表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/24

第17話【愛物語は突然に・中編】

続けて翌日投稿。

 廊下を進むエリザ、目指すは一階の高等科一年生の教室。道行く生徒達はエリザを見ると、モーゼの十戒の海開きのように道の真ん中が開き壁へと張り付く。生徒達は左胸に右手を当てて忠誠の意を示す。

 エリザとしては道を歩くだけで大袈裟で、一々大変だろうと思うのだが、暗黙の了解みたいな物で仕方ないと気持ちを切り替える。彼女が一年生の頃からこうなのだから慣れた物だ。


「ご機嫌よう。本日はお日柄も良く。」


「はっ!エリザ皇女殿下!エリザ様の美しさは止まる事を知りませぬな。朝一で貴女様をご拝見出来て、本日は心も晴れやかな日が確定致しました。」


「ありがとうございます。騎士道に励んで下さいね。」


 生徒の前を通る度に会釈して軽く挨拶して回る。挨拶された貴族は話しかけられてから言葉を返す。貴族社会では緊急時でない限りは爵位が下の者から上の者に話しかけるのは失礼に値する為、禁止されている。

 目に映る範囲に貴族が何人か居た場合は、挨拶された者…この場合エリザの視界に入る範囲の中で爵位が一番高い者から順に挨拶せねばならない。今目に映る範囲で一番高い爵位は伯爵ご令息。もし彼を飛ばしてその下の者から挨拶してしまっては、蔑ろにしている嫌悪していると思われても仕方ないのだ。その場合は彼は歯軋りしながら去って行っただろう。

 因みに彼が遠くに居た場合は態々エリザが近寄る必要はない。爵位が下の者の敬礼を見たら、上の者は軽く頷くのが「話しかけるからおいで。」の意味になるのである。会うたび毎度やる必要はなく、日に一回切りの挨拶だ。



 お世辞の挨拶は慣れた物でどんどん済ませて進み、目的の教室に到着する。


「ごめんなさい、弟を…シュルツを呼んで下さいませんか?」


「エ、エリザ様!しょ、承知しました!おおお待ち下さい!」


 教室の前で女生徒に声をかける。エリザが中に入って直接呼んでも良いのだが、彼女が中に入ってしまったら先のように生徒達が一斉に立ち上がり敬礼するのが目に見えている。

 声をかけられた男爵ご令嬢は皇族に直接話しかけられたのが初めてだったのもあり、テンパりながら了承し慌てて教室内に飛び込み、目的の皇子へと話しに行く。


「お待たせしました、エリザ姉様。姉様が来て下さるなんて珍しいですね…いえ、嫌ではなく嬉しくて。僕としては毎日来て頂いても…。」


「…?おはようございますシュルツ、突然ごめんなさい。薬草が切れそうと言ってましたでしょう?学園の北に運動のお散歩がてら私が取って来ます、お幾つ必要です?」


 ぱぁぁああっと太陽のような笑みを浮かべて教室の中から姿を現す少年。後半はボソボソと言ってるから良く聞こえなかったエリザではあるが、要件をしっかり伝える。


「ありがとうございます姉様。ストックが尽きかけてるので、多ければ多いほど嬉しいです。30枚以上あれば充分ですよ。」


「ええ、分かりました。取って来たらいつものようにアルフに渡しておきますね。」


 薬の材料集めは初めてではない。病弱な弟の為にこうして偶に姉として弟の為になる事がしたいと行っている。

 アルフとは王家に仕える執事長の愛称で本名はアルフレッド・ロヤリテート、老人ながら老いを感じさせない佇まいと物腰の人物だ。



 要件が済み弟と別れを済まし、授業を受けて放課後。一旦城へと戻り薬草取りの準備を済ます。動きやすい学生服のままで良いだろう。


「行ってきまーす…。」


 他の人に迷惑を掛けるわけにも行かない。態々騎士に護衛を頼むのも申し訳ないので、手提げの籠を片手に城を出ようとすると一陣の風が吹く。


「エリザ様。お出かけですかな?騎士も仕事ですのでお気になさらず声をかけて下さい。」


「アルフ…。安全な北の森に少し行くだけですし、魔物避けの匂い袋も持って…」


「な り ま せ ん。」


 エリザの行く手を遮るように現れたアルと呼ばれた燕尾服の老人。先程居たと思われる後方の50m地点の床にはしっかりと足跡が残り軽く床が凹んでいる。御年78との事だが、とても老人の動きではない。

 わたわたと両手を振って準備は万端だと告げようとするが、アルフレッドは髭の端を掴み弄りながら、にっこりと笑って否定する。


「姫様、城内と言えど安全とは言えませんし、外へ行くのは以ての外。いいですか?その匂い袋はBランク上位の魔物を元に作られてます。それよりランクの低い弱い魔物ならば間違いなく逃げ出すでしょう。しかしですよ、同ランクかそれ以上の魔物を呼び出す危険もはらんでいます。もっとも北の森には奥地でも、Bランク以上の魔物は現在までの調査では確認されていませんが。」


 匂い袋により、縄張り争いの為か興味本位でかで吸い寄せられるように近寄って来るのだと語る。

 北の森は学園が近い為、騎士生達の練習場として用いられている。日々騎士達が巡回し、いつも採集している薬草の生えている森の浅い所では間引きも行われている為に高くともDランクの魔物がいる位だ。


「うう…すみません。より迷惑をかけてしまう所でした。」


「分かればよろしいですから。暇している騎士達をお付けしますのでお気を付けて下さい。ご武運をお祈りしています。」


 アルフレッドはにっこりと笑って孫を見守るような優しい表情を送ると、指笛を吹く。笛で騎士達が30人程集まって来て、エリザを囲うような配置を取る。


「皆様、本日はよろしくお願いします。」


「「「「「はっ!姫様のお力添えを出来て光栄に御座います!!」」」」」


 頭を下げてお願いするエリザに、騎士達は敬礼を取り声を合わせて一斉に返事をする。

 エリザの行きましょうの言葉を合図に北の森へと向かうのであった。



 匂い袋の効果もあり、道中は弱い魔物と出会う事はなく順調に一同は森の中を進んで居た。異変が起こったのは、浅い所にある薬草の採集地点に到着してからだ。


「これは…。」


「恐らくゴブリン共ですね。態とやった訳ではないでしょう。奴らに取っては薬草は何の役にも立ちませんから。」


 薬草の群生地は踏み荒らされていて、使い物になる物を探すのも難しい位だ。ゴブリンの集団がやったのであろう。匂い袋があると言えども騎士達は警戒態勢を取る。踏み荒らされた跡を見て訝しがるエリザに今回の臨時の小隊長が疑問に答える。


「明日我々が向かって採集してもよろしいですが、エリザ様は習い事があるのでしたね。取るとしたら来週になってしまいますよね…。」


「来週ですか…。」


 今日取れなくても、来週になれば薬草は勝手に生えて来るのだ。しかし、弟の練習用の薬草のストックが切れてしまう。だが騎士達を勝手に巻き込んで、万が一危険に晒すわけにも行かない。取りに行けないならば、帰って街で買えば良いのだ。帰ろうと口にしようとしたのだが。


「小隊長!もう少し先に進みましょう。」


「そうですよ、我々は屈強なランドガルフ騎士。ゴブリン共など塵芥に過ぎません!」


「エリザ様は直接、シュルツ様に渡したいと考えます。息抜きは大切ですもんね。」


 そう、習い事がない日の運動は普段の息抜きにもなっている。騎士達はにっこりと笑い、エリザに問題ないと伝える。小隊長もその通りだなと頭を掻いて納得する。


「よし、先へ進むぞ!警戒を怠るなよ。何があろうと姫様に擦り傷一つ負わせるなよ。はは、1㎜でも傷付けたらお前らの首が飛ぶからな。」


 冗談を混じらせながら言う小隊長の言葉に騎士達は笑いながらも武器を構え直し、森の奥へと進む。ゴブリン達は無意味な真似はしない、この時もう少し考えていれば。後日にしていれば彼らに不幸は訪れなかったのだ。彼らが笑い合う姿は二度と見れない。


 森は静けさに包まれていた。いつもならば鳥やフォレストウルフなどの鳴き声がどっかしらから聞こえるものだが、この日は静まり返り、別の場所にいるかのような錯覚に陥る。


「可笑しい…姫様、申し訳ありませんが本日は引き返します。総員!」


 森を進む程に嫌な予感が押し寄せる。第六感が、これ以上進むと取り返しが付かないと語り掛けて来る。小隊長は撤退の言葉を口に出そうとするも、時既に遅かった。


 白い巨体が飛び込んで来たと思えば、一番前方に居た騎士二人が吹っ飛び別々の木へと衝突する。大木が揺れ、ぶつかった騎士が地面へと落下。その体はえび反りになり後頭部と踵がくっついてるような人間の体で出来ない態勢になっている。

 もう一人の飛ばされた騎士は地面に足を付けているが、上半身が無く切断面から血飛沫が舞い、下半身はゆっくりと後方へと倒れる。エリザ含めその場に居た騎士達はその様子を呆然と眺める。


「きゃぁぁぁああ!」


「な、何だこいつは!?」


「体毛が白い、それに十本腕だと!?」


「グレイグリズリじゃないのか?デカい!?」


「落ち着け!奴は恐らくグレイグリズリの変異種だ。警戒しろ、推定危険度は最低Bランクだ!エリザ様に指一本触れさせるな!!隊列を変更。姫様を中央に周りを剣持ちが囲み、その前列に槍持ち、盾持ちは奴に対面して鏃の形を形成だ!」


 二人の騎士達が物言わぬ屍と化し、エリザの悲鳴を川切りに騎士達がパニックになるも、小隊長が怒号を上げて命令を下す。迅速に隊列を組む騎士達を物ともせずにホワイトグリズリは突進し四本の腕を駆使して、盾持ちを横薙ぎに倒して、足で踏み付けて圧殺。

 一斉に突き出された槍も腕でガードして防ぎ、突進して嚙み殺して行く。


「クッ…下がれ!下がりながら後退して、学園まで何とか撤退する!」


 先程までは敵を仕留めるべく行動していたが、今度は防衛に重きを置いて徐々に後ろへと下がる。本来ならば城へと撤退するべきだが、距離的に学園の方が近い。皇女を犠牲にしてしまうのは大問題であって、獲物が多い学園ならばエリザが被害に合う確率も格段に減る。騒ぎを聞き付けて、城から援軍が来れば討伐も容易い。


「わ、私の所為で…ひっく…。」


 目の前で次々と殺されて行く騎士達。彼女は騎士の、否人が死ぬ様を目にした事がない。人死にを見るのが初めてで、それも一度だけでなく続けて行われる屠殺に目を見開いて口をガタガタと震わす事しか出来ない。こいつを呼び寄せてしまったのは匂い袋の所為だと。アルフレッドの注意が思い浮かぶ。

 現状は作戦を守りに切り変えたも芳しくなく、僅かに時間稼ぎが出来ただけだ。こうして後退する中で盾持ちと槍持ちは全滅してしまった。

 当初は30人居た騎士達も残りはエリザと小隊長、剣持ちが10人と3分の1に数を減らしている。


「ふっ、我らの勝利は此奴の討伐に非ず!エリザ皇女殿下を無事、此奴から遠ざける事にあり!お前ら、国の為姫様の為、ひいては家族の為に…俺と一緒に名誉の死を共にしてくれ。」


「家族の為って、小隊長…こんな場面で脅しとは手酷いですよ。」


「ええ、ここで逃げ出したら騎士ではなくただの狼藉者として後ろ指指されながら生きる事になる。悪けりゃ一族郎党縛首だしな!」


 あっと言う間に仲間達が殺され、士気が下がるも小隊長は不敵に笑う。絶体絶命の今もつられて生き残りの剣持ちの騎士達が笑みを漏らす。


「エリザ皇女殿下。貴女様が逃げ出せましたら、我々の勝利です。」


「で、ですが…。」


「どうか、我々の死を無駄にさせないで下さい。最後まで立派に闘った勇姿を伝え、願わくは我々の残された家族へ褒美を与えて下さいませ。」


 囮として見殺しにして生き伸びろと小隊長は言う。そんな事は出来ないと言い返そうとするも、小隊長の決意をした真っ直ぐな瞳に何も言い返せない。


「今です!行って下さい!」


 合図を受け苦虫を潰したような表情で涙で泣き腫らした顔だが走り出すエリザ。小隊長はエリザを守るように立ちはだかり、騎士達は三人一組になって左右と正面から敵へと襲いかかる。

 騎士達の気合いの声とグォオオ!と獣の咆哮が響くが後ろを振り返らずに走る。


「きゃっ!」


 走り出したのも束の間、木の根に転んで躓き、木の幹に手を当てる。瞬間ブォンと風切り音が鳴ると頭上の上にはホワイトグリズリの腕の一本が振るわれたようだ。もし、躓いて無ければ上半身が吹っ飛んでいた事だろう。


「っぁあ…!」


 声にならない悲鳴を上げ木に背中を預けてズルズル座り込んでしまう。目と鼻の距離に凶暴な獣の顔、腰が抜けてしまった。

 獣を挟んだ向こう側には騎士達の物言わぬ屍。ホワイトグリズリはニヤリと笑う。


「さ、せぬ…くたばれ。天遺物…“伸槍”」


「ガルァァアア!」


 虫の息の小隊長の声が響くと、手に持つ槍が勢い良く伸びて、獣の肩部分に突き刺さる。小隊長が生きていた事に表情に希望が戻りかけるが、獣はエリザを残して反転。地を蹴り一本の腕で小隊長の頭を叩き潰す。

 全滅。30の数が居た騎士達は主君の皇女を残して皆殺しにされた。


 嗚咽が止まらない。奴は無力な私を放っておいて、食事を始めたのだ。次は私の番と自ずと分かってしまう。変えられない運命。一体何がいけなかったのか。表情は希望のきの字も存在しない。


 ガサッと茂みが揺れる。新手かと思ったが、この敵はBランク相当の魔物でやって来るのは同ランクかそれ以上の敵の筈でもうどうにでもなれと思って居た。

 しかし、現れたのは予想だにしない人物。刀片手に体中を魔物の血で濡らした騎士生、今朝話をして居た異国の青年の姿だった。

 なんで、どうしてここに?と思う前に私と目が合って、次に獣を見ると青年は一つ頷いてから、後ろ歩きで茂みの中に戻って行ってしまう。

『え…ええ…!?』も、もしかして助けを呼びに行ってくれたのでしょうか。私は殺されたとしても、この危険な魔物の脅威が他の人達から守れるならば…。

騎士さん達も意外と頑張ってくれてたんです。そして主人公が来たよ、やったーこれで楽勝で爽快に勝てる(棒読み)


思った以上に長くなってしまったので、分割します。次回こそ皇女殿下視点が終わります。別視点で語られる、恭士郎のかっこいいシーンをご覧下さい(笑)


次回更新をお待ち下さい。

初心者の作品ですが、ブックマークや評価して頂き、ありがとうございます。

皆様にはご感謝を!応援して頂けると喜びます。アドバイスや指摘なども頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ