第15話【恭士郎がぁ〜森の中でぇ〜ヤバいのと出会ったぁ〜(某滞在記風)・後編】
また朝投稿です。
「我ら普人族は、獣人や亜人と比べると身体能力や寿命で劣る。普人族とは読んで字の如く、普通の人族だ。」
「じゃあ、しゅぞくの差でかてないの?」
「ああ、普通ならな。」
杖を付き腰には刀を携える白い髭を生やした70歳は越えているだろう老人が、椅子に座っている5歳程であろう少年に語りかける。
「それを補う為に天遺物と言う道具があるのだが、今は置いて置く。
獣人に対して、真っ向からの力比べで勝つ事は出来ないが、極限まで肉体を鍛えて近付け技術を身に付けて、負けぬようにする事は可能である。普人族の肉体が衰えるのは早い…六十五の歳が肉体の限界で衰えるのはそこからだ。それまではただの武器であろうと、殺し殺されを制する強者でいられる。」
老人は杖を床に打ち付けて言葉を切る。
「六十五歳まで、強くいられるんだね。」
「ただし、強くなるにはそれ相応の訓練が必要だ。宗像家の男子たるもの、陽国一の兵とならねばならぬ。
海越諸国の動きが怪しいのでな、計画を早める必要が出て来た。
お前は未だ五つだが、病弱な兄に変わる強者に儂が作り上げようぞ。王とは力が問われる物。これは強制だ…逃げる事は許さぬ。今日から儂の事は祖父とは思うなよ、儂も孫とは思わぬ。」
この時はまだ少年はおじいちゃんって思わないってどんな事だろうと、呑気に考えていた。
その日から、祖父…龍源の拷問すら生易しい訓練が始まる。
「ぶ…あぐぶ…おじ…くるし。」
「水の中では海人族には勝てない。勝てないからと諦めるのか?より長く水中で潜っていられれば、活路が開ける事もあるやもしれん。」
「ぱぁっ!…ぐぐ…。」
水の入った桶の中に顔を突っ込めさせられて、意識を失うタイミングが分かってるかのように首を掴まれ戻される。それの繰り返し。
「獣人に勝つにはどうしたら良いか?答えは簡単だ。肉体を鍛えに鍛え抜けば良い、普人族の限界を超えろ。足りない物は戦闘技術でカバーするだけだ。」
「がっ…ぐぅ…。」
「寝てる程余裕があるのか?」
腕立て伏せや腹筋に重い石を持つ筋トレなどを始める時。動きが鈍くなると杖で背中や頭を殴られる。
戦略を学ぶ時間が一番楽だった。間違って殴られる事はあるけど、体が痛くないから。
勉強の後が一番嫌いな時間だ。肉体トレーニングよりも痛いし辛い。龍源は死なないように耐性を付ける訓練だと言っていた。彼曰く、死ななければ次があるとの事だ。
「ぐぁぁああ!」
「叫ぶな!敵に弱味を見せると付け込まれる。龍蔵寺、少し出力を上げろ。」
「…はっ!」
「これは主の娘と仲良く出来てるようだな。娘もしっかり鍛え上げとけよ。弱卒はいらぬ故。」
「仰せの通りに…。」
壁に張り付けにさせられて、電流を浴びせさせられる。もう一人のおじさんが持つ槍から紫電が迸り僕の体に痛みが走る。叫ぶと杖で引っ叩かれる。
電流は元より、鞭で体を傷付けられたり何て序の口で、熱した鉄の棒を体に押し付けられたり、骨が見える程に刃物で切られたり、爪を剥がされたり指や腕などの体の骨を折られる事も屢々。治療も死なない程度しか施されなかった。
またある程度、初期の初期の体術や武器術などの戦闘技術を学び納めた後は、陽国が誇る最大の山。標高3800mの不死山の樹海に小太刀や忍具一式の武器だけを持たされて放り込まれる。龍源も同行するが、手助け一つしてくれずに拷問と言う名の訓練も続く。
「耳長族は森のエキスパートだ。奴らに対抗するにはどうするか。森の事を知るしかあるまい。1年間生き延びろ、最低限森について理解出来るだろう。」
不死山が最初だったが、砂漠地帯や危険な魔物が生息する無人島、国内の戦場、様々な危険地帯に年単位で連れられ放り込まれた。
生き物を殺す行為も強要させられる。鼠型の小型の魔物から始まり対魔物との殺し合い。死刑囚を何人何十と、人間の体を知る為に小太刀を筆頭に様々な武器で解剖させられ、どうすれば人は死ぬのかと勉強、実戦させられた。流石に獣人や亜人などは陽国には居なかったから殺した事が無かったけど、体の構造はほぼ変わらないらしいと教えられた。いつか海越諸国に渡った際にやれと、宿題を出された。
目の前には先程までの老人がいるも、顔も皺くちゃで手足が震えている。杖をついて歩く事も出来ずに、布団に寝た切りだ。起き上がり、這うようにして近くにある刀掛け台にある一本の刀を両手に取る。
「敗戦し、我らが陽国も属国の仲間入り。儂が生きてる間にはもう取り戻せまい。恭士郎、お前ももう十四…儂が教えられる事はもうない。」
床に正座し、龍源の言葉に黙って耳を傾ける。
「孫に祖父らしい事をしてやれなかった老耄を許せ。もう、儂は長くはないだろう。逝く前に最初で最後の贈り物だ…この刀は天遺物、名は“黄泉”備えられた能力は…____。」
…______________
「っ…!」
意識が飛んでた。恭士郎の幼少期から始まり過去のフラッシュバックをしていたようだ。頭が痛い。どんだけ寝てた?一瞬にも数時間にも感じる時間。所々の過去の記憶を切り取り、脳髄に叩き込まれた感じだ。
俺が辛い訓練の過去を追体験した事により、脇腹の切られた痛みも通常より軽く感じる。物凄く痛いし、腹下した時より何倍も痛いし熱いが、我慢出来ない程じゃない。
ぶっ壊れちまったが、シャツの下に鎖帷子を着込んでた事もプラスに働き致命傷は避けられたようだ。うげげ…腹部が切り裂かれ抉られ骨見えてるけど。
「っ…ぁ。んのやろ…。」
こいつの事すっかり忘れてた。
目を覚ました俺を見て、ホワイトグリズリは服を爪で引っ掛けて持ち上げる。そして、他の三本の腕で体を横薙ぎに打つ、打つ、打つ。
『うわぁ、ぁあ…この野郎め…!もうやめてよ、怖いよ…助けてよ。』こいつ、態と手加減して嬲る気だ。普通の人間を殺さぬよう、加えるダメージを計算して半分以下の力で俺の体に殴打を繰り返す。流石にタフな俺でも、身体中ボロボロになるのは免れない。
怖いよ、何で俺がこんな目に遭ってるんだよ。俺が何したんだよ、誰か助けてよ。騎士団とか、人を助けるのが仕事だろう。駆け付けて来いよ。
情け無い事を、助けに来ない誰かに八つ当たりして内心苛立ち弱音を吐く。絶望の表情を浮かべるのが普通だが、内心とは裏腹に俺は不敵な笑みをホワイトグリズリに返す。訓練で学んだ事だ。弱味を見せると付け込まれる事を身を持って知っているのだ。
「グォォオオ!」
俺の表情に苛ついたのか、奴は殴るのを止めて俺を思い切りぶん投げる。
「が…は…!」
大木に背中から衝突し、肺から息が漏れる。呼吸出来ねえ…背骨も、イッたか。
「逃げ、ろ…!」
『無理、逃げるぅ!俺、逃げるぅぅ。』大木に背中を預けてふらつく体を動かして、足を一歩踏み出す。逃走しようと情け無い声を上げたつもりが、何だか誰かに言ってる風な感じに叫んだように変換された。
奴は口を開けて、とうとう俺を捕食する気のようだ。しかし、俺の口元が釣り上がり凶悪な笑みを浮かべる。恭士郎、何でこんなピンチでもお前は笑っていられるんだ?
「っ…に、逃げません!貴方なら、倒せます、よね。」
石がホワイトグリズリの頭へと当たる。コツンと小さな音、ダメージは皆無だろう。
茂みから出て来た皇女様。小鹿のように足がプルプル震えている。無理も無いだろう、戦う手段もないのにこんな危険な奴の前に立ち塞がって、怖いだろう、恐ろしいだろう。ボロボロの俺を見て、何の根拠があるのか、いやないのだろう…倒せると言ってくるのは恐怖を打ち消す為のささやかな口実で、自分に言い聞かせているだけだ。
こんな、女の子が戦ってるのに、俺は何してるんだ。このまま美少女を見捨てるのか?男なら最後まで戦えよ。恭士郎の体になってるならば、抗えよ。
俺なら利用価値が無ければ助けないだろうけど、俺は利用価値がなくとも、可愛い女の子は見捨てない。
“俺”なら出来る!
「…当たり前だ。俺は宗像恭士郎だからな。」
「宗像、さん。はい…!」
石をぶつけられた事にホワイトグリズリは先ずは皇女様を殺そうと進行方向を変え背を向ける。ボロボロの俺を後回しにしたようだ。
手負いの獣程恐ろしい物はないんだ。お前が相手している敵も捕食者だと言う事を知らない。
突っ込んで来るホワイトグリズリに皇女様は後退りながらも、奴をしっかりと見据えている。いや、奴の後ろにいる俺をだ。その瞳には奴の姿を映していない。
背凭れにしていた大木に縄を巻き付ける。そして走り出そうとした奴の足首に連結している鎌を正確に投げ付ける。
「グァァア!」
「最初に言ったよな…」
鎌が巻き付くように奴の足首に絡まり、縄に引っ張られ転けそうになったが耐えたようだ。
木を蹴って加速し、奴の前に躍り出て突っ立ってる皇女様を左腕で抱き寄せる。ホワイトグリズリは四つの腕を駆使して攻撃に移るようだ。
愛刀の黄泉の、天遺物としての能力の“一つ”を発動させる。
透過する奴の身体。人体模型の皮膚や血管が目に映ると言えば分かりやすいか。筋肉の動きが手に取るように正確に予測出来る。負担が小さい方だが、目と頭に痛みが走るが今は無視だ。
最小の動きで四つ腕の猛攻を掻い潜り、目に向かって体ごと突っ込むように突きを放つ。皇女様の体重も重りがわりに利用する。
「狩る者と狩られる者、獲物はどちらか分からせてやると…!」
刀は奴の片目に突き刺さり脳を貫き後頭部から刃先が飛び出す。
しかし、即死しなかったのか噛み付き攻撃をして来る。狙いは近くにあった皇女様の首だ。皇女様をマミらせる訳にもいかないので体を入れ替えて、俺の肩を代わりに噛ませる。
「遅ェぞ。静流、アンリ。」
「ハァァァアア!」
「首ちょんぱ〜!」
牙が食い込むが肩が噛み砕かれる前に、駆けて来た静流さんの紫電が走る槍がもう片方のホワイトグリズリの目を貫き、アンリの持つ二本の手斧が叩き折るように奴の首を跳ねた。
今回はダイジェスト風に恭士郎の過去を。
ヘタレの癖に場の雰囲気に熱血入ってしまったかな。
ポッと出の皇女様がヒロインしてるのもどうかなーと悩みましたが結局執筆に。
次回は女の子三人いますし、女三人揃うと姦しいお話です。




