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第16話【愛物語は突然に・前編】

久々で朝投稿です。

時間は遡り、最初は皇女様視点でのお話になります。



「んー。」


 天蓋付きのベッドから上体を起こし、両腕を上げて伸びをする。気持ちの良い朝です。

 授業が終わった後にいつもなら、雇って頂いた家庭教師の先生をお家に呼び、習い事をするのですが本日は休みの日。学園の授業が終わったらお城でゆっくりしようかなと思います。


 「ふぁ…、あ…。」


 そういえば、弟が薬草が欲しいと言ってましたね。

 ベッドから降り、口に片手を当てて欠伸をすると昨夜薬草がいやら言っていたのを思い出す。


 エリザ・ド・ランドガルフは弟のシュルツ・ド・ランドガルフの顔を思い浮かべる。

 学年は1年生で、年相応とは言えず少し幼げであどけない表情をする弟。病弱で激しい運動が出来ない弟はダンスや剣など体を動かす事が苦手だ。反面座学は得意とする。

 弟は医学に興味があるようで、本を読み12の頃には、実際に薬の調合をしている。

 体の弱い人の気持ちは病弱な自分がどれだけ大変かを知っているからこそ、医者や薬師を目指そうとしたに違いない。


 二個下なのに、やりたい事を見付け夢に向かって突き進んでいるのは立派だ。かく言う私は、二個上でもう来年には学園を卒業するのに、やりたい事も目的も決まっていない。決まっていたとしても、その道に進める筈もないのだが。

 待っているのは皇女としての立場から、政略結婚の道具としての価値しかない。他国との協定を結ぶ為か、自国の有力貴族との友好維持の為かは判らない。


 部屋に入って来たメイドに着替えやおめかしをして貰いながらも、将来の不満に心の中で溜め息をつく。


「姫様、ミリア様が食堂でお待ちしております。」


「分かりました。早く行かねば料理が冷めてしまいますね。」


 メイドの言葉にハッとして、今日はミリアとの登校日だったなと思わず頬を緩ます。

 ミリア・ド・アークライト。皇族に連なる家柄の大公家にしてご令嬢の中のご令嬢。同じ学年ですし、私と彼女は親戚の上に幼い頃からの親友でもある。

 本来ならば高等科に属するのが普通なのですが、ミリアはどこの誰とも知らない人との結婚なんて、政略結婚が嫌だと騎士の道に進み今に至る。

 努力と才覚を発揮し、“形式の上では”学園で2番目に強い騎士生として頑張っている。

 理由はどうであれ、進むべき道を見付けて歩いている姿に羨ましく思う。私は道を進まずに突っ立っているだけなのだから。


「エリザと登校する時は少し寝坊してから来れるのは助かるよ。ご飯も一緒に食べられて楽しいしね。」


「大公家の娘さんなのに、寮に住んで一人で生活してる変わり者ですもんね。」


 そう、このミリアは実家に負んぶに抱っこではなく、寮暮らしをして何でも一人で行っている。うちに来ると何もしてなくてもご飯が出て来るから、楽なのだろう。

 食事を済ませて城前にある馬車へと乗り込む。普段は馬車内まで護衛の方々に囲まれて居て、しかも皆さん張り詰めてらっしゃるので気まずい。その点ミリアと登校する日は護衛も外にいるだけなので、気が楽ですね。


 思ったよりも早くに学園に着いた。ミリアとの登校は時間があっという間です。

 早くに着いてもやる事がないので、聖騎会の仕事を行う執務室、聖騎会室へとミリアと一緒に足を運ぶ。


「おはよう。お、エリザじゃないか。いらっしゃい。」


「おはようございます。お兄様。」


「おはよう、会長。」


「おはようございます。エリザ様、ミリア様。」


 部屋の一番奥の席に付く人、腰までの長い灰色の髪は後ろ髪の上部を結ぶハーフアップにしている、眉目秀麗な青年。腰にはマスケット銃が備え付けられている。

 彼の名は聖騎会会長、皇位継承権第一皇子のヴィンセント・ド・ランドガルフは好青年で爽やかな笑みをこちらへと向ける。

 学年は一緒だが彼とは異母兄妹で、生まれが遅かったエリザの方が一応妹である。彼を言葉にして表すとしたら完璧の一言に尽きる。非の打ち所がないとはこう言う事を言うんだと実感する人物なのだ。普段は飄々としていて抜けている部分も見せているが、同じ血族であるエリザにも演技なのか素なのかは分からない。


 私の後にミリアも挨拶をする。彼の後ろにいる女性も頭を下げる。

 挨拶を終えるとヴィンセントに促されるまま空いている席へと付く。


「シュエリー、私の可愛い愛妹の紅茶は砂糖三つだよ。」


「畏まりました。殿下、可愛い愛妹とか言い方が気持ち悪いです。」


 ティーポットで、来客用のティーカップに紅茶を注ぐ女性。名前はリ・シュエリー。国籍は同盟国である【清華連邦国】の人物だ。腰まで伸びる青髪を三つ編みにしているクールビューティー。真面目だがお堅いイメージも同時に持たれてしまう。しかし意外と気さくなのは知られていない。


「うぐ!偶に辛辣だよね、君は。」


「普段は我慢しているのですが、思わず口に出てしまったようです。」


「我慢する程、普段変な事言ってる!?」


「はい。時々、ちょくちょく、専ら。」


 二人のやり取りに私とミリアは笑みを漏らす。この主従コンビはなんだかんだ言って仲がいい。

 話しながらもシュエリーは用意した紅茶をヴィンセント、エリザ、ミリアの順に差し出す。


「シュエリーさん、美味しいです。」


「そうなんだよ。シュエちゃんは紅茶淹れるのが上手いんだよね。」


「恐れ入ります。」


「あの、シュエリー…私の紅茶にも砂糖三つくらい入ってるような甘さなんだけども。」


 差し出された紅茶を飲み談笑していると、校門の方が何だか喧騒に包まれいるようだ。因みに皇子の発言はスルーされた。


「来たばかりでまだ仕事も始めてないし、私が行って来るよ。問題児くん達が一同に介してるみたいだしね。」


「ああ、長い黒髪が見えたのかい?」


 紅茶を飲みながらゆっくりと言うミリア。うん、黒髪二人と赤髪の組み合わせだよ。と答えてから立ち上がる。


「あ、ロイくんとゴルグくんが…。」


 見知った後ろ姿の二人組。校舎から意気揚々と出て行く少年は、弟のシュルツと良く一緒に居てくれる、1年生にして聖騎会の幹部のメンバーの内の一人。そしてもう一人はコンビを組む大柄な青年のゴルグだ。

 ロイはゴルグに先に行ってるように指示をして、後に続く聖騎会のメンバーにここからでは聞こえないが、何やら作戦のような物を話している。


「万が一、リア姉が来たらお前ら口裏合わせろよ。と言ってるようです。唇を読んだだけです。ああ、殿下は書類仕事に集中して下さい。」


 エリザが「え?」と声を出す前に、疑問に答える。そして横目で外の様子を眺めようとするヴィンセントにも注意を怠らない。


 遠目であまり細かくは見えないが、場を眺めていると、錚々たるメンバーが集まっている事に気付く。

 A級序列9位のゴルグ・グローリア。

序列8位の龍蔵寺静流。

序列6位のロイ・ロードス・ヴォルフガング。

序列5位のルイス・クレイル・ギルバード。

特A級序列2位のミリア・ド・アークライトも今現場に向かっている。

 学園のトップクラスが半分以上居合わせているのだ。このメンバーで戦闘が始まったら大変だ、戦闘ではなく戦争になり兼ねない。

 そして、黒髪の男性…。


「…!?」


 目が合ったような気がした。宗像恭士郎、学園の2年生で後輩。異国である陽国出身で剣の腕は相当だ。接点がなく話した事は無いが、色々と噂は聞いている。シュエリーも僅かに目をピクリと動かした。勘違いだろうがこの距離でこちらを射抜くような視線を受けたような、一瞬だけ垣間見る、どこか憂いを帯びた表情。


「宗像恭士郎…奴は危険人物です。野に放たれた首輪の付けられていない狂犬だと思って下さい。」


「そうなんですか…。」


 彼女が言うような、危険な人物だと決め付けるのは実際接した事がないから早いと思う。火のない所に煙は立たないと言うが、全てが全て真実ではないだろう。


「そうなんだよ妹よ。私からしても…序列7位のあの子も相当だけど、それ以上に出来れば戦いたくない相手かな、彼は。」


「はい、他の方々は試合になるのですが、7位のあの方や宗像恭士郎と戦う場合は死合になりますからね。再起不能にされた方も結構な数がおります。ですからエリザ様決してお一人ではお近付きにならないようにお願い致します。後殿下、サボらないように。」


 話していると、現場は一触即発の空気から一転。ミリアが出て来て場を収めたようだ。


「おや、あれはシュルツしゃないかな。」


「あ、お兄様!私行って参りますね。」


「ああ、またね。廊下を走って転ばないように。」


 喧騒を避けるようにして護衛を引き連れて登校する弟。階下に見える弟の姿にエリザは慌てて紅茶を飲みご馳走と言ってから、聖騎会室の扉を開けて去って行く。ヴィンセントはにこやかに手を振りシュエリーは頭を下げて見送る。


「にしても殿下。出来れば戦いたくない相手とは嘘おっしゃいますね。勝てるでしょう、学園最強の騎士“特A級序列1位”の貴方なら。」


「はは、嘘は言っていないよ。彼を殺してしまうのは勿体無いからさ。それに私も無傷では済まないと思うし今の段階ではナンセンスだよね。」


「殿下も警戒はしてるんですね。」


「当然だよ。あれは、リリーシャさんとティナさんかな。」


「ええ、耳長族のお姫様ですね。変わった組み合わせです、彼と彼女らに接点があったとは。」


「ほう…面白い集団だ。私も行けば良かったかな。」


「お戯れを。」


 一室のテーブルに頬杖を付き、愉快そうに外の景色を眺め呟くヴィンセントをシュエリーは溜め息混じりに嗜める。

遅れてすみません。忙しくて暫し更新が不定期になります。楽しみにして下さる方がおられましたら、申し訳ありません!


今回は時間軸が熊との戦闘前になります。次回投稿で皇女様視点が終わり、アンリ、静流、エリザのドタバタ劇をお送りします。いつか静流さんアンリ視点でも書こうかなと。

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