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第22話【よろしい、ならば戦闘だ・中編】

夜投稿!

うわぁぁあ…爪剥ぐとか。爪剥ぐとか…痛い痛い痛い。何て事しやがるヴィンセントの野郎。

 それでも静流さんは、俺に心配掛けないようにだろうか。猿轡を噛み締めて声を出すのを堪えている。


 間違いなく、条件を満たしてるな。こいつもキョウシロウ同様、仲間や大事な人を傷付けられたら、何倍にも何十倍にもして返す。特に生まれた時から一緒に育ち、守って来た可愛い妹に関係すると殊更容赦はなくなるのだ。


 逸話は数え切れない程存在する。

 まだ子供だった頃に料理をしてみたいと言ったエリザ様、料理人も切れにくい玩具の包丁、刃先が数ミリしかない奴な?それでエリザ様は少しだけ指を切ってしまったらしい。擦り傷で済むとは言え、罰金と首になるのは当然、捕縛し処罰を実行するのは普通は騎士の仕事だ。しかしまだ子供だったにも関わらずに、ヴィンセントは料理人の指を躊躇いなく剣で跳ね飛ばした。「下手したら妹がこうなっていた。殺さないだけ寛大な処置だと思ってよ。」だそうだ。

 また、違う出来事。貴族の次男坊が挨拶の為に近寄ってったが、転びそうになってエリザ様の足を不注意で踏んでしまった。後日ヴィンセントはそいつの片足の足首から下を巨大な石で砕くように叩き潰した。「お前がもしももっと巨漢だったら、妹は二度と歩けなくなっていたかもしれないからな。当然の罰だ。」と言って退けたらしい。

 若干八歳の子供の行為とは思えない。

 

 子供の頃は善悪の判断がつかないとは言え、やり過ぎにも程があると事態を重く見た王は、ヴィンセントとエリザ様を離して生活するようにさせたのだ。

 そのお陰かヴィンセントのやり過ぎな報復が鳴りを潜めたように見えたのだが、一時的な物にしか過ぎなかった。


 妹の婚約者候補は数程いるのだが、認める条件は最低でも自分を決闘で倒す事。彼女を娶るには命を掛けねばならないのだ。

 子供の頃より、大事な妹を守る為に皇子ながら騎士の道を目指し弛まぬ努力と才能を以ってして、現在では学園最強の特A級序列1位に君臨し【聖騎士皇】の異名を持つに至る。歪んだ愛により方向性が曲がってしまったも、普段は皇族然とした立派な皇子に違い無いのだ。

 妹を思い行動する時のヴィンセントを指して、容赦の無い行動力と無法さえ罷り通る皇族の権限からプレイヤー達に通称、鬼兄状態エンペラーモードと呼ばれている。妹に手を出したならば、例え側近のシュエリーだろうと従姉妹のミリアだろうと躊躇いなく始末する程に溺愛している。

 因みに閉口令が敷かれている為に、当のエリザ本人は皇子の異常性を知らないのだ。正に知らぬが仏とはこの事。


 妹であるエリザ様が殺されそうになり、属国にされた陽国人が今回の事件の唯一の生き残りだから真っ先に疑われて然るべきだった。



「直接言わないと分からないか。妹を…エリザを狙った目的は、我がランドガルフの皇族に取り入る為だろう?信頼を得る為に。死闘に及んで怪我してまで助けたなら疑われないと思ったんだろうけど残念。もう調べは付いてるんだ。白状すれば“彼女には”これ以上危害を加えない。」


「だから知らねェよ。」


 まるで愛しい我が娘を愛でる父親のように薬で気絶するエリザの頭を、髪を梳くように撫でるヴィンセント。慈愛に溢れている。

 背中に汗をかく。まるで魔女裁判だ。イエスかはいしか許されていない。身に覚えがないっつーの。これはヤバい、爪ならまだ生えて来るがどこか切断されたら…こいつは平気でやる。


「強情だなぁ。本当なら本人を尋問するんだけどね。陽国の戦士は特殊な訓練を受けてるから、拷問には決して屈しない。殊君に至っては、英才教育を受けてるらしいじゃないか。神楽坂霧江から報告を受けている。仲間がやられた方が弱いと思ったんだけどな。」


「調べは付いてると言ったが、具体的に言ってみろよ。」


「教えて上げるよ。まず一つ。」


 弱味を見せたら相手の思う壺だ。冷や汗をかいてしどろもどろになりそうになるが、恭士郎の意思が頑なにポーカーフェイスを貫けと言っている。

 対するヴィンセントは口調は柔らかいが、表情は氷のように冷たい。まるで早く吐いて楽になれと言いたげである。


「シュルツ…弟が薬学と医学に傾倒してるのは知ってるよね。研究室は1年生の教室の階にあるんだけど、調べた結果毎日少しずつバレにくいように薬草が盗まれてたんだ。」


「俺が盗ったとでも?」


「白々しいね。君にマークが付いてる事は、君自身が良く知ってるだろう。気付いてないとは言わせないよ、宗像くん程の手練れに全くバレずに監視するなんて難しいからね。最も、昨日の学外を出た後から今日登校するまでに掛けては監視が付いてなかったけど。」


 昨日は放課後まで監視が付いていたらしい。何やら視線感じる気がしたのは、自意識過剰だと思ったが間違っていなかった。ご褒美の清掃活動の時のアンリのおパンツ様御拝見の時とか視線感じて思わず振り返っちゃったもんな。つか恭士郎見張られてるのかよ!確かに革命起こしても仕方ないキャラ設定だけどさ。

 学外に出た後って事は、スライム相手に俺tueee!していた黒歴史は見られなかったようだ、一安心。


「よって、薬草盗難は君自身は除外。いつも一緒に行動している側近の龍蔵寺さんも同じくだ。」


「なら関係ねェだろ。」


「そうとも言い切れない。1年生の宮元さん、それに…君の子飼いの者達がいるだろう。属国にされた陽国人やアルザビア国筆頭の砂漠の民、後は同盟国ながら覇権を狙っても可笑しくない清華人諸々…数えたらきりが無いよね。」


 ヴィンセントの言う通り、恭士郎は利害関係の一致した、又は弱味を握っている、いずれ来るべき計画のための協力者や手駒が存在するのだ。皆ランドガルフを恨んでも可笑しくない人種で構成されている。口を割られたら全てパーになる為に、同じチームのアンリや側近の静流さんにも話していない。


「ふーん、あくまでも予想だろ。どこの誰が俺の子飼いだってんだ?」


 俺の一挙一動を見逃さぬよう視線を外さず観察して来るヴィンセント。俺は無表情を維持して、敢えて挑発するように返す。

 それにしても、静流さんピクリとも動かずに反応しなくなったんだが。大丈夫か、早く助け出さないと。


「…気になるかい?シュエリー、見せてあげな。」


「畏まりました。」


「…あん?何やって…」


 俺の問いに答える事なく、横目で側近のシュエリーに命令を下すヴィンセント。彼女はさらりと答えてから静流さんの服を脱がせ始める。

 『ちょっ!ちょちょちょ!何静流さんをストリップさせようと…』二の句を告げる事が出来なかった。


 上半身が露わにされた静流さんの身体。白い肌に引き締まった括れと相対的に豊満で形の良い胸は肉欲を抱かせるには充分な裸体。

 普段だったら前屈みになる事間違い無しだったが、そんな気は到底起きない。

 静流さんの身体は所々、熱した鉄の棒を押し付けたような等間隔に並ぶ円の痕がある。それだけではない、鞭でも打たれたのだろうか、所々ミミズ腫れになっている。刃物で刻まれた小さな×の文字の数々は、質問の度に答えなかった質疑と拒絶の数を現した物か何かだと予想出来る。血は既に流されておらず、治療はされているようだが、嫁入り前の女の子にする仕打ちじゃない。


「私もここまでやるつもりはなかったんだがね。短い時間だけど可愛がってあげたんだ。で、どうかな、感想は。彼女も強情で、全く吐かなかったんだよ。見上げた忠誠心だ、誇ると良いよ宗像くん。」


「ヴィンセント…勝手にこんな拷問なんかして良いと思っているの!?横暴にも程がある。」


「大公家風情が、皇族に口答えするなよミリア。私が黒と言ったら黒になるんだ。意見を覆せるのは皇帝である父上位だね。」


 最初は額を押さえて困った風な演技をするが直ぐに得意げに両手を広げて語るヴィンセント。忠告通り動きはしないが食って掛かるように文句を言うミリア。

 恭士郎だったら、こんな状況だろうが部下が殺されでもしない限りは冷静に物事の対処に当たるだろう。


 だがーーーー俺には無理だ。こんな目に合う美人を目の前にして、それもキョウシロウを慕ってくれる静流さんをだ。頭の中で、理性の糸がプツンと切れた音がして野生が解き放たれる。思考は目の前の敵を切る事しか頭に無い。

 愛刀黄泉を引き抜きながら床を蹴り砕き、ヴィンセントに向かって疾走する。


「キョウく…っ!ふー、殺しちゃダメだからね。」


 後ろから声が聞こえるが耳に入らない。一旦怒りを収めて深呼吸したミリアはサーベル型天遺物“ミルフルール”の柄を掴んで抜刀する。ガラス細工のような透明度を誇るそれは透き通るような刀身を露わにする。


「っ!」


「おぉ、凄い迫力だ。シュエリー、今の宗像は君では荷が重い。ミリアだけに集中して足止めしろ、彼女は殺す気で来ないからね。私もメテオールを使うかな。」


 命を受け不服そうだが承諾して頷くシュエリーは制服の中から、鏢ーー棒手裏剣の中国版ーーを取り出して片手にそれぞれ四本ずつ持ち構える。

 ヴィンセントは突っ込んで来る恭士郎を見るが妹を抱いたまま、もう片手でマスケット銃型天遺物“メテオール”を巧みに操り回転させる。



「動かないで下さいね、ミリア様。」


「ん、分が悪い。」


 恭士郎のフォローを務めようとしていたミリアは、攻め倦んでいた。

 天遺物、ミルフルールの能力の一つは、空間を引き裂いて繋ぎ目視した場所に出現させる力、突然現れる刃を防ぐのは困難だ。一対一で距離があれば相手を一方的にほぼ完封出来る強力な能力ではあるが、当然攻略法も存在する。

 一つは接近して純粋な剣術で勝負に当たる事。もう一つは、連続攻撃で能力を使う暇を与えない事だ。


 シュエリーは後者の対応をしていた。両腕を振るって計八本ある鏢をミリアへと向けて飛ばす。時折腕を振るうが鏢を飛ばさないなどのフェイントも織り混ぜるのだ。そして制服の中に仕込まれた鏢は当然八本には収まらない。


「うーん、歯痒い。」


「貴女相手に足止めするには、これ位必要ですから、ご容赦を。」


 狭い室内、サーベルを振るい四方八方から飛来する鏢を弾く。シュエリーは盾にするように眼下に座って身動き出来ない静流さんから離れないのだ。もし無視して動き出せば、静流を容赦無く傷付けるだけの事はする筈だ。

 その場から動けずに飛んで来る鏢を弾くしか出来ないミリアと唯ひたすら鏢を投擲して時間稼ぎを務めるシュエリー、制服内の鏢のストックが尽きるか、何か事態を変える事が無ければ拮抗は崩れないだろう。



「速い速い。生身で身に付けたその身体能力と体の使い方、驚嘆に値するよ。」


 真っ直ぐ斬り込んだらいい的になるのは目に見えている。ギザギザと走って徐々にヴィンセントへと向かう。体が倒れる前に足を踏み出し床を蹴る、強靭な脚力と僅かなタイミングを見逃さずに駆使した移動方法、縮地。

 鳴り響く炸裂音。進行方向に正確に飛んで来る弾丸。走りながらも時には横っ飛びや片手側転をして、速度を出来るだけ落とさずに近付いて行く。


 メテオール。ヴィンセントが持つ厄介な天遺物。使うのは魔石ではあるが、一々弾を装填する必要が一切ないので連射が可能。魔石を身に付けていれば、マスケット銃の長さの範囲内にあっても、脳内で思い浮かべるだけで自動で魔石弾が装填されるのだ。制服の裏に大量の魔石を持っているに違いない。

 今使っているのは何の属性も不可されてない事から透明のノーマル弾だろう。


「近付く前に俺を殺せるか、近付かれて俺に首を刈り取られるかだ。」


「怖い怖い。」


 戦闘に入ったにも関わらずに椅子から立ち上がる仕草も見せないヴィンセントは余裕の表情を崩さないな、正直舐め過ぎだ。俺も態と笑って見せる。

 走った勢いを落とさずに、壁を走って跳躍しヴィンセントの頭上に近い天井に逆さまになる。


「それも予想済みだよ。」


「っ…。」


 適当な所へ銃を乱射したと思ったが、ヤバい。空中で身を捻り縦横無尽に相棒を振るい捲る。

 跳弾はヴィンセントの得意技の一つだ。キンキンキンと連続した金属音が室内に反響する。


「っ…く。」


 頭部や心臓など致命傷になる場所に打ち込まれる弾は切り裂いたが、肩や脇腹や脚を貫通して血が吹き出る。まだホワイトグリズリ戦の傷も完璧に癒えてねェってのに勘弁だ。


「だが、俺の勝ちだ。」


「いーや、私の勝利さ。」


 間合いに入った俺はニヤリと笑って勝利宣言をしながら首を刎ねるべく黄泉を振るう。

 目を瞑ったヴィンセントは焦る様子も見せずにメテオールの銃口を此方へと向けるが、どう考えてもこの距離じゃ間に合わないだろう。


「ダメです!」


「な、ん…!」


 反射的に無理矢理刀を振るう腕を止める。さっきまで気を失っていたようにピクリとも動かなかった椅子に座っていた静流さんが、目隠しもなく必死な表情で両手を広げて俺とヴィンセントの間に立ち塞がったからだ。俺は驚愕に目を見開く。


「ほらね。皇族に歯向う反逆の罪で死刑だ。」


 後ろのヴィンセントが、静流さんの肩に乗せるようにして銃を突き出して、銃口が俺の頭部に向けられる。


「キョウくん!」


「もう遅いですよ。」


 丁度鏢のストックが切れて時間稼ぎを終えたシュエリー。ミリアは今にも撃たれそうな恭士郎を見て、声を上げ能力を発現させようとするが、シュエリーが新たに取り出したチャクラムが飛びサーベルを弾き上げミリアの邪魔をする。

長くなってしまったので分割します。

聖騎会室内の戦い中編で、次回を後編で終わります。

20話が前編、21話がアンリ頑張る回、今回の22話が中編で、次回23話が後編の締めになります。


話数だけじゃ読み難いかな…サブタイトルは思い付き次第付けて行きます。


そしてアンリ頑張る回は台詞と流れは変わりませんが、近い内に表現の追加などの改稿をする予定です。内容は変わりませんので既に読んで下さった方は見なくても大丈夫ですので!


次回更新をお待ち下さい。

初心者の作品ですが、ブックマークや評価して頂き、ありがとうございます。ブクマがとうとう100行きそうで感激してます(^_^)

皆様にはご感謝を!応援して頂けると喜びます。アドバイスや指摘なども頂けたら幸いです。

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