聖なる夜の贈り物
2011年のクリスマス頃に書いたはじめての童話風小説です。
一.
ある街外れのお屋敷に幼い双子の魔女が住んでいました。
二人の姿は鏡に映したようにそっくりですが、一つだけ違っています。
瞳が赤いのがお姉さんのステラで、青いのが妹のフロラです。
「ねえ、カレンダーを見ていたの?」
「うん。カレンダーを見ていたの」
今日は十二月二十三日。
明日はこの国の王子様のお誕生日で、十才になった二人は大人の魔女や魔法使い達と一緒にお祝いのパーティにお呼ばれしているのです。
「あたし達のプレゼント、王子様は喜んでくれるかしら?」
妹のフロラが不安そうに尋ねました。
「あたし達のプレゼント、王子様はきっと喜んでくれるわ」
すると、お姉さんのステラが力強く答えます。
実は、ステラとフロラは王子様のために一生懸命考えた、とっておきのプレゼントを用意してあるのです。
「もう寝ましょう。明日は早起きしないといけないんだから」
「もう寝ましょう。明日は早起きしないといけないんだものね」
そう言ってステラが真っ白なカーテンをさっと閉めると、フロラは枕元の明かりをふうっと吹き消します。
それから、ふかふかのベッドの中で二人は一緒に目を瞑りました。
二.
あくる日、朝早くに起きたステラとフロラはまず、余所行きの黒いローブに着替えました。
それから黒いとんがり帽子も被って、真っ黒な革のブーツも履きました。
仕上げに柊のステッキを持つと、二人は向かい合ってお互いの姿を見比べました。
「あたし達、全部お揃いだね。えへへ」
「あたし達、全部お揃いだね。えへへ」
なんだか嬉しくなってきた二人は手を繋ぎ、ルンルン気分でお屋敷を出発しました。
目指すは街の真ん中にある大きなお城です。
「ねえステラ、見て。すっごく綺麗」
小高い丘の天辺まで歩いてきた二人は、立ち止まって街の方を見下ろします。
丘からは、王子様をお祝いするためのリースやツリーの飾りが街のあちらこちらに飾られているのが見えました。
「本当ね。でも、あたしのおまじないでもっと綺麗になるわ」
ステラは自信たっぷりにそう言うと、今度は空を見上げました。
「ねえフロラ、見て。すっごく綺麗」
フロラも同じように空を見上げると、真っ青に晴れた冬の空がどこまでも続いているのが見えました。
「本当ね。でも、あたしのおまじないでもっと綺麗になるわ」
フロラも自信たっぷりにそう言うと、二人はまたお城を目指して歩きはじめました。
三.
「ねえ爺や、どうして蝋燭飾りに火を点けないの?」
お城の庭に生えている樅の木を指差して、王子様が尋ねました。
樅の木には蝋燭や林檎など、色とりどりのオーナメントが飾りつけられています。
「冷たい風が灯した火をすぐに吹き消してしまうからじゃよ」
「ふうん。じゃあ、どうして本物の雪を飾らないの?」
今度は雪の代わりの綿飾りを見ながら王子様は聞きました。
「積もった雪はすぐに解けてしまうからのう。ほっほっほ」
「ふうん、つまらないね」
王様の部屋に飾られていた、火の点いた蝋燭と本物の雪で飾られた美しい樅の木の油彩画を思い出しながら、王子様はため息を吐きました。
四.
夕方になり、お城では王子様のお誕生日パーティがはじまったようです。
「王子様、お誕生日おめでとうざいます」
大広間の一番端に並んでいる、髭を生やした年寄りの魔法使いが王子様に小さな木箱を手渡しました。
王子様が蓋を開けるとそこから七色に光る宝石が顔を見せます。
「ありがとうございます。今夜は楽しんで下さいね」
「ノエル様、お誕生日おめでとうございます」
お次は二番目に並んでいる、黄金色の髪の毛が腰まで伸びている若い魔女がパチン、と指を鳴らしてみせました。
すると、昼間の空のように真っ青な色をした薔薇の花束が王子様の目の前に現れます。
王子様は両手を伸ばしてそれを受け取ると、目を丸くしました。
「王子様のお年と同じ、十四本を用意しましたのよ」
「とても綺麗ですね。ありがとうございます」
そうして、王子様に招待された魔女や魔法使い達は次々と王子様にお誕生日プレゼントを渡していきます。
長生きの薬や子供のドラゴンなど、大人達が用意したプレゼントがあまりにも立派だったので、ステラとフロラは少し心配になってきました。
「あたし達のプレゼント、大丈夫かなあ」
「あたし達のプレゼント、大丈夫じゃないかも」
五.
「さあ、次は君達の順番じゃぞ」
とうとう、二人の順番がやってきました。
召使いのお爺さんに急かされ、一歩前に進み出たステラとフロラはまず、ローブの端を指で摘み、お行儀良くお辞儀をしました。
「王子様、お誕生日おめでとうございます」
「王子様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「これがあたし達からのプレゼントです」
「これがあたし達からのプレゼントです」
そう言って、二人はお揃いのステッキを天井にかざします。
ステラが呪文を唱えると、胡桃色の髪の毛がうんと逆立ち、金色の輪っかがステラの足元から広がりはじめます。
輪っかが壁に掛けられているリースに触れると、リースに飾られている蝋燭にポッ、と火が点きました。
それに続けて、フロラが呪文を唱えます。
するとやはり、胡桃色の髪の毛がうんと逆立ち、今度は銀色の輪っかがフロラの足元に現れます。
輪っかはどんどん広がり、大広間の壁いっぱいまで広がった後、見えなくなってしまいました。
「王子様、お外を見てみて下さい」
「王子様、お外を見てみて下さい」
二人に促されて王子様が窓から外を見ると、なんと、さっきまであんなに晴れていた空が灰色に曇り、チラチラと雪が降りはじめているではありませんか。
そのうえ、中庭に生えている、あの火が点いていない蝋燭と偽物の雪で飾りつけられていた樅の木に、蝋燭の火が確かに灯っているのです。
六.
それだけではありません。
王子様が街の方へ目を遣ると、双子の光る輪っかが屋根の上をすいすいと走っていくのが見えました。
お姉さんの金色の輪っかが走った後には金色の星が灯り、妹の銀色の輪っかが走った後には銀色の花が舞っているのです。
やがて、街中を飾り終えた双子の輪っかは小高い丘の向こうにあるステラとフロラのお屋敷にたどり着いたところで、すうっと消えて無くなってしまいました。
「これが君達からのプレゼントなのかい?」
「はい。あたしが蝋燭に消えない火を点けるおまじないを掛けました」
「はい。あたしが空から解けない雪を降らすおまじないを掛けました」
王子様は窓の方を向いたままなので、二人は王子様の様子を見ることができません。
二人は胸をドキドキさせながら、どうか王子様が喜んでくれますように、と心の中で何度もお祈りをしました。
「お父様の部屋にあった絵と同じだ。僕はずっとこれが見たかったんだ。ありがとう、小さな魔女達」
そう言って振り返った王子様の翡翠色の瞳があまりにも優しく微笑んだので、二人の胸は嬉しさでいっぱいになりました。
やがて、口を噤んで我慢していたフロラの青い瞳からポロッと涙が零れると、同じようにステラの赤い瞳からも涙が一粒、零れました。
七.
その日の夜、街外れのお屋敷のベッドの中でぐっすりと眠る双子の魔女の元に、若いサンタクロースがやってきました。
窓の外では、ステラの灯した明かりがフロラの積もらせた雪をぼんやりと照らしています。
「今度は僕の順番だね。メリー・クリスマス」
二人の枕元にプレゼントをそっと置くと、翡翠色の瞳をしたサンタクロースはまた、優しく微笑みました。
お読みいただきありがとうございました。
設定
ステラ 性別:女 年齢:10才
容姿:胡桃色の髪に赤色の瞳
街外れのお屋敷に住む双子の魔女のお姉さんの方。やや勝気。
名前はラテン語で星の意(Stella)。
フロラ 性別:女 年齢:10才
容姿:胡桃色の髪に青色の瞳
街外れのお屋敷に住む双子の魔女の妹の方。やや内気。
名前はローマ神話の花の女神から(Flora)。
ノエル 性別:男 年齢:14才
容姿:翡翠色の瞳
ステラとフロラが住んでいる国の王子。サンタクロースの家系に生まれる。
名前はフランス語でクリスマスの意(Noel)。