第23話【よろしい、ならば戦闘だ・後編】
朝投稿です。
銃口が向けられる。引き金を抜かれたらお終いだ。どんなに鍛えていようが頭部を弾かれたら、流石の俺とは言えお陀仏だ。
静流さんが立ち塞がるなんて、予想外にも程があるが、それ以上に〝巫山戯るんじゃねェよ〟怒りが収まり切らない。
「キョウ様…な!?裏切り者めっ!」
アンリが扉を勢い良く開き、室内の様子に困惑する。皇子を守るようにして立ち塞がる静流と、頭に銃口を向けられた愛しの主の姿。明らかに静流は皇子を庇っているのだ。状況を直ぐに把握すると憤怒の表情で両手の手斧を握る手の爪が皮膚に食い込み流血。主のピンチに走り出そうとするも、足が止まる。
バンッと甲高い銃声が響く。しかし、狙いは俺の頭部から逸れて天井に弾丸が突き刺さった。皇子は目をひん剥き驚愕を隠せないようだ。皇子だけではなく、俺以外のその場に居た皆が驚きの表情を浮かべている。
「はは、予想外だ。君が仲間ごと攻撃するなんてね。」
骨に邪魔されないように横に寝かせた黄泉の刀身は、静流さんの肋骨の間を貫通して、メテオールを持つ皇子の腕に突き刺さる。
そう、俺は静流さんごと皇子に攻撃したのだ。
「利き腕を潰した。これで精度が落ちて、俺を殺せねェな。」
刀身を引き抜き血振り。そのまま肩に担いでニヤリと笑ってやる。
『腕潰してやったったぞ。俺の有利だからな!』
「ごふっ…そんな…恭士郎、様…。」
吐血して崩れ落ち、膝を着いて前のめりに倒れる静流さん。
「そん、な…静流、ちゃん。キョウ様…。」
先程まで自分が粛清しようと思っていた。しかし幾ら裏切り者だからって、物心つく前から育って来た幼馴染みの静流を瞬時に躊躇いもせずに、容赦無く切り捨てる主の姿にアンリは膝を着いてアヒル座りで座り込んでしまう。
絆が深い幼馴染みの静流でさえもこうなのだ。裏切りはしないと誓ってはいるが、自分もこうなる。倒れている静流に自然と自分を重ねてしまう。いや、主に死ぬまで着いて行くと決めたのだ、仕方ない事。死ぬのは怖くはない、ただ裏切り者として処分される事は死よりも恐ろしい。死ぬのならば、忠臣として死にたい。
「静流の顔で、静流の声で、俺の名前を呼ぶんじゃねェよ。殺すぞ。」
地に伏した静流さんに“化けた偽物”の頭に足を置く。偽物と分かっていても信じていた者に裏切られたような絶望の表情を向けられて、動揺しそうになった。
後は、そうだな巫山戯た奴は恐らくもう一人いる筈。制服の内側、懐から手裏剣を取り出して誰も座っていないように見える椅子へと向けて無造作に投げつける。
「くっ…!」
瞬間肩口に突き刺さった手裏剣に声を上げる人物。そいつは、今床に伏している静流さんの偽物と寸分違わぬ姿をしていた。
「ぇ、なっ!」
「まさか…成る程ね…この…!。」
倒れている静流さんを偽物と言った事と、椅子に現れたもう一人の静流さんを見て驚くアンリ。ミリアは納得した顔をしている。しかし納得顔からワナワナと肩を震わせ始めてしまった。
「仲間ごと攻撃したわけではない。まさか見破っていたとはね。いつ、何で気付いた?」
「理由は幾つかある。確信したのは爪だ。お前を庇った静流の偽物2は爪が剥がれてねェんだよな。」
「咄嗟の事で、動揺していた筈なのに良く気付いたね。」
仲間ごと攻撃したと思っていた皇子が、椅子にいたもう一人の偽物を見破られた事にそれは間違いだったと理解する。しかし、バレる要素は無かった筈。あの裏切られたと思ったシーンでも、冷静に状況を観察していた恭士郎に感嘆の息を漏らす。
「もう一つ。静流が天遺物の能力を使用した場合は話が別だが、序列2位のミリアと序列4位のそこの清華国人の目を潜り抜けて飛び出せる筈が無い。もっともその清華国人はこうなる事になるかも知れないと知ってたんだろうけどな。最後の最後に、静流の偽物が飛び込んで盾になるのはお前の作戦の内だろ?ヴィンセント皇子殿下よ。」
「うん、私が目を離したのはキョウくんがヴィンセントに接近して、どちらかが死にそうになった瞬間。」
相槌を打つミリア様、俺とヴィンセントのお互いが勝利宣言した瞬間にチラ見したんだろう。その隙を狙って入れ替わったんだ。
静流さん偽物その1はずっと椅子に座っていた。移動したんではなく、天遺物の能力で透明化していた。
俺とヴィンセントの間に立ち塞がった静流さん偽物その2は部屋の隅の棚にでもずっと透明化して待機していたんだろうな。何で俺が分かったかと言うと…。
「はは、はははは!はははははは!正解。お見事だ、負けを認めよう。もう解いて良いよ。マスク兄妹。」
前髪を掻き上げて笑い声を上げる皇子。一頻り笑った後に拍手をして倒れている静流さんの偽物1と椅子に座る偽物2に声を掛ける。
「いたた、死んだ振りも大変ですよ殿下。ほら脇腹血が止まらないんですねぇ。」
「失敗したの兄のせい。私のせいじゃない。」
「僕のせいじゃ無いんですよねぇ。妹の特殊メイクがダメだったのではないですかねぇ?」
「完璧だった。爪もリアル死刑囚のだし。傷も精巧。」
むっくりと立ち上がる倒れていた方は、派手なピンク髪した長身の男になった。男は陽気な声色で今もダラダラと垂れ落ち出血する脇腹を抑えている。
椅子に座っていた方もピンク髪のサイドテールの女だ。女の方は男とは正反対に無表情と無感情を感じさせる平坦な声色だ。
一瞬で変身を解き姿形が変わった二人。どちらも仮面を被っていて制服の上から黒いマントを羽織っている。
仮面は真っ白で目と口の部分は三日月型をしており、右頬に太陽左頬に月のマークが描かれているそれは普通の仮面ではない。天遺物で名前は“ノーフェイス”変身能力を持つ。ただし一度触った事のある相手にし変身出来ず、更に一人分しかストック出来ない。
マントの方は闇より深い漆黒色で他に特徴はない。こちらも天遺物で“ミミックマント”光学迷彩の役割を持つ。お手軽だが、同化する無機物になり切る必要があり、攻撃意思を見せたら直ぐに透明化は解除されてしまう。椅子も棚も攻撃何てしないからな。
答えは簡単。こいつらをイベントで見た事があるからだ。二人で一人みたいな所があり、いつも一緒に行動するらしいからな、この兄妹は。ただ逆ハーエンドにしか登場しないから、ゲームでも姿を見たのは一回だけ。他ルートでも色々暗躍はしてるんだがな。
「やっぱり…生贄の山羊のマスク兄妹だったんだね。」
「そういえば初見だったね。いや〜、ミリアが昔みたいにヴィンセント呼びしてくれて嬉しかったよ。感情も出してくれたしね。」
確信したと頷くミリア様に、ヴィンセントは手を叩いて笑う。ドッキリが成功して喜ぶ子供のようだ。やった事は洒落で済まないけどな。ミリア様は口には出していないが、もうっ!と頬を膨らませている。
生贄の山羊とは皇族に代々仕える暗部組織で皇族以外の誰の命令であっても指揮権がない。大公家のご令嬢のミリア様でさえ、存在は知っていたが姿を見たのは初めての様子。活動は多岐に渡り、暗殺や重宝は元より影からの護衛も入っている。皇子に命令され、俺を尾行していたのもこいつらだと思う。
「え?え…?」
「後で説明してやる。」
途中から来た為、状況を理解していないアンリ。俺の傍に寄って来て周りをキョロキョロして伺うように上目で見て来るアンリの頭に手を置いて、頷いてみせる。
「はぅ〜……ボソボソ…じゃなくて、本物の静流ちゃんは!?」
「あ…。」
俺に頭を撫でられると、「頑張った甲斐あったよ〜。」なんて幸せそうにブツブツ言ってモジモジしてたが、急に両手をブンブンと縦に振って声を上げるアンリに、そういえば静流さんも来ても可笑しくないなと考える。
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時は少し遡る。
静流は駆け出すアンリを止めようとするも後ろから肩を叩かれる。
「今忙しいので…って何でしょうか?」
肩を叩いた人物を見て振り解こうとするも、考えを改める。
「上の命なんだ。すまんな龍蔵寺、恨むなら宗像を恨めよ。」
「え…。」
両手に抱える大きな物を持つ人物が、それを上へと持ち上げると静流の顔に影が差した。
「って、何でしょうかこれは。モルディン先生?」
「何ってプリントだよ。今日宗像の奴日直だろ。ホームルームでこれ配らんと行けないのよ。今日海の日で、来週の空の日から実地訓練だからな。お知らせ的な内容だ。」
教師でクラス担任のモルディンにプリントの束を渡されて首を傾げる静流。モルディンは自由になった両腕を回して首をポキポキと鳴らす。
「旦那の不始末は嫁の仕事だ。ってションベンションベン、漏れる漏れる!」
「嫁って…私が恭士郎様の…!そんな、畏れおおい!!いえいえ、先ずは夜伽を…二回目からはもう愛妾になりますよね。愛妾を目標に致しましょう。その為には夜アンリを薬で眠らせて…誰も邪魔の無い深夜に。お見守りしてましたが、恭士郎様は昨夜から精を発散していないみたいですし…現場に突入してそのまま流れで!?」
頼んだぞと言うだけ言って走っていくモルディンはトイレを我慢していたようだ。静流は頬に片手を添えていやいやと首を左右に振り、もう片手の人差し指で壁をツンツンとつつきながら悶える。完璧自分の世界に入ったようで、その場には誰も居ない。一人芝居をする残念な美女の姿がそこにはあった。
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「んで、殿下よ。俺を試しやがったな。」
「幾ら妹ラブな私でも、恩人かも知れない者に対して恩を仇で返す真似はしないさ。」
「バカ殿下、いえ妹バカの片棒担ぐ何て嫌でしたよ、私は。」
「今ご主人の私の事バカ呼ばわりしたよね?」
「いえ、妹バカのシスコンアホ野郎です。」
「なら良いんだけどさ。」
肩を竦めるヴィンセント。妹の事は大事に思ってると同時に、助けてくれたかもしれない俺の身内を傷付ける真似はしなかったようだ。充分精神的に攻撃を受けたがな!やっぱ嫌な奴。皇子嫌だもう。嫌皇子だ嫌皇子。
シュエリーさんにディスられてるよ殿下!キモいシスコン扱い良いのかよ!?
「ま、話を戻そう。確かに私は君に罠を仕掛けたよ。でもさ、これどう言う事か分かるかい?」
そう言って皇子は刀に貫かれて穴の空いたであろう右腕を此方へと見せ付ける。最も何時の間にか包帯が巻かれているが。シュエリーが治療したんだろう。
「皇族に怪我を負わせたんだ。有無を言わさずに死刑だよ、本当ならね。ただ私にも今回落ち度があったから…。」
怪我させた事は不問にしてやる。だから今回の仕打ちも無しにして、お互い水に流そう。とか何とか言おうとしたのだろう、だがそうは問屋がおろさない。
「エリザに最初からありのまま真実を伝える。シズさんの影武者使って、キョウくん脅したって。命の恩人を追い詰める真似をお兄様がしたって。」
「落ち度があったから謝ろう!済まなかった。疑ったのは謝るから、愛妹には内緒にしてほしい!」
ジト目でつらつら言うミリア様の言葉を受けてヴィンセントはまだ腕に抱きかかえるエリザを見た後に慌てて頭を下げる。
弱っ!皇子弱っ!?
「変態皇子…じゃなくて大変な皇子にエリザ様は任せられません。」
「妹を薬で眠らせるんだから、変態だよ変態。」
「ああ〜。エリザの匂いが!」
すかさずシュエリーが皇子の腕からエリザを救出する。エリザをサンドイッチにする形で反対側からはミリア様が抱くように支える。皇子は椅子から少し立ち上がって、片腕を伸ばして嘆く。
いかん、こ奴は同志だ。口に出してるだけ、オープンで男らしい。俺に至っては口に出しても、変換先生のお仕事で都合良く改変されるからな。
「えっと、あの偽物二人は?」
尋ねて来るアンリ。そういや、いつの間にか消えてるな。影だし、もうミッションは済んだから速やかに撤退したんだろう。もう会わない事を願おう。奴らに会う=厄介ごとに巻き込まれている、だからな。
「んん〜…あれ、私?」
「エリザ様実は…」
「エリザ、ヴィンセントがね…。」
「わーわーわー。何でもない何でもない!」
茶番が始まったのもあるし、俺とアンリはそのまま帰らせて貰った。
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恭士郎とアンリ、それからエリザとミリアが聖騎会室から出て行き。ゴルグとロイにも解散命令を出した後に、ヴィンセントとシュエリーの二人はまだ室内に残っていた。
「殿下、宗像恭士郎が白だと分かっていたのでは?」
「まぁね。幾ら手段を選ばなそうな彼とは言え、グレイグリズリの変異種を一人で相手にする筈ないから。普通だったら死んでるよ、彼動き悪かったし。エリザが外出する時間も知らないだろう、皇室の誰かと内通してない限りはね。」
「なら…」
「皇族であろうと、遠慮なく牙を向ける危険人物だって事は再確認出来たよ。それに、ミリアはやっぱりランドガルフの味方ではなく場合によっては敵対する事も分かった。中立派なのは変わらないみたいだね。後、私を殺すつもりなら、エリザを狙えば済む話だったし。最もエリザを狙ってたら本当に殺してたけどね。今回の件は白の可能性が高い。だから宗像くんには何か褒美をあげないとね、皇族の命を救ったんだ。」
「やはり今回の一件。スパイが紛れ込んでいるのは間違いないでしょうか。」
「うん。帝国も一枚岩じゃないからね〜。国内の者か、はたまた他国の手の者か。エリザを狙ったんだ、何としても見付け出して晒し首にしてやるよ。それに…近い内帝国内が割れる…否、帝国を混乱に突き落とすから。シュエリー、私はねエリザの為の国作りをするつもりさ、父上には早く実権を手放して貰わないと。」
机に置かれたグラス。氷が溶けて下の氷にぶつかりカランと音を立てる。注がれた赤ワインを見つめて、ヴィンセントの目は赤く染まっていた。
待ってた方はお待たせ致しました!
オチはこんな感じで。後書きから見ちゃう人もいるかもしれなので詳細は本文で。騙された方はいらっしゃるでしょうか?(笑)なんだよ、こんなオチかよ変更はよ!と思われた方はすみません。変える予定はないので。
矛盾とかあったら教えて頂けると嬉しいです。筆者は稚拙な頭なので、矛盾や見落としとかありそうで。
キリが良いので、次回は幕話を入れようかな。誰のどんな話にしようか未定です。人物のリクエストあれば例えゴリさんやABC子達でも頑張りましょu(ry)
次回更新をお待ち下さい。
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