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先に行け

派生世界―『L-328F-P926』 一二月二十六日 一八時三二分(現地時間)

静岡県 富士市 山頂付近 (並行世界)



「さて、長かったな」

「どこが長いの?」

「たかだか100kmほどの距離を移動するのに十五分もかかったんだぞ。お前らが本来なら体を順応させねえといけねえもんだからわざわざ並行世界も作らねえといけなかったし」

何を言ってるんだという心の声がキリアの表情から見てとれる。

キリアが富士を目指すと口にしてから、動き出すまでに約四十分、キリアが並行世界を生成し移動を始めてから十五分程度で富士山頂付近に到着した。

「お前の時間間隔は絶対に間違っている」

「飛鳥、ひとつ通告しておく、お前が俺たち、親父たちみたいな仕事がしてえなら自分の常識を疑うことから始めるんだな」

そう言いながらキリアはポケットに手を突っ込んで首を鳴らす。

「たとえば、この地面から人が出てくるとかな」

「はっ?」

言葉と同時に、地面が爆発した。

「さてさて、幹部さんのお出ましだ」

「聞きしに勝る生意気っぷりだな」

地面から出てきた男は、少し長めの緑髪を揺らして右手の炎をキリアに向けて放った。

もちろん、キリアには当たらなかったが。

「ほぉ、だれから俺のことを聞いたんだ?それに、どうやら学校から俺たちをつけていたようだが、東方死覇の存在を知ってなお挑んでくるとは…、バカか大バカか」

「元、だろ。そんな過去の遺物は博物館にでも飾っときな。それに、現役だろうと関係ない。『七色の宝石』最高幹部リグ=ペルベット=ガウィン。七つの宝玉の一角、ルビーの名において死覇ごときに遅れはとらん」

「なるほど、自ら自分の組織構成をばらすほどにはバカなわけだ」

「貴様…」

リグは歯ぎしりをし、その表情から明らかにキリアに憎悪を抱いていることは明らかだが、キリアとは二メートルほど距離をとっており冷静さを残していることもまた事実である。

「マナ、先に行け。おそらく『世界の種』は山頂だ。さっさとコーティングしろ」

「了解」

「大丈夫ですか?」

レイトは珍しく身を案じる言葉をかける。

「まあ、元東方死覇がいるんだ。元でも、それくらいは問題ないだろ。任せたぞ」

「いや、そちらのことを言っているのであって」

「よかろう」

「マシューさん」

「ここで議論している時間が惜しい」

マシューは一度頷き、マナたちは山頂を目指した。もっとも、ここでリグが出てこなかったとしても高山病の危険から考えて、統一世界の人間が一度並行世界から出る必要がある。並行世界を構成しているキリアが並行世界から出ていくことは出来ないので、もともとマナが『世界の種』をコーティング、つまり『世界の種』を封印する算段だった。

ちなみに、封印の有効期間は統一世界標準時間で二十年である。つまり今回封印に成功すれば二十年は何人たりともこの『世界の種』に手を出せないということだ。

とにかく、マナたちは山頂に向かった。

「随分となめてくれたものだな。東方死覇が相手ならともかく、ケツから数えた方が早い隊の隊員一人だけだと?」

「悔しかったら俺に本気出させてみな」

この会話の間、もちろんキリアはずっと手をポケットに突っ込んだままだ。

「油断してると長生きできねえぜ」

言葉が伝わるより早く、リグの本体はキリアの背後に回っていた。

「分かってんなら油断すんじゃねえよ」

そしてキリアが言葉を返した時にはリグの身体は三百メートルほど先の地面にクレーターを作っていた。

「光神系か。悪くねえ速さだ」

「そんなバカな。光速移動のスピードについてきただけでなく光化する前に回し蹴りを三発入れるなんて、人間業じゃねえ」

それでもすぐに立ち上がれるあたり、リグもまた幹部まで上り詰めただけの実力を持ち合わせていることが分かる。

「じゃあ案外、俺は人間じゃないのかもな」

「ふざけるなぁああああっ!!!」

やはり言葉を残して、リグの身体はキリアの眼前に移動する。

「なぜだ?お前は自分が何者かを自信を持って言えるのか?」

キリアは半身を引いてリグの拳をかわす。と、キリアが同時に人差し指だけ伸ばした右手を下に向けると、リグの身体は再び地面に叩きつけられた。

「くっ、重力使いか?」

「短絡的な奴め」

神能と魔術の関係上、多くの魔術は神能に対して圧倒的に不利な存在である。たとえば、炎神系の神能と炎術では炎術は神能に飲み込まれ、炎神系神能に水術をぶつけると即座に蒸発する。

その中で、重力系魔術は神能に対して有効な数少ない魔術のひとつだ。

これは重力系の神能が過去に一件の例しかないためだった。つまり、同系統、対抗系統の少ない魔術はある程度神能と渡り合える武器となりえる技術になりうるということである。

「何を」

自らの身体を光にして重力場から何とか逃げ出したリグは、実体となると同時に両刃の大剣を異空間から取り出した。

「神具『鯨刃』だ。とれ、お前も持っているのだろう?」

「ふむ」

キリアは少し考えたふりをすると、うつむきながら口角を上げると、キリアの右手にキリアの背丈ほどもある刀が現れた。

「後悔するなよ」

「だまれぇぇぇぇぇぇぇ!」

つっこみながら鯨刃を振り下ろすリグの攻撃を、キリアは逆手に右手一本で持った刀で防ぐ。

「よっと」

キリアは受けた刀をそのまま地面に突き刺し、突き刺したまままるで跳び箱を越える様に軽やかに跳躍し鯨刃の上に乗り回し蹴りをリグの頭にくらわせた。

「おっと、そうか、こいつは光神だったな」

回し蹴りをくらったリグはテレビのノイズのように一瞬顔がぶれたが次の瞬間には元に戻っていた。

「じゃあこいつだ」

そう言って突き出したキリアの拳は見事にリグの顎を捉えていた。

「ガハッ」

「殴られたのは初めてか?」

「何を…」

威圧的な言葉と裏腹にリグの足元はおぼつかない。切れた唇の血を吐き捨てると少しは冷静になった頭で考えた。

「まさか重力魔術か」

「ご名答…」

背筋に寒い物を感じて一歩下がる。

「光が重力で曲がることは知ってるよな?重力魔術は物理的引力だけでなく、自身の身体を物質変換させる魔術、神能を狂わせる。一説によるとマガリア因子が重力魔術によって術者の意図に反する反応を示すことによって変換が不安定になるため…らしいがそんなことはどうでもいい」

マガリア因子とは、人間が神能および魔術を使用する際に必要となる因子である。知覚系の神能を持つ者は神能あるいは魔術を使う際に、これが反応することを感知することができる。ただし、これは『ある』と分かるだけで、その存在は証明されていない。故に物質としてあるかどうかが分かっていないが、これを一部の学者の間で仮に、『マガリア因子』と呼んでいた。その後、三年前あの事件によって一気に世間一般に広まることになる。

「神具じゃねーから決定打は与えられないが…、お前を逮捕するだけなら十分だ」

「なめやがって」

「遅えよ」

一瞬でリグの背後に回り込んだキリアは回し蹴りをリグの脇腹目がけて放った。

「やめだ、やめ」

「何の話だ」

回し蹴りを盛大に食らって吹き飛ばされたリグはすでに満身創痍だった。

「三流にこれ以上かける時間は無い。とっと捕まれ」

キリアはリグが吹き飛ばされた拍子に地面に刺さった鯨刃に寄りかかると、左手の人差し指と親指で二つに折った。

「バカな、神具を破壊するなんて…。これじゃあ、まるで…」

リグの次の言葉は無かった。

「それを言うのは野暮ってもんだぜ、お兄さん」

倒れこんでいたリグに高速、いや、光速で膝を鳩尾にお見舞いしたキリアは立ち上がると山頂を仰いだ。

「さて、向こうはどうなったかな?」





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