスがあるのですわ。これはゲーム内で髪型や装備の見た目をいじることができる神クラスなのです! 【クラスチェンジ】【スタイリスト】!」
バニさんが立ち上がり、右手を天に掲げながらクラスチェンジを叫ぶ。体を包む光がおさまると、特に変わりないバニさんが立っていた。あ、左手を腰に、右手は顔の前で横にしてチョキにとポーズは取っているけれど。
「おおう。あれ、服変わらないの?」
「デフォルト装備でなければ基本変わらない。あ、ウサギとセージのデフォルト装備見たい」
「あ、それはわたくしも見たいですわね。デザインの参考に」
「はう」
うさみは痛恨の藪をつついてしまった。
セージはともかく、ウサギはアレだ。
しかし、わくわくして目がきらきらしている目の前の二人を見ると、なんだか期待に応えてあげなければという気もしてくる。
なのでしょうがないなあ、とセージにチェンジ。もちろん特にポーズは取らない。
「大学の卒業式?」
「クラスチェンジのときはポーズを付けませんと、ポーズ」
バニさんもやっぱ変わってるよね。と思いつつ。
セージのデフォルト装備のデザインはいわゆるアカデミックドレスがベースであり、おまけになぜかメガネがついてくる。銀縁。
うさみはちっちゃいのでコスプレさせられている子供に見えた。あるいは飛び級した天才少女といったところか。ある意味後者はうさみの状況に合っているかもしれない。
「大変可愛らしいですが、うさみはもっと活動的な意匠の方が似合いそうですわねえ」
「確かに。でもこれはこれでミスマッチ萌え」
褒められて顔を赤くするうさみ。それを見てなぜか手をわきわきとうごかすバニさん。あいすはウィンドウを開いて何か手を動かしている。
「……おーけー。次はウサギ」
「やらなきゃダメ?」
「ぜひ見たいですわ。ただ、無理をする必要はありませんわよ」
うさみは少し悩んだが、まあゲームのアバターだし、見てるの女性だけだしいいかということで。
「【クラスチェンジ】【うさぎ】」
バニさんの真似をして右手を上にあげ、クラスチェンジと叫んでみる。
あ、これちょっと気持ちいいかもしれない。
と思っているうちに変化が終わり、現れたのは。
頭の上にはウサギ耳。下はというとハイヒールに網タイツ。真ん中にはすとーんと凹凸の少ないバニースーツ。おしりの上には白い毛玉。
バニーさんである。
「なんと」
「きゃあああああ!」
「へぶっ」
あいすは驚き。
バニさんは思わず歓声を上げながらうさみに抱き付き。
うさみは胸に包まれて息が、息が。
「なんですのなんですの。なんて可愛らしい!」
「これうさ耳本物?」
「むぐー」
きゃあきゃあ言いながらぎゅうぎゅう締め付けるバニさんと、マイペースで耳の見分などするあいす。
うさみは苦しいので脱出する。ぬるりと。
「ああん……」
「兎人族とそっくり」
「うさぎじんぞく?」
「七日目だか八日目だったかに追加された新種族。……ん、うさみー初めてクラスチェンジした日は?」
うさみがウサギになったのは、地下帝国パラウサ、ではなくアン先生に指摘されたときなので、
「一週間くらいだったかなあ?」
「ん、新種族追加のトリガーはそれらしい」
うさみがウサギになったから新種族、兎人族が追加になったという仮説。
追加するにしてもタイミングが早すぎると当時も疑問の声が上がっていたが、結局理由はわからずじまいだったと、あいすが捕捉する。
これでまた、ほかのそれらしいクラスにクラスチェンジして新種族が追加されるようなことがあれば仮説からほぼ確定になるだろうが、まあそんな機会はそうそうないだろう。
「うさみ、その恰好で一緒にお散歩に行きましょう」
「え、やだ」
「ああん」
バニさんはいたくバニーうさみさんが気に入ったようである。
しかし、うさみにはこの格好で出歩く勇気はなかった。ちょっとさすがに。
「水着とそう変わりませんわよ?」
「いや、普段水着で街を歩かないから」
「バニさんは自分でバニーになればいい。バニだけに」
だんだんと混沌度が上がっていく中。
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。
二連打であった。