第21話
お昼前投稿!
アンリは廊下を早歩きで移動していた。最初は駆け出したものの、追い付いては不味い、親愛なる主に見付かれば怒られるのは確実だ。命令無視したのだから。
理想は後ろ姿を見付けてこっそり後を追い、中の様子を伺って何かあればお助けする事である。
「静流ちゃんを出し抜いてやるんだから〜。」
主に言う事を真っ当するのも従者の務めである。しかし、真に優秀な従者ならばぷらすアルファで主の為になる事をやれる人物なのだ。
「静流ちゃんは真面目だから。真面目だけの従者は二人もいらない。アタシがその点を補うんだ。それでキョウ様の特別になって、ご寵愛をいただいて…きゃっもう!ん?」
周りを確認しながらも、聖騎会室へと向かって進むも、前方から歩いて来る三人の男子生徒の言葉に足を止める。
「なあなあ、さっきすれ違った黒髪の女って2年の卑国人の子だよな。」
「ああ、聖騎会室に入ってった子だろ?シュエリーさんに肩貸して貰って連れられてた。」
「静流だよ、知らないのかお前ら?」
「あー、龍蔵寺静流か!A級8位の。いつも宗像の野郎と赤髪のかわい子ちゃんといるもんな。んで何で卑国人が聖騎会室に?」
「卑国人だから、何かやらかしたとか。」
「静流はそんな事しないぞ。胸大きいし美人でタイプなんだよな、あの胸を好き勝手してると思うと宗像の野郎には腹が立って仕方ない。卑国人だし奴隷にしたい。あ〜やりてえよやりてえな〜。あ、聖騎会の勧誘に違いないね、実力主義だからな。」
この時間に聖騎会室がある3階にいるから自分と同じ1年生だろう。素行が良さそうじゃないが煌びやかな装飾品を付けてる所から貴族の坊ちゃん共だと丸分かりだ。
主やもう一人の従者に比べて自分は知名度が低いのは仕方ない。1年生でB級下位とは言え、二人の側にいると、よりネームバリューで劣るのだ。
「こんの…!」
そんな事よりも、何の価値もないクズ共が慕情を抱いている親愛なる我が主を侮辱した事に腸が煮え繰り返りそうになる。
従者仲間の静流が性的な目で見られて、色々妄想されてるのはスルーだ。喧嘩中でもあるし。
腰に括り付けた二本の手斧に手を添えて3人に詰め寄る。
「身の程も知らない雑魚トリオ。誰のご主人様を侮辱したのかなぁ?」
偶々命を救われただけで、皇女が主に媚び始めるし静流ちゃんが焦燥感でピリピリしてたお陰でこっちも苛々してる。ストレス発散もとい八つ当たりも兼ねて、取り出した手斧一本を片手でくるくると回しながら三人組を睨みつける。
「ひっ!」
「お、お前は宗像の子分の!?」
「お、俺達は貴族だぞ!」
案の定ビビった反応を見せる。アタシ程度でビビるんじゃ、キョウ様を目にしただけでこいつら案山子になるな。
「貴族?だから何、関係ないよ。安心して、今は殺さないで顔覚えるだけにするから。決闘は…ランクの低いお前らじゃアタシに申し込まないか、アタシから申し込んでも逃げるだろうしね。来週の実地訓練が一番近いかな〜。それまで遺書でも書いとくといいよ。」
ひぃ!と腰が引け気味に去って行く雑魚トリオ。キョウ様を侮辱されてカッとなったが、気になる話をしていた。
静流ちゃんが聖騎会室に入って行ったとか。何が、主の命を破る気ですか!?だよ。先に抜け駆けして考える事は一緒か。汚いな流石、静流きたない。
急ぐ必要が出て来た。急いで聖騎会室に直行する。
「通行止めだよ、アンリ。」
「許可無き者は立ち入れんよ。」
部屋番の二人の男子生徒ロイとゴルグ。ロイは指でバッテンを作りゴルグが腕を組み威圧する。
「アタシは宗像騎士団の宮元アンリだよ。キョウ様と静流ちゃんが入ってったんだから、アタシも入れてよ!」
「シズルちゃんも?あ〜、知らないよねゴルグ。」
「コメントは控えさせて貰おう。」
ずいっと距離を詰めるアンリの前にゴルグが立ち塞がる。
「ヴィンセント、貴方!!」
突如部屋の中から女性の怒ったような声が聞こえて来ると同時にガタリと大きな物音も聞こえて来る。
「はは、リア姐おこだね。これは俺らも嫌われたな〜ゴルグ。」
「う…か、会長命令だ!仕方あるまい!」
呑気にケラケラ笑うロイと葛藤し頭を抱えるゴルグを見るアンリは、腰の二本の手斧を両手でクロスするように引き抜く。
「中で何か問題が起きてる事は確かでしょ。無理にでも押し通るから!」
「はは、出来ると思ってるの?流石にB下位に二対一じゃイジメだから、ゴルグ遊んでやんな…って、女子供は相手したくないって顔してんな。」
「取り押さえるのは本意ではない。通ろうとするなら別だがな。」
「んー、良し!俺に一撃でも当てられたら通してあげるよん。」
「ロイ、勝手を!」
ゴルグは後ろに一歩下がり扉の前で仁王立ちする、ロイは背中越しにへらりと笑うと通る為の条件を付けるが、ゴルグが物申そうとした瞬間に、斧を後ろ手に隠しながら突っ込むアンリ。
「宗像騎士団の三番手、実力を試してあげる。遊べるといいけどな。」
「吠え面かかせてあげるよ!」
同じく腰の二本のトンファーを引き抜くロイ。互いの武器がぶつかり合う。
「ふーん、序列6位の俺に向かって言うねー。」
「貴方より、静流ちゃんの方が強いよ。」
強くなる。自分よりも強い静流ちゃんと毎日稽古してるんだから。いつか愛する主の力になる為に。
鍔迫り合いをする。体格はロイの方が優先だが、武器の重量のお陰でお互いの力は現時点ではほぼ互角。
「ロイ、手助けはいるか?」
「冗談。小手調べだよ、B級だしこれ位やるのは当然。」
ギリギリと押し合いながら足運びで互いに円を描くように動く。
「アンリ、テンポ上げてくよ。着いて来れるかな。」
そのままぶつけていたトンファーを、半回転させながら打つ。頭部に、首元に、腹部に。時には態とアンリの持つ手斧に向けて打つスピードを徐々に上げて行くが攻撃を受けぬよう防いで見せる。
「くっ…まだまだぁ!」
手斧とは言え重量のある其れを振るうのはキツい物がある。手頃な重さのトンファー相手に、最初は打ち合っていたのだが防戦一方になってしまう。
「それそれそれそれ!」
「捌ききれな…」
「どうした!そんなもの?」
集中連打を受けて後退りするアンリ。ロイはニヤリと楽しそうに笑う。
「舐め…んな!」
「わ、う…ぉ…!」
能力の一つを発動させるアンリ。二対一斧の天遺物“金角銀角”だ。右の斧が金色になり重力増加、左の斧が銀色になって重力軽減する。
金色の斧がトンファーに振り下ろされる。ロイは急増加された斧による攻撃を受け更にぶつかったトンファーも相乗効果で自重が増え、武器を持つ手を離せずに体勢を崩す。
続けて銀色の重力の軽減された斧が先程よりも倍以上の速さで顔面に襲い掛かる。
「あ、ぶなっ!」
体勢を崩すまま逆らわずに自ら腰を屈めて地面へと転がる。寸前に前髪の一部が切り離されて宙に舞うも無傷で距離を取り、勢いを利用して立ち上がる。
「っ、やっぱ、天遺物使われると苦戦しそうだ。っとと!こっちも“エクシードアクセル”を使わせて貰う、から。能力は一つしか使わないから大丈夫。」
追随して攻めて来る二斧を下がり、時には屈み、バック宙や横っ飛びして躱す。攻守逆転、今度はアンリが優先になるもロイの顔に焦りはない。避けながらもエクシードアクセルと呼ぶトンファーを回転させる。
「余裕でいられるのも、今の内!」
アンリによる金色の斧が振るわれる。重力を増加させる方だ。
「五回転加重で充分か。こっちは、二回転加重そーれ!」
五回転させた方のトンファーを金斧にぶつける。増加させられた斧の一撃を先程までは受けられなかったが、今度はアンリの手斧を持つ手が跳ね上がる。
続けて放たれる二回転させられた方のトンファーが腹部に向けて襲い掛かる。
「っ…“チェンジ!”」
苦しげに声を上げるアンリ。トンファーに跳ね上がられた方の右手に持つ斧が瞬時に銀色に変わり、腹部に放たれた攻撃を防ぐ左手の斧が金色に変わる。
それによって、軽減された方の力により自ら後方へ飛ぶよう後退出来、二回転の攻撃を受けた増加された方の斧の重さで攻撃を防ぐ事が可能になる。
「へぇ…増加と軽減を左右自在に変えられる訳か。チェンジとは良く言った物。面白い物見せて貰ったから、お礼にエクシードアクセルの能力も特別教えちゃうね。これは回転させた勢いを保存出来る力なんだ、つまり回転させればさせるだけ力が増す。勢いの乗った攻撃を保存して、次に振るった時に回転力保存した攻撃を放つ事が出来る。」
自ら飛ばされ距離を取ったアンリを見て感心した風に声を漏らす。
続いて得意げに話し始めるロイ。エクシードアクセルの能力の一つ。例えばトンファーを二回転させる。使用者の筋力に依存せずに、能力を発現させると遠心力による二倍の攻撃力をストックしておく事が出来、解放すると増加した攻撃を放つ事が可能と言う物。ただし回転力を保存しておく事が出来るのはそれぞれ一個ずつでストックは一つずつである。
「でもさ、十回転加重これで、どちらかの方の腕は確実に使い物にならなくなると思うよ?うん、決めた。アンリ結構使えるね、容姿も問題無いし。倒したら俺の愛人にするとしようかな!」
十回転、つまりは十倍の攻撃を一発ずつ放つ事が出来る。先程のように自ら後方に飛ぼうとも十倍の衝撃はかなりの物である。軽減の方で受けた方は兎も角、増加の方で受けた方の手は衝撃を諸に受ける事になり使用不可になるのは間違いないだろう。
「あ、愛人!?誰がお前なんかの愛人に!」
「自信ないの?ご主人に対する愛は、俺に一撃与えられない位小さい物なんだ〜。」
「上等だー!」
とんでも発言に声を荒げるが、挑発を受け斧を持つ手をくるくると回転させながら空いた距離を詰めるべく疾走する。走りながらも二対の斧の色が金銀に交互に点滅する。どちらが増加でどちらが軽減かを悟らせないつもりらしい。
「や、無駄だよ。どっちかに当てれば終わりなんだし。」
愛の重さを軽んじられ怒りで短絡的な戦術しか取れないようになってるんだと判断する。ロイは不敵に笑い勝利を確信する。トンファーを手斧にぶつけるべく振るう。
「はい、チェックメイト。」
「お前がね。その加重力は無効化される。」
十倍の衝撃のトンファーを受けたら、ひとたまりもないのは確かだ。アンリが持つ金角銀角の能力のチェンジは必ずしも一方が金でもう一方が銀でなければいけない訳ではない。現にアンリが持つ手斧の色は両方共今は銀色になっている。
銀色は軽減、ぶつかった衝撃は殺される。密着した瞬間に能力を発動、十倍の威力を計算してその分殺せるように軽減を行ったのだ。
「ぐ、ふ!」
鍔迫り合いの状態になるも不意を突かれたロイは動きが止まり、お互い両手が塞がってる為にアンリは顎先に向けハイキックを放つ。顎を揺らされてフラつくロイ。
「貴方が欲しいのは、金の斧と銀の斧どっちかな?」
「くっ…チェンジ、は交換ではなく変化だったのか。これでB級下位とか嘘だろ…陽国語で、三味線弾いてるって言うんだっけ。」
「うん、一年生の時のキョウ様はB級下位だったからアタシが現時点で上位に入っちゃダメだと思ってね〜。ああ、勘違いしないで欲しいのは、キョウ様は能力未使用でB級下位だったから使ってたら今の貴方よりも断然強いよ、1年生の時点でね。」
フラつき壁に寄っ掛かるロイは何とか倒れる事だけは防いだようだ。顎を上げて逆転したアンリはふふと鼻で笑って、ついでに主の偉大さを話す。
「余裕出し過ぎたな、窮鼠猫を噛むだったな、陽国語で。騎士として二言はないだろう、聖騎会ならば前言撤回など出来もしない。ロイ、勝つならば良かったが敗北した貴様は罰が与えられるだろう。」
戦いを黙って見守っていたゴルグが口を挟む。
「ちぇっ…アンリ、行って良いよ。」
「ん、お言葉に甘えて。」
壁に寄っ掛かりながらも唇を尖らせるロイの首根っこを掴んで自らも退くゴルグ。アンリは能力行使の影響でフラつきそうになるが何とか誤魔化して聖騎会室の扉に手を掛けて開く。
今回はアンリ頑張る編。
ちょっとした戦闘書こうと思ったら結構な長さに…。
戦闘シーン分かり難かったらすみません!ご意見がありましたら、次回の後書きに補足で二人の天遺物の能力の説明を詳しく書こうと思います。
囚われの静流さんの運命や如何に!?は次回。
次回更新をお待ち下さい。
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